第145話 宿泊棟の大掃除(3)

 3人を見送った後、大広間を水モップで掃除する。

 床、壁、天井のみならず、会議机、椅子、ソファー、ローテーブルと家具まで水モップで掃除していく。

 見違える程きれいになった。

 家具類に触っても、湿気て無い。

 この調子で、午前中の内に玄関周り以外の1階部分の掃除が終わった。


 お昼休憩する為に集合した時、見違える程にきれいになった1階を見て驚いていた。


「今日は簡単な掃除だけにして、後日業者を入れるつもりだったが、その必要は無いな」

 と言う伊坂さんの言葉に山本さんが

「ああ、下手な清掃業者よりきれいだな」

 と返した。


「教導官ってすごいんですね」

 田中さんの場違いな感想に

「いや、普通出来ないから、神城さんが凄いだけだからな」

 山本さんがツッコミを入れている。


 その後、厚生棟の食堂で昼食を5人で取ったのだが、周りからの注目度が高かった。

 田中さんと都竹さんは、居心地が悪そうだった。

「なんで、こんな状況で平然とご飯食べられるですか?」

 と言う田中さんの問いに

「何処に行ってもこんな感じだから、今更だよ」

 と答えると、改めて姿を確認されて納得されてしまった。


 午後は、2階を行う。

 私が水回りを掃除している間に、ゴミと埃の撤去をお願いしたのに私に付いてくる4人。

 私が掃除した1階がきれいすぎるから、私の掃除方法を知りたいから少し見学したいそうだ。

 なので、汚れの酷いシャワールームを選択した。

 カビと埃で真っ黒な浴室で、近づくと異臭が酷い。


 まず、離れた位置から、魔力を使ってシャワーの蛇口をひねり水を出す。

「え、勝手に水が出た」

 と都竹さんが驚きの声を上げると山本さんが

「魔力を使って蛇口をひねっただけだ。

 魔力で物体を動かす念力サイコキネシスという技能スキルだ」

 と解説をする。

 シャワーヘッドから出た汚れた水がある程度きれいになると、シャワーヘッドを飲み込む様に水玉ができ、バスケットボール位のサイズまで大きくなった。


 その水玉が、見る見る内に小さくなって消えた。

 シャワーヘッドからは、水は一切出ていない。


 消えた水は、シャワーヘッドを通じて水道管を逆流させ、配管を掃除させている。

 ある程度逆流させた後、再びシャワーヘッドから放出させる。

 汚れた水が再び勢いよく出てくる。

 再び水玉を作り、逆流洗浄を数度行って配管をきれいにする。

 逆流・排水させる時に細かく振動させているので、配管のゴミを細かく粉砕しているので、途中で詰まる心配は無い。

 汚れた水が出なくなるまで、この作業を繰り返した。

 水が終われば当然お湯の方も同様の処理を行ってきれいにする。


 浴室の方は、水モップを作りきれいにする。

 汚れが酷いので、こまめに水モップを作り直す事になったが、15分程できれいになった。

 言葉無く見守っていた4人に浴室の清掃が終わった旨を伝えた。


 田中さんが不思議そうに

「今、掃除で使って能力アビリティって、具現化系の水だよね」


「そうだよ」


「具現化系の水の能力アビリティって、水球をぶつける以外にも使えるんだ」


「飲料にもなりますよ」


「え?飲料?」


「放出系と違って消えませんから」


「そうなんだ。具現化系って、人気が無いから知らなかった」


「人気が無い?」


「見た目が派手で強い放出系や使用者が強化される身体強化に比べると地味だから、一応攻撃系に属しているけど一段下に見られているんだ。

 だから、一般的には使える能力アビリティっていう認識だね」

 都竹さんが補足を入れる。


「それは違うぞ。

 具現化系の能力アビリティは、質量を持つから、攻撃に使うと強力な攻撃になる。

 しかも、放出系よりもピンポイント攻撃に向いているだけだ。


 それに具現化系は、どの部隊でも必要とされる能力アビリティだ。

 火は、照明、焚き火。

 風は、換気、音声の拡大。

 土は、陣地・障害物の作成。

 水は、清潔な水。

 特に具現化系の水は、貴重な使い手だから何処の部隊も欲しがる人員だ。


 俺達対魔庁の戦闘指揮官が最前線で最も確保したい人員は、広域探知と具現化系水の能力アビリティ持ちだ。

 この2つの能力アビリティ持ちが居るか居ないかで、部隊運用が全く違ってくる。

 特に、具現化系水の能力アビリティ持ちが居るだけで、補給回数を大幅に減らせる事が出来るから、是非とも欲しい人材だ」

 山本さんが、対魔庁の隊員からというか、指揮官からの見地を述べる。


「はあ、そうなんですか?」

 田中さんが、呆気にとられた回答を返した。


 伊坂さんが、田中さんに

「人間が1日に必要とする水の量って知っていますか?」

 と質問すると

「いえ、知りません」

 と、田中さんが答えた。


 それを聞いた伊坂さんが、説明を初めた。

「一般的に、1日に3Lリットル必要と言われています。

 作戦行動時、最前線で飲料に適した水が、現地で手に入る事はまずありません。

 なので水の運搬が必要になりますが、運搬車両等が使える事は滅多にありません。

 そのため、隊員自身が食料と水と機材を運ぶ事になります。

 食料と水を運搬出来る量が、前線の維持が可能な期間と言って良いでしょう。


 ここに具現化系水の能力アビリティを持つ隊員が居ると、その隊員の生成能力分の水の運搬量を下げ、その分食料を運ぶ事が出来る様になります。

 ランクF1で、1日10Lリットル

 ランクE1で、1日100Lリットル

 ランクD1なら1日1,000Lリットルは生成可能です。

 ランクD1なら、たった一人で330人以上の水を確保出来るのです。


 通常、1回の作戦行動期間は10日とされています。

 これは、一般隊員の運搬量に起因しています。

 一般隊員の運搬量は、250~300kgです。


 内訳は、1日分の食料が約2kgと水3Lリットルの計5kg

 10日で50kg、その他に武具や野営機材等で、200~250kg

 計250~300kgとなります。


 水を能力アビリティに頼る事が出来れば、食料を倍運べます。

 作戦行動期間を倍に増やす事が可能になるのです。

 兵站へいたんを考える上で、非常に重要な事なのです」

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