第153話 宿泊棟の新たな住人
今日は、護衛役の2名の隊員とは別に1人の女性が来ていた。
彼女は、
医薬課に所属している医師で若桜さんの同期である。
その彼女がここに来た理由は、平田さんの治療の補助と私の医師への転換訓練を行うためだった。
3月時点の予定では訓練校卒業後、対魔庁系列の医療大学校で転換訓練と学士課程教育を受ける予定だった。
その事を確認すると、
「それだと大学校を卒業するのに、職種転換で4年、通常だと6年掛かってしまう。
神城さんの実力から言うと、訓練校も大学校も時間の無駄でしか無いのよね。
学友との交流期間と考えると有りだけど、大学校では充実したものにならないのは確定している。
それなら学友が出来た訓練校で3年間を過ごした方が、余程実りがあると思う。
だから、訓練校の余剰時間に職種転換訓練と学士課程教育を行ってしまおうという事が決定しました。(わーパチパチ)
訓練校側にも通達・了承を得ました。
だから、今年の高等学校卒業程度認定試験を受けて、来年4月に特別生として大学校に入学、同年に医師国家試験を受験してもらいます。
卒業は、訓練校卒業と同じ年になる予定です」
「なんですかそれ?
具体的には何をするのですか?」
「座学は、授業の録画を見て学習してもらうわ。
実技は、土曜日の午前中に近場の対魔庁系列病院で行います。
試験やレポートは、定期的に行うからそのつもりでいてね」
「分かりました。所で、録画は高圧縮学習装置ですよね?」
「その通りよ。なんと120倍よ」
「私は、対応機器を持っていません」
「大丈夫。
機器はこれから来るわ。
今日、
それと、明日から実習を始めるからね」
「了解しました」
私の返事を聞いて、南雲さんはウンウンと頷いている。
ちなみに彼女は、宿泊棟に住み込むそうだ。
近場のアパートを借りないのは、2~3年居るだけの上、殆ど研究室に籠もるから借りるのもご近所付き合いも面倒くさい。
中部駐屯地の官舎は、距離が有って移動が面倒との事。
一方、
普段必要最低限の買い物以外で外出しないし、購買に必要な物を売っているから不便を感じない。
家賃と水道光熱費が掛からないから最高との事。
何となく、
そんな彼女は、2階北側3部屋の1室を私室にして、残り2室を研究室と資料室に作り替え中だった。
業者の人がひっきりなしに出入りしている。
そんな南雲さんを放置して、平田さんの診察と魔力調整を行ってから今日の護衛役の二人の教導を行うのだった。
翌朝、田中さん達と護衛官の訓練を終わらせてから中部対魔庁病院に移動する。
私と護衛官を載せた車と南雲さんの車の2台で移動する。
南雲さんは、午前中の訓練が終わったら宿泊棟に戻るからだ。
中部対魔庁病院では基礎医学実習を行う。
治癒師の教育・訓練と重複している部分もあるので、未習得の部分を中心に習得訓練を行う。
今日で基礎医学実習を全て終わる事は出来ないので、回数を分けて習得を目指す。
当然、これ以外の実技に関する事も行う事になる。
この日の病院は静かだった。
その理由は根岸さんが不在だったからだ。
その根岸さんは、先週の部隊規約違反の罰として特別訓練の為、東海支局教導隊へ2週間の出向しているそうだ。
その事を教えてくれた
「そんなに凄いの?」
と聞かれたので、手持ちの端末から教導隊での再教育プログラムの表示して、内容を教えた。
「基礎(体幹・魔力)訓練・法令・部隊規則・鑑定士訓練・治癒士訓練を、7時から21時まで行う。
途中休憩が挟まれるといっても、お昼が50分、夕食と入浴で80分、あとは10時・15時に10分ずつだったはず。
6時起床の22時就寝だからほとんどプラベートな時間なんて無いよ。
それを14日連続で行う。
しかも、規定値以上の成績を残さないと、最大6週間の期間延長もあるから無事に終わるのかな?」
そう告げるとドン引きしていた。
ちなみに講師役の教導官と医局員は、交代で担当するのでそれ程負担が無い。
特に夜の教育訓練は、その日の夜勤担当がするので問題無い。
午後は中部駐屯地で訓練を行う。
確か、自分の訓練を行っていたはずなのに、いつの間にかに教導を取っていた。
駐屯地で昼食を食べた後、規定訓練の射撃訓練を行うために射撃場に行ったら男性隊員達が大勢居て、交代で射撃訓練をしていた。
私もその中に混じって訓練を行った。
何故か、私の一挙一動見られていた。
射撃訓練の後、1.5
一人の隊員が
「神城教導官、今日は何キロ走られるのですか?」
と聞かれたので
「20km走ります」
と答えると
「野郎共20kmだ。神城教導官に遅れを取るな」
と叫ぶと一斉に
『おう』
と叫び声が返ってきた。
ちょっとビックリしたけど、走り出すと付いてくる。
1周2kmのコースを10周して終了。
タイムは20分と15秒。
私的にはまあまあのタイムだ。
能力を制限した状態で20分を切る事を目指している。
私の周辺には死屍累々と転がっている隊員達。
まあ、500kgから1
普段の彼らの平均タイムは30分と聞いていたので、相当無理をして速度を出していたのだろう。
今日の訓練内容を考えていなかったので、この後どうしよう。
そういえば、最近模擬戦を行えていないから伊坂さん辺りを探してみようかな。
そう思い、重量装備を返却しようと移動を開始すると、数人の隊員が立ち上がり
「神城教導官。
自分達にも教導をお願いいたします」
そう言って頭を下げた。
死屍累々で転がっていた隊員達も立ち上がり、『お願いいたします』と声を揃えて頭を下げている。
仕方ないので
「教導希望者は、重量装備を返却後グラウンドに集合」
と告げると全員走って返却に行った。
その後姿を見て「やっぱり、体力あるな」と思った。
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