第140話 4人の初訓練(3)

「では、訓練の続きを行う前に15分程休憩にします。

 私は、厚生棟に行って飲み物を買ってこようと思いますが、皆はどうします?」


 4人共意表を突かれたのか、毒気を抜かれた表情をしている。

 結局、全員で飲み物を買いに厚生棟に行くことになった。


 厚生棟の前で、宮園さん達とすれ違ったが、彼女達は足早に食堂に消えて行った。

 昨日、駅前から走って帰って来て、晩御飯を食べそこねた上、昨日の疲労から寝坊したのだろう、私達に絡む余裕すら無いようだった。

 昨日走って帰って来た組には、上級生からおにぎり弁当(おにぎり2個、からあげ2個、たくわん2切れ)を貰っているはずだが、足りなかった様だ。


 私達は、それぞれ飲み物を自動販売機で購入し、魔力制御訓練棟に戻った。


 十分な休憩後、魔力塊マナ・コアの知覚を行わせた。

 多少時間が掛かったが、全員が知覚出来たので、次の課題を出す。


「次は、魔力塊マナ・コアの回転方向を感じてください。

 分かった人は、言ってください。

 確認しますから。」


 4人は、自身の魔力塊マナ・コアに強く意識を集中している。

 この様子だと時間が掛かりそうなので、待っている間に自分の鍛錬を行う。


 訓練室の隅っこに置いてあるダンボールから1辺が10cmで厚さ0.8mmの鉄板を1枚取り出す。

 このダンボールには、同じサイズの鉄板が20枚入っている。

 同様に訓練用部材が入ったダンボールや木箱が置いてある。

 これらの部材は、私の入学に合わせて思金おもいかねの研究者の人達が搬入してくれた。

 最も、この訓練室自体が私の為に用意されたもので、東海市局の思金おもいかねと極秘通信も可能になっている。

 なので、向こう側も私が何をやっているか把握しているはずだ。


 コンソール付近に置いてある椅子に座り、鉄板に魔力を流し込む。

 十分に魔力が浸透した所で、鉄板がパタン、パタンと独りでに折り曲がっていく。

 しばらくしたら、鉄製の折鶴が出来上がっていた。


 今の私の制御技術では、鉄板の造形変化は折ったり伸ばしたりは問題ない。

 鉄板を分割・変形等は、まあなんとか形になる程度で、精度はまだまだだ。


 折鶴を元の鉄板状に戻し、今度は中が空洞の球形に変形させる。

 繋目が無い様に変形させたので、目視と魔力波で確認する。

 取り敢えず、繋目は確認出来なかったが、真球には程遠く歪みが出ていた。

 出来るだけ歪みを直した後、物性変化の能力アビリティでゴムの様な弾力のある状態に変化させる。


 出来た鉄のボールの出来を確認していると、鳥栖さんが手を上げたので、魔力塊マナ・コアの回転方向を確認する。

 彼女の答えは、時計回りの水平方向回転で合っていたので、次の課題

「回転速度を最大限まで高めて、溢れ出た魔力で全身を満たす。

 頭の天辺から手足の爪の先まで魔力で満たし留める事」

 を言い渡して、次の訓練を行わせる。


 私はあっさり出来てしまったけど、魔力纏身まりょくてんしんはそれなりに難しい技能スキルらしい。

 魔力で体内を満たす事は、魔力塊マナ・コアの回転制御が必要で、回転制御が疎かになると回転速度が落ちる為、魔力生成量が足りなくなる。

 また、魔力を留めることは、魔力制御が必要で、魔力制御が疎かになると、魔力が体から霧散してしまうからだ。


 この2つを同時に制御する事が難しい為、訓練校では別々に教えている。

 私が今教えている方、魔力生成と魔力制御を同時に行った場合を100とすると、訓練校が教えている魔力を最大限まで高めてから魔力制御で制御した場合は、70まで低下してしまう。

 3割も能力低下してしまう。

 だったら、最初から両方を同時に教える方法の確立と効率化を目指せば良いという事で、訓練校に検証依頼を出したのだが拒否された。


 ならば、秘密裏に訓練校式の魔力纏身まりょくてんしんを習得していない生徒に習得訓練を施してデータを収集しようというのが秘匿任務の一つだったりする。


 当然の事だが人選に苦慮する所なのだが、何も知らない志願者が表れたので検証の目的を教えず、訓練を施す事にしたのだ。

 その事は悪いと思うが、その分東海支局思金おもいかねと教導隊式の訓練で確実に強くなれる様に鍛えるので勘弁して欲しい。


 そうしている内に、田中さんが手を上げたので答え合わせに向かう。


 30分後には、4人共魔力纏身まりょくてんしんの訓練に移行した。

 コンソールを操作して、全面の鏡に写っている映像に魔力の状態を表示する様に変更した。

 15分毎に5分の休憩を入れながら、魔力纏身まりょくてんしんの訓練を行う。

 当然、魔力塊マナ・コアの回転制御や魔力制御が疎かになると指摘と指導も行いながらです。

 そういえば土田さんが、魔力塊マナ・コアを上手く回せ無かったので、後ろから抱き着く様な感じで両手をお腹に回してから、魔力塊マナ・コアに外部から干渉して回転速度の調整感覚を教えている時、顔を真っ赤にして、目を強く瞑り、唇を噛み締めてなにかに耐えているみたいだったけど、なんでだろう?


 田中さんは、魔力制御が上手くいっていなかったから、後ろから抱き着く様な感じで、両肘を手で持ってから魔力干渉を行った時も、顎を上げて仰け反って呻いていたけど、どうしてだろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る