第194話 テスト前の出来事(4)

 訓練が終わって伸びている4人に活を入れて、試験勉強をさせる。

 これは脳(海馬)が活性化している内に勉強した方が、効率良く覚える事が出来るからだ。


 訓練による脳の活性化状態は5分も続けば上出来だろうが、直ぐに勉強を始める事で脳の活性化状態を維持出来るので効率が上がるのだ。


 21時を回ったので試験勉強を終わらせて部屋に帰る事にした。

 非常に疲れた顔をした4人を1階のセキュリティドアの前で見送る時、寮監室から矢野さんが顔を出し

「あんた達の部屋の方は片付いたよ。帰ってしっかり休みな」

 と一言言ってくれた。

 4人は驚いて、慌てて礼を言って頭を下げた。

 矢野さんは、手を振って帰るように促す。

 4人は、『おやすみなさい』と言って部屋に戻っていった。


 4人を見送った後

「更に鍛える事にしたんだね」


「はい、このまま引き下がれませんからね」


「そかそか。あの子達を何処まで鍛えるつもりなんだい?」


「10月には、3年生を超えさせます」


「そか。そりゃあ大変だ」

 と言うと大笑いする。


 一頻ひとしきり笑った後

「それは良いが、あんたの自己鍛錬の時間が無くなるぞ」


「ええ、分かっています。

 ですが、アレらに直接手を出さずに意向返いしゅがえしするには、最良かと」


 凄みのある笑みを浮かべ

「天才が育てる秀才と自称天才の凡人の対立か。

 凡人共の将来が楽しみじゃな」

 と言って、愉快そうに笑っている。


「私は、天才では有りませんよ。

 ただ人と違った能力アビリティに目覚めてしまった為に、人と違う道を歩む事になっただけの凡人です」

 と苦言を返す。


「まあ、それでええよ」

 と言ってさやしい笑顔になった。


「では、おやすみなさい」

 と言ってセキュリティドアを開けると

「おやすみ。殿」

 と言って矢野さんは、寮監室に戻って行った。


 私は、苦笑いしながら

「さすが、歴代最高と言われた元情報士官殿だ」

 と小声で呟いてから扉をくぐり部屋に戻るのだった。


 翌朝、普段通り自主訓練を終えて田中さん達を迎い入れ、魔力調律の維持訓練を行うが、4人には追加の課題を課して行った。

 課題内容は、魔力で圧力を掛けられた状態で魔力調律を維持してもらう事だ。

 最初なので、鳥栖さん以外はF1程度の魔力圧を掛け、鳥栖さんにはF2程度の魔力圧を掛けて維持訓練を行う。

 無負荷なら魔力調律状態維持時間が30分を超えるが、圧力を掛けた状態では10分も維持出来なかった。


 一緒に訓練を受けている隊員達は、目の前で次の段階の訓練を目にして、大変奮起している。


 その訓練を1時間行った。

 ちなみに、平田さんの訓練内容に変更は無い。


 朝の訓練後、南雲さんと病院に移動する前に、田中さん達の訓練の為に残る隊員に

「この後の彼女達の訓練ですが、体力・魔力を含む基礎訓練の実施と対魔格闘術の基礎訓練をお願いします」

 と訓練内容を指示すると、少し怪訝な顔をして

「よろしいのですか?」

 と聞くので

「お願いします。理由は、寮監の矢野さんにでも聞くと分かります」

 と答えると『了解』と返事が返ってきたので、南雲さんと病院に向かった。


 病院には根岸さんが出勤していた。

 久しぶりに見た根岸さんは、私を見るなり顔を引き攣らせ、直立不動で挨拶をする。

 その様子を周りの人間も驚きをもって見ている。

 あの感じだと、相当絞られたのだろう。

 私は、普段通り挨拶をして通り過ぎる。


 そう言えば、魔蟲事件だけど、実行犯と思われる人は捕まったが、黒幕は未だ捕まっていない。

 その実行犯なんだけど一般人で、自白した犯行理由は根岸さんに一目惚れしたけど、あっさりと振られたからその復讐だそうだ。

 その逆恨みを募らせている時に黒幕が接触して、例の魔蟲と犯行計画を受け取り実行に移したとの事。

 実行犯は、どうやって施設に潜入したかと言うと、実行犯の職業は宅配便業者の人間だったので、正々堂々と侵入していた事が判明した。


 だが、この自白には多くの矛盾が存在していた。

 まず、実行犯が業務範囲内にある駐屯地は1つしか無く、病院も根岸さんの自宅も範囲外だった。

 他の駐屯地に出入りした痕跡が無い事と、実行犯の過去の経歴を調べても接点が全く見つからなかったのだが、本人は本気で思い込んでいる。

 この事からも、この人物が事件の一端を担っている可能性は高いが、真犯人とは言えないだろう。

 むしろ、捜査をミスリードするための罠だと思われるので、慎重に捜査は続けられている。


 ちなみに記憶を操作する能力アビリティは数種類存在するが、危険すぎる能力アビリティの為、所持者は常に監視されている。

 そして、この能力アビリティを有した人間が、実行犯と接触した痕跡も記録も無い。

 犯行の意図も手口も不明の全く持って厄介極まりない事件だ。


 病院での研修は、普段通りに行う事が出来た。


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