第157話 魔蟲の報告書(速報)
「南ちゃんが魔力を使ったのも、あの4人の訓練を見ていて、つい手本を見せたっていうのが実情だから、その辺りで許してあげなよ。
南ちゃんもしっかり反省したみたいだから、今度は安静にしてくれるよね」
私達の様子を見守っていた南雲さんが仲裁に入った。
「それに、そろそろ門限が迫っているから寮に帰った方が良いよ」
「そうですね。そうします」
そう言って席を立ち、寮に帰るために部屋を出ようすると
「そうそう、先週の魔蟲の速報レポートが上がっていたよ」
「分かりました。戻ったら確認します」
そう言い残して部屋を後にした。
寮の自室に戻り、シャワーをもう一度浴び直してから対魔庁の
この通信はIP-VPN回線を使用し、専用の解除鍵を用いる暗号通信で安全を確保している。
また、個々のIDに依って開示されている情報も制限されている。
なので権限の無い人は、
1つ目のレポートは、
もう一つは、警務課の物だ。
警務課は、庁内の警察の様なところだ。
病理検査室のレポートを読むと、今回の魔蟲は吸魔蟲の一種で既知の吸魔蟲より
吸魔蟲は、人間や動物に卵を5~10個植え付け、体内で
孵化後、宿主の魔力を栄養源にして4週間から6週間で成虫になり、宿主の体を食い破り飛び立つ。
成虫はブユみたい姿だが、大きさが5~10cmもある。
多くの宿主が、成虫が飛び立つ際の衝撃で亡くなっている。
今回見つかった魔蟲の特徴として
1.X線を透過し易く超音波を吸収する体。
2.寄生主から取り込んだ魔力と同質の魔力波長を出す。
3.免疫細胞を無効化する。
4.魔力編波を透過する。
これでは、病院の検査で発見出来なかったのは仕方が無い。
X線・超音波検査、血液検査でも異常を発見出来ないのだからお手上げだろう。
魔力触診等で使われる魔力編波を透過するのでは、鑑定士や治癒士で見つけられないのも痛い。
検知方法は魔物特有の瘴気を検知するしか無いが、私が検知した時も極微量だった。
あの微量の瘴気を検知出来る探知能力者と言うと数が限られてくる。
それに、医療現場に瘴気を検出出来る能力者自体が居ないという問題もある。
まあ、今回の魔蟲に対応した検査機器を
また、捕獲された魔蟲は、宿主に寄生してから3週間位経過していると思われ、あと2週間以内に成虫化すると思われるか。
3人から摘出された吸魔蟲が同一個体が産卵したものかとか、他の個体のものとかの情報が無いから、まだ調査中なんだろう。
警務課のレポートを読んで分かった事は
1. 入院していた3人の防衛課隊員は、それぞれ別の駐屯地に勤務している。
2. 3人に面識が無い。
3. 3人が入院したのは駆除した日の1週間前で、2週間前に意識不明状態になった。
4. 根岸3曹が、
5. 3人の内1人が、根岸3曹と面識がある事が確認された。
6. 各駐屯地内外・病院内外に他の接点が無いか調査中。
7. 3人の意識が戻り回復に向かっているが、まだ事情聴取を行っていない。
8. 同様の症例は、件の3人以外に確認されていない。
警務課でも根岸3曹を重要参考人として考えている様だ。
一連の行動を見ると色々と怪しい人物に映る。
ただ、魔蟲を取り出した時の反応を見ると、魔蟲の存在を知らなかった様子だった。
そして、この件を偶然と考えるには被害が少ない。
故意の可能性が高いが、根岸3曹以外に目立った人間が居ないのもおかしいし、3人の共通点も書かれていない。
このレポートに記載していないだけで、候補や共通点はあるのかもしれない。
もっとも関係者限定とはいえ、これ程早くにレポートを公開している以上、根岸3曹を犯人とは考えていないのだろう。
むしろ、根岸さんを囮に使う気なのかも知れない。
管轄外だから警務課に口を出す事は出来ない。
その内、治療者たる私の所にも事情聴取が来るだろう。
しかし、
こちらは、相当難航していそうだな。
通信を切断後は、普段通りに過ごした。
翌日も普段通り朝の自主訓練まで済ませ、田中さん達を迎い入れ訓練を施す。
この時に、南雲さんも付いてくるとは思っていなかった。
平田さんと南雲さんが見学し、田中さん達4人と護衛役2人を教導する。
護衛役の2人も自力で魔力調律状態に成れず、田中さん達4人と同様に私が干渉して魔力調律状態にさせる。
二人の維持時間は30秒位だったが、訓練中に自力で魔力調律状態に成れるようになった。
田中さん達はまだ自力で魔力調律状態に成れないが、維持時間は13分を記録した。
護衛役の2人は、田中さん達の維持時間に驚きと悔しさを滲ませ、田中さん達は護衛役の2人が自力で魔力調律状態に成れたのに悔しさを滲ませていた。
10時位まで競い合う様に訓練を続けたが、流石に集中力が落ちたので終了にした。
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