第7話 研究者たち(1)

 Side:三上

 私は、対魔物対策庁研究機関 思金おもいかね東海支局能力研究課で主任をやっている三上みかみ 景子けいこだ。

 正直、主任なんて役職は要らないんだがな。

 愛する夫と娘と研究があれば十分なのだ。


 その日の朝も、研究課の総合事務所に顔を出した。

 毎朝、事務所に顔を出すのは仕事の調整を行わなければならないからだ。

 本来なら課長の仕事のはずだが、課長は対魔庁の東海支局庁舎の方で、関係各所との調整を行っているので研究所には居ないのだ。実質、私がトップなのだ。


 我々の仕事は、研究だけではなく能力の発露者の鑑定もある。

 能力鑑定の仕事は、能力の鑑定と試験がある。

 最近は、自動能力判定装置の開発成功で能力鑑定の仕事自体は減ったが、不明な能力が見つかれば人が鑑定を行わければならない。

 能力の試験は、発露者が実際にどの程度の実力があるかを試験しなければならないが、多くの発露者が能力の暴走で見つかるため制御訓練を施さなければならない。能力の暴走は、命に係るからだ。

 そのため能力研究課では、研究班・鑑定班・訓練班・試験班の4班体制で運用されている。

 発露者は、土日祝祭日関係なくやってくるから、基本無休で運用しなければならない。そのため研究班以外はシフトを組んで対応している。

 正直、研究班以外は、人材育成課でも良いと思うのだが貴重なデータが直接入手出来るため、仕方なく引き受けている状況だ。

 そんなわけで、主任である私は、研究以外の事務仕事も行わければならない。


 その日も、発露者情報電子掲示板に情報が入ってくる。

 発露者情報は、管轄区域の地域・年齢・性別・発露状態が表示されている。

 その中に興味深い発露者情報があった。

 発露状態:性別転換

 私は、直ぐにこの発露者は私が見ることを宣言し準備させる。

 なにせ過去の性転換者は、衰弱した状態で発見されている。

 看護可能な病室の確保と生理検査の準備をさせた。

 あと、若桜わかさが必要だ。あいつは、能力と遺伝との関係の研究者で遺伝子学・薬学の世界では世界有数の研究者でだ。

 若桜を呼ぼうとしたら、非番だった。

 しかたない、若桜の件は後回しだ。


 診察の邪魔されたく無かったので、発露者が来るまでの間に雑務をさっさと終わらせる。10時20分に駐車場に到着した連絡が来たので診察室に移動する。


 発露者が診察室を訪れる。

 入ってきた人材育成課の氷室とそれに続く少女、その母親を見た。

 あの母親、どこかで見たな。

 挨拶もそこそこに、問診を行いながら能力鑑定と魔力測定を行う。

 Dランクまでなら容易に測れる測定器を診察室に設置していたのだ。


 問診で男に戻ろうとしかたか尋ねると、やはり戻ろうと試したか。

 その直後、気配を消して発露者の後ろに回り込み低温ボイスでいつ試したのか尋ねている母親が居た。その動きとその声で思い出した、養成校時代の同級生「九条くじょう 京子きょうこ」だ、あいつ気配遮断の様な隠密系の能力も身体強化系も持っていないのに持っている奴より上の事をやっていたヤバイ奴だ。

 アレを怒らせると、本当に怖い。


 問診を続けなら鑑定も同時進行する。魔力視に魔力塊マナ・コアが見えた。これ、Cランクはあるぞ、しかもよく見ると短時間成長している。


 問診を終え、当直の看護師に発露者を病室に案内させた。

 発露者達が診察室を出たのを確認したので、魔力測定機のデータを確認する。

 やはり、測定値オーバーフローで記録できていない。

 私の鑑定では、3系統の能力が発露し、潜在の能力B~Sランク。

 なんだこれ、本当に人間か?

 一気に興味と疑問が堰を切ったように溢れてくる。


 Aランク以上だと、私だけでは鑑定できない。もう一人は必要だ。

 それに彼奴等に教えたい。教えなければ彼奴等切れるだろうな。どうする?誰を呼ぶ? ・・・そうだ、全員で鑑定すれば良いのだ。

 性転換者の発露者では、彼奴等全員を呼ぶには弱い。

 

 ならば、発露直後でSがあるとすば良い。

 通常、Aランクの能力鑑定はが2人以上必要だから、前例のない発露直後の推定Sランクの鑑定のためにという名目にすれば、権威ばかり求めるの爺供も諦めるだろう。

 よし、早速連絡だ。


 連絡が終わったところで、案内に行かせた看護師が戻ってきたので、出張者用に5人分の寝床の確保を命じた。

 Sランクの魔力測定が可能な環境試験室の使用許可を取らないとな。

 性転換前のサンプルも欲しい。

 よし、九条に会いに行こう。昼時だから食堂に居るだろう。


 食堂に向かう途中で運良く氷室と九条と出会えた。

 そこで、サンプルの提供依頼の話をすると、既に準備されていた。

 家を出る前に、発露者の部屋から髪の毛を採取してくれたのだ。

 その事に礼をいい、サンプルを受け取る。サンプル量としては十分だった。


 サンプルの一部を解析に回し、刻々と送られてくるデータを確認していると、葉山がやって来た。

「ずいぶんと速いな。」

 と言えば

「お前な、あんな情報貰って大人しく出来るかよ。

 全ての仕事放り出してきたに決まっているだろ。

 さあ、今あるデータを見せろ」

 早速データを見せ、お互いの所見を述べ考察し合う。


 羽佐田うさだ伊島いしまが20時頃やってきた。

 羽佐田は、開発中のバイタルメーターを持ってやってきた。

 開発中と言ってもこれは原型機で、羽佐田お手製の超高性能品だ。

 羽佐田の能力で作られているため量産が不可能、これを参考にして量産可能な物を開発するのだ。

 伊島は、助手を2名連れてきていた。

「解析が得意な者を連れてきた。多少の手助けになるだろう」


 この時になって、若桜に連絡を入れるのを忘れていたのを思い出し連絡を入れる。案の定、怒っていたが明日の朝から対応してくれることになった。


 若桜に連絡ついでに、夕食を6人で取りながら意見交換をする。

 22時、発露者の部屋の監視カメラを確認する。

 既に寝入っているので、ベットに取り付けられているバイタルメーターのデータの確認を始めた。この部屋は、当初衰弱していることを想定していた為、常時監視システムが備えてあるのだ。


 各種データと研究者同士の意見交換をしていたら、見事に徹夜していた。

 朝5時、一度休憩にして仮眠を取ろうと話したところで、水無月みなづきが到着した。

 しかも、最新鋭の遺伝子解析装置と魔力分析機も持ってきた。


「連絡の内容から必要になると思って持ってきた。

 局長とか渋っていたけど強引に持ってきたよ。

 この機器、いざっと言う時に移動できるように改造しておいて良かった」

 笑顔で答える水無月と5人の助手。


 北海道からトレーラーで移動してきたようだ。

 まず、全員で朝食を食べこれからの行動を決める。


 私は、一旦家に帰る。夫の理解とサポートがあるとはいえ、家を開けっ放しでは娘に嫌われてしまう。

 せめて朝食位は作ってやらねば。


 羽佐田と伊島達は、仮眠

 葉山は、解析を続ける

 水無月は、機器の設置をする。


 魔力検査は、13時からだから遅れるなよ。

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