第101話 資源ダンジョン(12)

 翌朝、動ける様になった太和さん達と一緒に、この大広間の最奥部の亀裂の奥にある部屋に入った。

 そこは、幅、奥行き、高さが30mはある正六面体の空間で、その中央に直径が5mはありそうな、巨大な正十二面体の無色透明な魔石が発光と自転しながら浮いる。


 太和さんは、魔石を見上げながら

「こんなのは、初めてだ」

 と言い。


「ああ、無色透明な魔石なんて、聞いたことも無い」

 と霜月さんも同意していた。


「幻想的で綺麗」

 と山奈さんが感想を述べた。


「これから、どうします?」

 と尋ねると太和さんは

「ん、そうだな、この部屋を調査と記録をして、取得可能な物を持って帰ろう。

 取り敢えず、あの巨大な魔石は、ダンジョン・コアと思われるから、このままにしていこう」

 と指示を出す。


 この部屋では、取得可能な物は見つからなかったが、近くの別の亀裂の奥から、透明な水晶様な物質を見つけた。

 大きさは、大小様々で、小さいものはゴルフボール位で、大きい物は直径15cm、長さ50cmもある。

 それを合計30個程回収できた。

 これらの戦利品を持って、この階の入り口に戻る。

 女王クイーンタラテクトの一撃で、奥の壁は壊れているが、土の能力アビリティで作った足場は残っていた。


 足場に、全員と台車を載せてから、ゆっくりと下げていく。

 生き残りが居れば、襲われる心配があるため、下層階との境界線が近づくと警戒したが、幸い魔物もいなかった為、下層階に着地する事が出来た。


 私、山奈さん、黒崎さんの三人で台車をいて、徒歩で戻っていく。

 多少、地面が荒れているので、台車が窪地にはまったりしたので、車輪のサイズを大きくして対応した。

 途中で落ちている騎士ナイトタラテクトの魔石や使えそうな材料を適度に拾いながら、資源ダンジョンの隠し通路の入り口まで戻ってきた。

 砕けた氷像の多くは消えていたので、ダンジョンに吸収されたと思う。

 全身の大半が残っている氷像は、まだそのままだった。


 既にお昼を回っていたので、この場で昼食を取ってから、資源ダンジョンに戻る。

 足場を土の能力アビリティで作成して、足場に移動中に対魔庁の隊員と思う人達がやって来た。


「機動戦略隊の先遣隊が、やっと来たようだな」

 と太和さんが呟いた。


 この人達が、応援として来た人達なんだ。

 足場を下げて行くと、教導官達と分かり安堵した声が聞こえてくる。


 リーダーと思われる人から、調査拠点に来て欲しいと言われた。

 その場所は、今居る場所から結構遠い。

 それでも、仕方ないので移動を開始する。

 先遣隊の人達に台車の引手を変わってもらった。


 彼らに先導されて、調査拠点まで行き、状況を太和さんが先遣隊隊長さんに説明している。

 先遣隊の隊長さんは、訓練所に居る伊坂さんの弟さんだそうだ。


 その後ろで、調査拠点を見ているが、特に何が在るわけではない。

 荷物を置き場と、野営跡が見て取れる位だ。

 ただ、気になる点が有ったので、霜月さんに聞いてみた。

「先遣隊の人達の荷物って、私達よりかなり多いですよね」


「当然多いぞ。

 拡張バックパックを使っていない者が、圧倒的に多いせいもあるが、装備、食料、野外活動用用具以外に、大量の水を運んでいるからな」

 と霜月さんが説明してくれた。


「え、水ですか?」

 と反応すると


「そうだ。

 このダンジョンに水源は無いから、外部から持ち込むしかない。

 私達の場合、優ちゃんが水を出せるし、私が氷を作って戸神が溶かせば水が手に入るから、持ち運ぶ水の量を最低限にできているだけだ。

 だから、ダンジョン内での活動時間は、水と食料の積載量によって決まる程の重要な要素だ」

 と霜月さんが私達との事情の違いを説明してくれた。


 確かに、休憩の度に私が水を作って補給していた。


「確認です。

 軍隊アーミータラテクトの大半は討伐済みで、残存が居る可能性がある。

 支配者階級である将軍ジェネラル宰相チャンセラーは、討伐済み。

 女王クイーンの存在は確認できず。

 別のダンジョン・コアと思われる物を発見した。

 そして、支配者階級討伐で無理をしたため、太和教導官、戸神教導官、霜月教導官は戦線離脱。

 山奈教導官、黒崎教導官、神城准尉と共に地上に帰還される予定。

 討伐証明と検証用の回収物は、このまま地上に持ち帰るでよろしいですか?」

 と現場指揮官の伊坂さんが確認を取る。


「その通りだ。

 人を回さなくて良いから、隠し通路から先の詳細調査を頼むぞ」

 と太和さんが、今後の指示を申し付ける。


「分かりました」

 と伊坂さんが了承した。


 私は、太和さんの服を引っ張った。


 私を見た太和さんが

「ん?どうした」

 と問う。


 さっきの話から、水を補給したほうが良いと思ったから

「水の補充をしなくて大丈夫?」

 と太和さんに言う。


「ごめんなさい。私達も余裕が無いんだ」

 と近くに居た隊員の1人が謝ってきた。


「ああ、違う違う。

 こいつが言ってるのは、ここ調査拠点の水の補充をするかどうかと聞いてきただけだ」

 と太和さんが説明する。


「はぃ?補充する?」

 と驚いている。


「よし、水を補充してやろう」

 と太和さんは意地悪そうに、ニヤっと笑ってから、奥に居る隊員に向かって

「おい、お前ら、今から水を補充するから、空き容器を全てもってこい」

 と大声で指示を出す。

 それを聞いた隊員達が顔を見合わせて、何事か思案始めた。


「貴様ら、さっさと行動しろ」

 太和さんの怒声を聞いた隊員達が大慌てで、空き容器を集めでどんどん太和さんの前に置いていく。


 太和さんは、肩に手を置いて「頼むぞ」と一言告げた。


 目の前にある空容器に水を満たしていく。

 その様子を呆然と見ている隊長さんとその周辺に居た隊員達。


 10分程で、全ての容器を満タンにして、探査拠点を後にした。


 5層入り口までを最短距離で移動したが、この時点で18時だった。

 一旦休憩と夕食を食べた後、22時まで移動してやっと4層の入り口付近まで戻ってきた。


 この日は、ここで野営することになった。

 太和さんの話では、明日の昼過ぎには地上にでれるだろうとの事。

 資源ダンジョンは、下層に行く程広くなっているが、純粋に下層に向かう距離では、この4層が最も長い。

 5・6層は、通路が入り組んでいるだけで、最短距離で進めば4層の半分も無い。


 翌日、太和さんの予想通り、昼過ぎに地上に出る事が出来た。

 持って来た回収物を、山奈さんと黒崎さんの武器を持ってきた人達に預け、お風呂とご飯を食べた。

 その際に、太和さんが食事しながら、駐留部隊と先遣隊留守組の隊長さんに状況を説明してた。

 その後は、車に揺られて訓練所に帰還した時には、深夜になっていた。

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