第141話 4人の初訓練(4)

 そろそろ10時になる。

 目に見えて集中力が落ちてきたので、今日の訓練の終了を宣言した。


 4人共、宣言を聞いて一気に脱力して、田中さんと土田さんは床に座り込み、鳥栖さんと都竹さんは、膝に手をついている。


 私は、コンソールを操作して今日の訓練のデータを思金おもいかねに転送する。


 都竹さんが

「今更だけど、神城さんの能力アビリティの訓練を受けて、教育官に怒られないかな?」

 と疑問を口に出した。


「私の訓練を受けている事を言わなければ、何も問題は無いよ。

 それに、今訓練校で受けている訓練は、魔力塊マナ・コアの活性化だから気にする必要は無い。

 今日やった事は、6月位から習う事を先にやっているだけだしね」


「え、どういう事?」


「今日やった訓練を、訓練校では2ヶ月位掛けて行っているんだよ。

 私の様に、未活性状態の魔力塊マナ・コアを正確に把握する事が出来ないから、まず魔力塊マナ・コアを活性化させてから魔力塊マナ・コアの知覚を行う。

 その後に、魔力塊マナ・コアの回転制御を習い、魔力の最大出力を維持する訓練に移行する。

 その次に、魔力制御で魔力を体に留める訓練を行う。

 この訓練で一定以上の結果を出せるように成ると、次の段階の訓練に進むみたいだよ。


 でも、この方法だと色々と無駄が多いから、効率的に教えているだけ。

 それと、魔力を体に留めた状態を魔力纏身まりょくてんしんという。

 この魔力纏身まりょくてんしんは、能力アビリティ技能スキルの基本だからまずは、しっかりと身に付けて貰うよ」


「それは分かったけど、今日受けた訓練を2ヶ月も掛けるものなの?」


「逆に聞くけど、未活性状態の魔力塊マナ・コアを知覚出来なかったよね。

 私が、外部から刺激する事で強制的に活性化させたから知覚出来たでしょ」


 頬を朱に染めながら

「うん、それはそうなんだけど、他の方法も無かったのかなって」

言葉が段々と小さくなっていく。


「外部から刺激を与える方法は他にもあるけど、未活性状態の魔力塊マナ・コアに対して行うと高確率で損傷を与えてしまうんだ。

 その他の方法だと、訓練校の様に魔力を高める事を繰り返す事で魔力塊マナ・コアを活性状態にする位だね。

 ただ、この方法だと1,2週間は掛かる。

 この状態で魔力塊マナ・コアを知覚出来ても、活性化が不十分だから魔力塊マナ・コアの回転方向を感じ取れる様になるまで、更に活性化を行いながら回転方向を感じ取れるまで行うから、時間が掛かるんだ。

 回転方向を感じ取れる様になって、魔力塊マナ・コアの回転制御と魔力制御をある程度出来る様になるまでに2ヶ月位掛かってしまうのも仕方が無い事なんだ」


「学校で、2ヶ月掛かるものが1日で出来たのって、神城さんが魔力塊マナ・コアを活性化させたからなの?」


「そうだよ。

 それだけの技術を持つ人は少ないからね。

 私以外に使える人は、ほんの数人だけだよ」


「教導隊でも、そんなに少ないんだ」

 都竹さんの言葉に、他の3人も頷いている。


「違うよ。

 日本で使える人だよ。

 未活性の魔力塊マナ・コアを知覚する技術と活性化する技術。

 どちらか片方だけなら、それなりに数居るんだけど、両方となると殆ど居ない」


「え?」

 4人に驚愕の表情で絶句している。


「だから、この方法は効率が良いのだけど、普及していない」


「そうなんだ。

 ところで、学校の訓練はどうしたらいい?」


「最大出力で魔力纏身まりょくてんしんをすればいいよ。

 当面は、最大出力の魔力纏身まりょくてんしんを安定して30分行えるのが目標ね」


「えー、厳しいよ」


「大丈夫、1週間も訓練すれば5分位は継続出来る様になるよ。

 1ヶ月も訓練を積めば、20分以上は続けられるようになる。

 だから、30分もそんなに厳しくないよ。


 それに、隊員の一般訓練なら、最大出力で戦闘訓練を1時間行っているし、戦場に出ると出力30%位で12時間以上連続使用なんて珍しくない。

 1回の全力戦闘は、15分位が一般的だよ。


 静止状態の維持で30分は、かなり難度は低いよ」


「そ、そうなんだ。(今の私達、1分も維持出来ていないんですけど)」


「神城さん、魔力纏身まりょくてんしん?のお手本を見せてください」

 鳥栖さんの言葉に、他の3人も「私も見たい」と同意した。


「それは構わないけど、参考にならないかも知れないよ」

 コンソールを操作して、前面の鏡に魔力の状態を表示させる。


「!! 魔力量が低い」

 田中さんの驚嘆の声が響く。

 他の3人も驚愕の表情で魔力量の数値に見入っている。


 表示される私の魔力量は約550MP、放出魔力量は53MPと一般人と変わらない。

 常時、広域探知、空間把握、魔力感知の能力アビリティを発動させつつ、一般人相当に抑えた魔力量しか検出できない様に維持している。


 対して4人の魔力量は1,013~1,415MP、放出魔力量は約300MPと一般的な訓練生の値を示している。

 よく見ると分かるのだけど、私の放出魔力は体を覆う様に展開され発散していないが、4人の放出魔力は体から発散されて陽炎の様に写っている。


「注目する所が違うよ。

 魔力量ではなく、放出魔力量と放出魔力の状態の方に注目。

 私と貴方達の違いは何でしょう?」


 4人は、しばらく画面で魔力状態を確認してポツポツ言い始める。

「放出魔力が発散していない?」

「魔力を纏っている様な感じ?」

「放出魔力量が、魔力量の1/10位?」


「大体合っています。

 私の場合、平常時も魔力纏身まりょくてんしんを解除していません。

 無意識レベルで維持しています」


 4人は、声の無い絶叫を上げるのだった。

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