第268話 1年次夏期集中訓練 3日目(2)

 早朝の訓練を美智子さん達と一緒に受ける。

 早朝の訓練が終わる頃に伊島さん達がやって来た。

 伊島さんは、かなり張り切っている様に見えるが、武井さんと照山さんは酷く疲れている様に見えた。


 伊島さんは、千明さんの前に行くと

「さあ、第二射撃場に行きますよ」

 と上機嫌で告げた。


「じゃあ、第二射撃場に移動するぞ」

 と武井さんが、覇気の無い声で宣言する。


 かなり眠そうな照山さんと一緒に、高エネルギー射撃室に行って魔力貯蔵庫を満タンにしてから第二プールに向かう。


 幸いな事に研究者達の突撃は貰わずに済んだ。

 新発見の報告をした翌朝には、研究者達の突撃を貰うのが当たり前になっていたから、ちょっと拍子抜けた。


 もし、午前中に報告しようものなら、夕方や夜に突撃を貰った事が何度もあった。

 なので新発見しても、必ず夕方以降に報告する様にしている。

 そうする事で、夜の突撃を回避出来るからだ。


 第二プールに着くと水着に着替えてからプールに入り昨日の復習を行う。

 照山さん達に動きを見てもらって、問題のない事を確認する。


 今日の訓練内容は、水中での攻撃手段だ。


 実演の前に軽い講義が行われた。

「水中戦の攻撃は、中近距離の攻撃が基本になります。

 水の抵抗が大きい為、武器は振り回しても意味がなく。

 接近すれば水棲魔物の方が有利になるからです。


 なので、どうしても接近しなければならない場合は、自他の推力を利用して突き刺すかすれ違いざまに刃を当て切る位です。


 また遠距離攻撃は、水の抵抗により減衰が激しい為著しく射程が短くなります。

 また、強すぎる攻撃は水流を激しく乱す為、自身や味方も危険に晒します。


 この様に水中戦は非常に危険が伴います。

 射程と範囲と威力を正確に把握する事が重要です。

 その事を肝に銘じてください」

 と言われた。


 私が頷くと続きを話し始めた。

「水中で有効な攻撃は水と風です。

 水は、水流と水矢と水槍。

 風は、直接では無く水を超振動させる事による音波攻撃です。


 水中銃や銛と言ったモノは、小型の水棲魔物にしか効きません。

 まあ、魚雷位を使えば中型・大型の水棲魔物にも効きますが、船を沈められるのが落ちです。


 なので中型・大型水棲魔物は、海面におびき出して海上からの攻撃で仕留めるのが基本となります。


 なので水中戦闘では、海上への誘き出しが主任務になります」

 と言われた。


「魚雷みたいな技能スキルは無いのですか?」

 と聞くと

「無い訳では無いけど、これまで開発された技能スキルだと威力が微妙だったのよね。

 だから、今の所実用性は無いわ」

 と答えが返ってきた。


「じゃあ次は、水中での射程に関してね。

 水の属性場合、地上の1/10まで減衰するわ。

 地上で100m先を狙う勢いで水中で撃っても10m位しか届かない。

 だから、その事を考慮して使用する必要があるわ。


 一方風の属性を用いた超音波は、水中速度及び射程は地上の5倍に伸びます。

 その為、使用方法は衝撃波でダメージを与える事が主となります。

 あとはキャビテーションを利用したバブルパルスでダメージを与える方法です。

 ただし、キャビテーションを発生させると物凄く減衰するので射程が短くなります。


 他の攻撃手段として土属性等も考えられますが、沈める方向に放つ以外に使い道がありません。

 何故なら地上で500mの距離を狙い撃つ力で水中で撃った場合、5mも進みません。

 それ程、水の抵抗は大きい。


 それと実際の戦闘は、海や湖等の自然の中で行う為、海流や流木や地形や魔物の動き等で水の流れが乱されます。

 その為、射程や軌道が訓練と異なる事も多々あります。

 なので、臨機応変に対応する事が必要です。


 説明はここまでにして、実技に移りましょう」

 と言われ

「はい」

 と返事をしてプールに入る。


 プールの中程、水深15m付近に私と照山さんが壁を背にして浮遊する。

 私達と反対側の壁に専用の防護壁が設置されている。

 見崎さんと梅原さんが、防護壁の前に的を設置してから私達の横に来た。

 私達と的の距離は20m位だ。

 私は照山さん達から指導されながら何度も的を狙い撃つ。


 かなりの時間撃ち続けていると、見崎さんが休憩を伝えて来たのでプールから出る。

 プールサイドには、購買特製のミックスジュースが4杯置いてあった。

 ミックスジュースは、冷たくて甘くて美味しい。

 この訓練中は、甘い物を食べても太ら胸が大きくならないのは良いと思っていると見崎さんが

「初めての水中攻撃はどうだった?」

 と聞かれたので

「思った以上に難しいですね」

 と答えると

「今日訓練を初めて、的に3割当たれただけでも十分な成果ですよ」

 と梅原さんが言うと

「その通り。十分優秀、優秀」

 と照山さんが言う。


 的に当たったのは3割強位だ。

 その内、中心付近に当たったのは1割にも行かなかった。


「どういう事ですか?」

 と聞くと

「水中攻撃の訓練を始めた初日の成功率なんて2割以下が普通。

 優秀な奴で3割行くかどうかだ。


 だから、神城さんは十分優秀だよ」

 と見崎さんが言うと

「この短時間でこの成績だから、今日中に6割以上当たる様になるよ」

 と梅原さんが言った。


 何故か言い方に釈然としない。


「そう微妙な顔をしない。

 神城さんは、十分優秀だよ。

 ただ、こちらの想定程で無かっただけだ」

 と照山さんが言った。

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