第189話 ゴールデンウィーク(17)

 いつもの訓練室で訓練生組と隊員組は、魔力調律状態の維持訓練を行う。

 その合間に、平田さんの診察を行う。

 その結果、言い付けは守っていたので、魔力塊マナ・コアの微小な傷は癒えていた。

 その事を伝え、平田さんにも昨日と同等の訓練を行ってもらう。


 この日、田中さん達の魔力調律維持時間も20分を超え、魔力纏身まりょくてんしん維持時間も45分を超えた。


 その中でも鳥栖さんが頭一つ抜けている。

 7時から始めた訓練は、普段と変わらず私が強制的に調律状態にしていた。

 調律時間は25分に達し、魔力纏身まりょくてんしん維持時間は50分を超えた。


 8時から始めた訓練では、1回目は私が強制調律状態にしたが、2回目は自力で調律状態になる事が出来た。

 そして、その維持時間は30分に達し、魔力纏身まりょくてんしん維持時間も55分だった。


 思金おもいかねの訓練計画では、田中さん、都竹さん、土田さんの成長速度でも十分早いのだが、鳥栖さんの成長は想定以上だ。

 この調子なら、6月中には次の段階に進めるかも知れない。


 朝の魔力訓練を終えて、宿泊棟に移動する前に鳥栖さんに

「自力で調律状態に成れましたね。

 おめでとうございます。

 この感覚を覚えていてください」

 と告げると

「うん、やっと出来た」

 と嬉しそうに答えていた。

 周りからも褒められて嬉しそうにして少し照れている。


 宿泊棟の訓練場に移動して、隊員達に田中さん達の格闘技訓練を見て貰う間に、私自身は基礎訓練を行う。

 行う内容は、ランニングを行ってから、ショートソードを使って素振りを行う。

 ロングソードからショートソードに変えたのは、ロングソードでは体に対する負荷が大きすぎるからだ。

 ただ、筋肉を着けるだけなら、素振りをするよりウェイトトレーニングで適切な筋肉を着けた方が良いが、私の場合、私の戦い方に合った筋肉の育成だ。

 だから、筋量を増やす事よりも、体幹やインナーマッスルを鍛える事で、柔軟かつ粘り強い足腰を鍛える事を目的にしている。


 それに、単純な出力だけなら魔力で補う事が出来る。

 そして恐らく、同格の魔力量を持つ相手か、ランクA以上の魔物以外に力負けする事は無い。

 なので、単純な筋力を上げる事は、後回しにする。


 訓練方法は、太和さんや霜月さんから聞いているので、それに沿ったものだ。

 実際に型に沿った素振りを行うことで、身体に動きによる負荷を掛ける方法を選んだ。

 体幹を鍛える方は、毎晩ストレッチと一緒にやっているので問題がない。


 20分程走った後、10時まで素振りを繰り返した。


 10分程休憩してから、高圧縮学習装置を使った学習訓練を行う。

 私は、普段通り120倍の1時間で行い、田中さん達は、2.2倍の1時間30分を行う。


 彼女達が昨日と同じ設定なのは、比較データとしての取得が目的だそうだ。

 南雲さんは、どうやら昨日言われた事と、田中さんが新能力アビリティを取得した事で、過去のデータを調べ直して、比較データとして有効だという資料までまとめて見せに来る程だ。

 更に、他の人が新しい能力アビリティの取得に期待しつつ、田中さんが新能力アビリティを取得したメカニズムを解明できれば、夢の装置への道が開くと息巻いている。

 ちなみに、午後に行う高圧縮学習装置を使った学習訓練では、各人の限界値で行うそうだ。


 そんな話を聞いた後に、高圧縮学習装置を使用した。

 私は、普段通り終えてから平田さんと隊員4人とでお昼ごはんを作る。

 隊員の4人は、休んでて良いと言っているが、落ち着かないので手伝う。


 出来た料理を大部屋に運ぶと、ちょうど田中さん達も高圧縮学習装置を終えて下りて来た。

 都竹さんと土田さんは、かなり辛そうにしているが、田中さんと鳥栖さんは、平気そうだので、都竹さんと土田さんには休んで貰って、田中さんと鳥栖さんがお昼の準備を手伝ってもらった。


 料理と準備が出来、全員揃ってお昼食べる。

 ご飯を食べながら、都竹さんが

「今日は、いつも以上に気合を入れたのに全然変わらなかった」

 と零すと、隊員の一人が

「まあ、気合入れも、直ぐに何かが変わる事はないね」

 と辛口のコメントが返され

「でも、向上心がある事は良い事よ」

 とフォローされて、ちょっと落ち込んでいる。


 すると、土田さんが

「いや、決意表明をしたから、訓練内容がもっと厳しくなるかなと思ったのだけど、普段通りだったからね」

 と言うので

「そもそも、思金おもいかねが、用意した訓練プログラの想定された訓練成果よりも良い成果を出しているので、より厳しい訓練に変える必要性が無い事と、今は基礎を固める事の方が重要なので、訓練内容に変化が無いだけです。


 むしろ、やや過労オーバーワーク気味です。

 なので、焦る必要も無いし、無理をする必要もありません」

 と言うと『え?』と驚いている。


「無理をしている意識が無い様ですが、確実に疲労が蓄積しています。

 それは身体しんたいだけでなく、魔力塊マナ・コアも同じです。

 なので、今は負荷を上げるつもりはありません。


 それに、現時点で更に負荷を上げると、貴方達の個人時間プライベートをより多く削る事になります。

 流石に、そんな事をしたくありません。

 個人時間プライベートも大切にしてください」

 と言うと、4人は複雑な表情をした。

 強くなりたいという思いと、個人時間プライベートも大事という事も理解出来るからだ。

 なので

「自分達の成長が信じられない様ですが、来週行われる中間テストで分かりますよ」

 と言うと、更に複雑な表情を深くした。

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