第195話 テスト前の出来事(5)
午後、駐屯地で規定訓練を行っている最中に、篠本さんから呼びされた。
司令室に入ると篠本さんが机に座り、その左右後ろに中之さんと高橋さんが立ち、机の向かえ側には、伊坂さんと山本さんが立っていた。
私は、伊坂さんの隣、山本さんの反対側に立つと、篠本さんから
「訓練中に呼び出してすまない」
と開口一番に謝られた。
「規定訓練中だったので問題有りません」
と答えると
「そうか」
と一言返って来た後、数秒沈黙した後
「神城には申し訳ないが、今度の防衛課との共同訓練に参加して欲しい」
言われた。
「分かりました」
と答えると
「そうか、助かる」
と何処か安堵した声が返ってきた。
「合同訓練の取り仕切りは、伊坂、山本に任せている。
詳細な内容や段取り等は、彼らから聞いてくれ。
伊坂、山本、後を任せる」
と言う事で話は終わり、伊坂さんと山本さんと共に退室して、会議室に移動した。
会議室で各人が席に着き、伊坂さんが
「さて、何から話そうか」
と少し悩んでいると、会議室の扉が開き、中之さんが入ってきた。
「今回の経緯は俺から話そう」
と言って、近くの椅子に座った。
「まず、合同訓練自体は、以前より計画されていたもので、本来なら神城さんが関与する必要はなかったものなんだ。
神城さんに参加して貰う事になった理由なんだが」
と言葉を区切り、私を見た後
「先日の魔物の襲来で、神城さんが指揮を取った事が要因なんだ」
と言って深いため息をついた。
「神城さんが指揮を取った事も、指示内容も何も問題は無い。
一般人の避難を考慮した初期人員配置も、応援到着後は空間振動の影響エリア外側に防衛線を張って封じ込めを行うと同時に、境界線沿いから中央に向かって殲滅を行うという市街地のお手本の様な戦闘だった。
また、状況に応じて遊撃や直接時空の亀裂を破壊する事で、魔物の偏りを防いだり、文化財を守ったりと完璧な指揮だったのだが」
ここで言葉を区切り、天を仰いだ。
大きなため息の後
「防衛課の馬鹿共には、それが理解出来なかったのだ。
現場を指揮した清水一尉と上司の防衛課愛知方面隊の大磯司令は、状況を理解し納得しているのだが、現場を担当した部隊長達が不服を上申していてな。
大磯司令は却下していたのだが、連中、4部隊を中心に愛知方面隊全部隊連名で上申をしてきたんだ。
それで、うちに相談が来たという訳だ」
と言葉を切り、ため息をつく。
山本さんが話を続ける
「それで、俺達も呼ばれて状況の確認を行ったのだが、防衛課の状況が現場に出動した
それで、大隊長と大磯司令を含めて協議をした結果、神城さんが馬鹿共との合同訓練を行えば、否応無しに実力差を実感できるだろうと言う事になってな。
神城さんに合同訓練参加の打診を行ったという訳だ」
「では、何故、私が参加を了承すると、明らかに安堵したのですか?」
と問うと、3人共苦い顔をした。
中之さんは、再びため息をつき
「神城さんを参加させるに当たって、教導隊に事情を話した結果、教導隊としては許可出来ないが、本人の同意があれば許可すると回答があったからだ」
と言って苦虫を潰した顔をした。
まあ、教導隊としては、馬鹿な上申をした愛知方面隊全員を処罰しろと言うのは当然の事だと思う。
「馬鹿共を処罰しても反省しないだろうから、何らかの方法で慢心した心を叩き壊す必要があるのだが、うちの隊員共に任せると、間違いなく血祭りに上げる未来しか見えん。
既に血気盛んな連中は、準備を始めていると言う情報も入ってきている。
実行されれば、死者も出ると思うから、頭が痛い案件なんだ」
と頭を抱えている。
確かに、訓練中の事故で片付ける事は出来るかも知れないが、上層部としては頭の痛い案件だ。
「そもそも、どうしてこの様な状態になったのですか?」
と言う私の問いに
「それは、俺には理解出来ない下らないプライドのせいだ」
と伊坂さんは、吐き捨てた。
「流石にそれではわからんだろう」
と中之さんが突っ込み、話を続ける。
「そうだな。
これは、防衛課特有の地元気質の問題なんだ」
と言う。
私は分からず、首を傾げていると
「防衛課のほとんどの隊員が、地元出身なんだ。
そして、この辺の人の気質なんだが、地元愛が強く、仲間意識も高い。
職人気質で粘り強い。
普段は質素倹約なのだが、見栄っ張りで派手好きで、独立心が強い」
と言って言葉を区切った。
今の所、私としては特におかしく感じないけどと思っていると
「これを愛知方面隊に当てはめて言い直すと、
閉鎖的で排他主義。
自己中心的で、細かい事まで文句を付ける。
戦場とは、自己主張の場であり
随分と雲行きの怪しい内容に変わったな。
「そして、今回の魔物の来襲では、
部外者が指揮を取り
自分達の意見を無視され
見得を切る場を奪われ
自分達を
と言って、大きなため息をついた。
「伊坂さんが、言った事が良く分かりました。
確かに非常に下らないプライドですね」
私もため息をついた。
「司令も副司令も地元出身だが、司令や副司令になるには、一定期間以上の他の地域での活動経験が必要なので、司令や副司令は両方の考え方を理解しているからこそ頭が痛いらしく、うちに相談が来たんだ」
と言って遠い目をした。
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