第158話 能力者と非能力者
訓練を終了したので解散したのだが、全員宿泊棟の南雲さんの研究室に来ている。
私が勉強のために宿泊棟に行くと言ったら付いてきたのだ。
田中さん達に
「私の勉強を見ても楽しく無いよ」
と言ったのだが
「どの様な勉強をしているのか見てみたい」
と息巻いていた。
南雲さんは
「いいよ。見に来て」
と勝手に答えていた。
研究室に設置されている高圧縮学習装置に座り、測定機器とゴーグルを頭に載せ、ヘッドホンを首にかける。
その横で、南雲さんが高圧縮学習装置の説明をしている。
「この装置は高圧縮学習装置と言って、短時間で高レベルの教育を受ける事が出来る装置です。
この最新型は、なんと120倍まで圧縮可能なんです。
なので、1分の学習で2時間分の学習が可能な代物です」
田中さん達だけでなく護衛役の人も驚いている。
「高圧縮学習は、従来からある倍速学習や速聴学習比べ大幅に向上した学習効果が得られます」
と、自信満々で話している。
「高圧縮学習装置が、実用レベルになったのは最近のハズですが?」
私のツッコミに対して
「そりゃあ、基礎理論を提唱したのは私だもの。
東海支局
胸を張って宣言している。
私はため息をついてから
「言っておきますが、高速思考や魔力への耐性が高く無いと2倍未満でないと耐えられません。
120倍なんて速度は、殆どの人が耐えられませんよ」
「分かってるわよ。
そこは改良が必要よ。
この最新型は、使用者に着けたセンサーから、安全かつ効果的な状態を維持する様に自動調整する機能が組まれているわ。
だから、あくまで最大120倍というだけ。
それに、実際120倍で動かせる人間となると神城さんや伊坂君クラスの人間に限られるわよ」
と言って、カラカラと笑い出した。
医薬課の人だと思っていたが、
「何故、高速思考や魔力への耐性が高く無いとダメなんですか?」
都竹さんの質問に
「この高圧縮学習装置は、映像と音声を魔力波に変換して使用者の目と耳に送り込む装置よ。
そして、圧縮率が上がるとそれに比例して情報量と魔力が増える。
それを処理する能力と魔力に耐える力が必要となるわ。
だから、被験者の耐久力を超えて照射し続けると、被験者の脳を破壊する危険があるのよ。
その様な危険もあるけど、適正範囲内ならなんにも問題は無いわ」
土田さんが手を上げて
「何故、この様な装置を作ったのですか?」
「元々、学習装置として作った訳では無いのよ。
本来の目的は失敗したのだけど、副次効果として学習装置としての効果が認められたから、そちらの研究・開発を続けられているだけよ」
ちょっと苦虫を潰した感じの返答だった。
「本来の目的とは?」
「それは、非能力者の覚醒」
『非能力者の覚醒?』
私と南雲さん以外の人は疑問で一杯だ。
私は、
「現在、非能力者と呼ばれる人達が覚醒して
「何故、そんな物を作ろうとしているのですか?」
「私を始めとした非能力者は、君達能力者が羨ましいし憧れなのよ。
私も
にこやかに告げたが、その直後真面目な顔に戻り
「ある一定以上の能力者相手では、銃を始めとする通常兵器は通用しない。
特殊兵器や戦略級兵器等を持ち出す必要があるの。
能力者の中にも悪事を働く人も居るし、突発的な衝突で力を振るわれるかも知れない。
だから、私達非能力者にとって、能力者は恐怖の対象なのよ。
それは、歴史を見れば分かるわ。
能力者が出現してからは、各国政府は積極的に能力者を国家の枠組みに取り込んでいる。
その方法は様々だけど、共通しているのは能力者と非能力者を分断し、能力者を国家戦力として組み込んでいる事よ。
当然、この国でも同じ。
他国では軍に所属するけど、日本では対魔庁に所属するという違いわあるけどね。
近隣国の様に、人権や権利そのものを奪う様な事は無いけど、人権や権利が非能力者に比べて制限され、義務を強要されている。
例えば、幼い頃から能力者は、戦う義務がある様に
一見選択の自由がある様に見えて、殆どの選択肢を選べない様にされているのが現実なの。
現状を改善する為、岩倉長官達が色々と動いているけど、目立った成果は上がっていないわ。
理由はいくつかあるのだけど、一番は恐怖心なのよ。
圧倒的に強大な力を持った能力者そのものに恐怖心を抱き、個人ではなく能力者そのものに対して疑心暗鬼になっている。
だから、彼らは自分達が安心する為に能力者を隔離する事を望み、その力が自分達に向かない様にする為に、世論を操作している。
その状況を改善するには、能力者や
これまで国・地方問わず、政治に直接携わった能力者も居ないわ。
なぜなら、過去に何人かの能力者が立候補したけど、落選しているからなの。
この事からも分かる様に、社会は能力者を受け入れていないのよ。
非能力者にも理解者は居るけど、数は多くないわ。
だから、能力者や理解者の言葉は、その他大勢の非能力者には届かないの。
だったら、能力者の数が増えれば良い。
弱くても
そして、中には
そうなる頃には、能力者と非能力者という区分も無くなり、平等になると思うわ。
それが、私の望みよ」
「能力者の力が強大と言っても、ほんの一部の人達だけだし、殆どの能力者は一般人と大差無いのにですか?」
都竹さんの疑問に対して
「その認識自体が間違いよ。
例えば、ランクF1の身体強化でも、非能力者のトップアスリート並の力がある。
ランクF1の放出系なら、銃を装備しているのと変わらない位の力になる。
戦闘系の
だから、一括りにされているのよ」
「そんな」
都竹さんは、落ち込んだように呟いた。
「それに、強ければ強い程、風当たりも強いのよ」
「え?」
「ほら、守護者が現れた後、個人情報を公開しろだとか、メディアの前に出てこいって騒いでいたでしょう」
「そういえば、そんな事が有りました。
確かに、守護者に興味は有りましたが、流石にやり過ぎではないかと思いました」
「あれは、自分達の身を守る為には守護者は必要だけど、その力の矛先が自分に向くのでは無いかと思っている奴らが扇動したからよ」
「何故、そんな事を?」
「個人情報を公開する事で、常に衆人環視下に置かれる状況にしたかったからよ。
そうなれば、些細な事でも大袈裟に騒ぐ事で、動きを封じる事ができるからね。
そんな下らない事に知恵を回す位なら、後ろめたい事を辞めればいいだけなのに」
「全く、その通りだと思います」
「まあ、そういう訳で、この国は、建前上能力者を優遇しているけど、本音は能力者を恐れ、隷属化を推進しているのよ。
何とも悲しい現実でしょう。
だから、クーデター政府は、現状を変えるため、まともな政治家と組んで暫定政府を作りたいのに、そのまともな政治家が少ないというのが実情だし、特定の非能力者が事ある毎に妨害工作を行うから、物事が全く進んでいないのが実情なのよ」
「なんか嫌だな」
「本当にね。
潰しても潰しても湧いてくる。
Gみたいな奴らなのよ」
「あの、すみません。
全く関係の無い事なんですが、
土田さん的には、わざわざ言葉を変えている事が疑問に思えた様だ。
「君達、能力者が能力に目覚める事を
あれは、君達の中から魔力と
でも、非能力者は
だから、きっかけを与えて魔力と
実用化されて一般に浸透すれば、どちらかの呼称に統一されると思うわ」
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