第193話 テスト前の出来事(3)

 都竹さんが、弱々しく

「そりゃ、悔しいよ。

 自分達の思い通りならないからと言って、関係のない人まで巻き込んで嫌がらせしてくる人達に負けたくないよ。

 でも、それで神城さんに迷惑を掛ける位なら、黙って我慢した方がマシだよ」

 と答える。

 他の3人は、下唇を噛み締めている。


「そう思うのなら、尚の事立ち向かうべきでしょう」

 私の冷たい声色を聞いた4人が目を見開いて、私を見つめる。


「私に迷惑を掛ける事を心配する必要なんてありません。

 彼女達の目的は、貴方達を貶めて、間接的に私を貶める事が目的なのですから、遠慮する必要なんて無いのですよ。

 それに、直接ちょっかいを掛けてくるのなら、私の権限で直接処分しても良いのですが、折角挑んで来たのですよ。

 それ相応のおもてなしをして上げましょう。

 井戸の底で有頂天になっている蟾蜍ひきがえる共を、干からびさせて上げましょう」

 優しく微笑みながら4人を見ると、恐怖に引き攣らせた顔で、なんとも首を上下に振っている。


「それで貴方達にやって貰う事は、予定していた訓練を前倒しで受けて貰うだけです。

 その為、現状の訓練時間では足りません。

 なので、寮で追加の訓練時間を設けたいと思っています」

 と言って、彼女達の顔を見ると「えっ」と言った感じの顔で、ポカーンと私を見ている。

「場所はこの部屋。

 時間は、夜7時から8時までの1時間でどうでしょうか?」

 と話を進めると、目を丸くして私の顔を見つめている。


「異存は無い様なので、これで決定です」

 と話を終えたが、まだ良く状況が飲み込めていない様な感じで呆けている。


「幸い丁度7時なので、早速訓練を始めましょうか」

 と言ってから、自分の机に置いてあるノートパソコンを起動させ、脳の構造が載っているイラストをパソコンに表示させて、ノートパソコンを持ってダイニングに戻ってくる。


 多少時間が経ったからか、4人共神妙な顔をしている。

「あの、神城さん。今から訓練って何をするの?」

 と田中さんが聞くので

「これから貴方達には、能力アビリティの習得訓練を受けてもらいます」

 と答えると、4人共驚いた顔をして

「え、能力アビリティの習得方法って、分かっていないっていなかった?」

 と返してきた。


「ええ、多くの能力アビリティの習得方法は分かっていませんが、習得方法が分かっている能力アビリティもあります」

 と言うと、更に驚いた様だ。


能力アビリティ技能スキルの違いを知っていますか?」

 と問えば

「えーと、能力アビリティを意識的に再現したモノが技能スキルだっけ?」

 と鳥栖さんが答えた。


「その通りです。

 基本的に能力アビリティ技能スキルは同じものです。

 使用方法は、能力アビリティに魔力を注入し、能力アビリティを操作するのか、魔力回路の構築、現象指示、魔力の注入を行い操作するのかの違いです。


 なので、同じ現象が起こるのです。

 両者の最大の違いは、能力アビリティ魔力塊マナ・コアに記憶されたモノだと言う事です。


 なので能力アビリティは、魔力塊マナ・コアに記憶された技能スキルと言う事も出来ます」

 と説明すると

「ほへー、そうなんだ」

 と気が抜けた感想が返ってきた。


「なので、まず技能スキルを覚えて貰います。

 そして、ひたすら技能スキルを使って、魔力塊マナ・コアに記憶させます。

 能力アビリティ化出来なくても、技能スキルとして習得するので、今後も役に立ちます。

 それでは、まず最初に憶えてもらう技能スキルは、『記憶力』です」


『記憶力?』

 4人のハモった声が返ってきた。


「記憶力は、記憶力が良くなる技能スキルです。

 技能スキル『記憶力』が能力アビリティ化すると能力アビリティ『記憶力』と言う常時記憶力を強化するものになります。

 能力アビリティ『記憶力』が進化すると能力アビリティ『記憶』になります。

 この『記憶』は、任意に記憶したいものを確実に記憶出来ます」

 と言った所で、4人の目つきが変わった。


「更に進化すると『完全記憶』になります。

 この能力アビリティは、日常全ての状態を記憶します。

 なので、能力アビリティが目覚めた後の事は、いつ何処でどの様な状態だったとかいった詳細までハッキリと覚えていますし、いつでも思い出せます」

 と説明すると

「記憶は欲しい。でも、完全記憶は要らないかな」

 と鳥栖さんが零す。

「え、完全記憶って、すごく便利そうだけど?」

 と土田さんが言うと

「だって、憶えていたくない記憶も記憶しているんだよ。

 しかも、感じ的に記憶に特化しているだけで、消す事できそうにないじゃん」

 と鳥栖さんが返したのを聞いて

「あー、有り得そう」

 と呟いた後、4人は私を見る。


 私は、ため息を一つ吐いてから

「その通りです。

 記憶を消す能力アビリティは存在しますが、その原理は解明されていません。

 その為、記憶を消す技能スキルは存在しません」

 と答えると、土田さんは

「完全記憶は要らない」

 と言い、他の3人も同意していた。


 雑談はここまでにして、早速技能スキルの説明を始める。

 私が習った時の様に模型が無いので、パソコンに写った脳の構造を見せながら陽葵ひなたさんの説明を思い出しながら説明を行う。


 その後、海馬に魔力を集める訓練を行う。

 そうこうしている間に1時間が経った。

 4人共苦戦していたが、都竹さんは比較的上手く魔力が集まっていた。

 他の3人は、なんとか海馬周辺に魔力が集まり始めた位だった。


 終了を告げると、4人共脱力しきっていた。

 基本的な魔力操作訓練を行っていない状態で、これだけ魔力操作出来れば上出来だ。

 本格的な魔力操作訓練を始めれば、一気に上達するだろう。

 だが、その前に魔力調律状態の維持時間は最低限の30分を超えたので、後は自力で魔力調律状態になれる様にならないと次に進められない。

 魔力調律状態の維持時間の60分超えは、当面の主目標なので並行して訓練していく。

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