第144話 宿泊棟の大掃除(2)

 水モップが汚れてきたら、水モップに取り込んだゴミを一箇所に集め、脱水をしてごみ袋に入れる。

 水モップをそのまま排水口に流し込んで、新しい水モップを作る。

 排水口に流し込んだ水モップは、排水パイプを掃除しながら浄化槽に流れていく。

 あとは、普通に下水に混ざって、浄化槽で処理されて河川に放流される。


 1階の給湯室、シャワールームを綺麗にし、更衣室を掃除する。

 以前から掃除したいと思っていた場所だ。


 更衣室の掃除の終わり頃に、広域探知内に3人が乗車した車が入ってきた。

 検知出来た魔力から、伊坂さん達男衆3人だったので、手早く清掃を終わらせて玄関に迎えに行く。


 玄関に着くと、ちょうど伊坂さん達が車から降りたところだった。


 玄関から出て来た私に気がついた伊坂さんが

「神城さん、一体何をしているんだ?」

 と問うので

「見ての通り、宿泊棟の大掃除です」

 答えると山本さんが憮然ぶぜんとして

「それは俺達の仕事だ」

 と割って入った。


 なので私は

「それは知っていますが、戦闘特化の貴方達が掃除が得意だとは思いませんでした。

 ここの惨状を知っていて、平田さんが到着するまでに清潔な環境を提供出来るだけの能力が有ってのお言葉ですよね」

 と切り返すと、絶句して硬直後、俯き

「申し訳ありません。無理です。出来ません」

 と言って、頭を下げた。


 伊坂さんから

「ところで、後ろのは?」

 と言う問いが来た。


 私の後ろには、田中さん達4人が居る。

 彼女達は、バラバラに玄関に来たのだけど、ちょうど山本さんが頭を下げる直前に4人が揃った。


「彼女達は、私の友人です。

 ここの清掃を自主的に手伝ってくれてます」


「それは、大丈夫なのか?」


「大丈夫です。彼女達は、私が教導官である事を知っています」


「本当に大丈夫か?」


「都竹3尉から身分がバレました。

 幸い、彼女達と交友関係を築いた後だったので、秘密にして貰っています」


「なんで、そこで都竹3尉が出てくるんだ」

 久喜さんから当然の質問がきた。


 私は都竹さんの顔を見ながら

「彼女、都竹3尉の娘さんです」


「ああ、そういう事か。それなら納得だ」


「ところで、伊坂さん」


「なんだい?」


「ここの整備予算って幾ら貰えました」


「ああ、30万程用立ててくれたよ」


「それだけ有れば、なんとかなりそうです」


「なんとかなるとは?」


「家具等が全滅していますので、買い出しが必要です」


「そうか、なら俺達が買い出しに向かうか?」


「それなら、久喜さんと彼女達から2名を付けます。

 伊坂さんと山本さんは、掃除の手伝いをお願いします」


 私が後ろに居る4人に話しかけようとしたら、山本さんが

「ちょっと待った。買い出しなら俺が行く」

 と宣言した。


「それは、却下です。

 今の山本さんでは、正常な判断が出来ないと判断しています。

 間違いなく、予算以上の無駄な物を購入するでしょう。


 伊坂さんでは、実用一辺倒の物だけで女性には不向きなもので揃えられると判断しました。

 なので、久喜さんが適任です」


 久喜さんが自信なさげに

「ちょっと良いかな。俺はセンス無いぞ」

 と言って、慌てている。


「多分そうだと思って、2人を付ける事にしました。

 確か、久喜さんは既婚者でしたよね?」


「ああ、妻と娘が居る」


「奥様の本日の予定は?」


「妻の予定?

 たしか、普通の休養日だったから、家に居ると思うぞ。

 それがどうした?」


「だったら、奥様と娘さんにも家具選びを手伝って貰えば良いでしょう。

 それなら、彼女達が一緒に居ても問題にならないでしょう」


 少し思案した後

「分かった、確認してみる」

 と言ってスマホを取り出しで電話を始めた。


 イライラしている山本さんに向き直って

「自分の好みを押し付けても嫌われるだけですよ」

 と告げると大人しくなった。


「了解が取れた。一緒に家具探しを手伝ってくれるそうだ」

 と、久喜さんが報告してくれた。


「それは良かった」

 と言った後、4人に向き直り

「では、誰が行きますか?」

 という問いに4人はじゃんけんを始めた。


 じゃんけんに勝った土田さんと鳥栖さんが一緒に行く事になった。

 田中さんと都竹さんに、引き続き埃とゴミの掃除を頼み、伊坂さんと山本さんに粗大ゴミの撤去を依頼した。


 買い出しリストを作成して久喜さんに渡す時に

「買い出しには私服で行って下さい」

 と告げると、自分の服装を確認してから

「分かった」

 と返答が来た。


 伊坂さん達3人は、作業着でここに来ている。

 恐らく、服装を注意しなかったらそのまま買い出しに出ていたと思う。

 女性陣と一緒に居る作業服男って、絶対に要らぬ誤解を招く。


 土田さんと鳥栖さんを捕まえ、お金を握らせてから

「これで休憩用のお菓子と飲み物と紙皿・コップ等をお願いします。最低20人前」


 それを聞いて驚いた鳥栖さんが

「多くない?」

 と問うので

「予想では12人ですが、軽く3人前は食べる人達が混ざっていますから20人前でも足りないと思います」

 と返すと

「分かった。出来るだけ多く買ってくる」

 と返事が返ってきた。


 3人が乗った車は、買い出しに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る