第152話 訓練は順調な様だ

 食後、田中さん達から「一緒にお風呂に入ろう」と誘われたが断った。

 寄ってこないが注目されて続けるというのは、何とも居心地が悪い。

 気にしないで無視してくれた方が余程楽と思えた。

 なので、共同浴場に行こうとは思えなかった。


 この後は、普段通りに過ごした。

 違う点は、プラモデルが完成した事位だ。

 不慣れなので墨入れと着色が完璧とは言えないが初めて完成した。

 何とも不思議な達成感があるのが嬉しい。


 こういうのを満足感というのかな?

 完成したプラモデルの写真を取って山下さんに送る。

 5分もしない内に返信が来た。

 なんか色々と書いてあるが、読めば読む程、人を沼に引きずり込もうとしているとしか思えない。


 なので

「気が向いたら作ります」

 と書いて返信すると即答がきた。


 内容は「是非ともまた作って写真をください」だった。

 まあ、なんとなく楽しかった気もするから、機会があったら作ってみようかな。


 その後は、普段通りに寝た。



 翌日、朝は田中さん達の訓練時間まで普段通りルーティンを熟して、魔力制御訓練棟の前で待つと、やはり田中さん達と平田さん達3人が来た。


 まあ、予想された範囲だ。

 昨日から来ている2人を両端に置き、真ん中に4人を配置して魔力全開の魔力纏身まりょくてんしんを行わせる。

 昨日と違うのは、要所要所をアドバイスしながら強制的に魔力調律状態にして維持させる。

 両端に居る2人には、放出魔力量を抑えながら調律状態を維持する様に言ってある。


 4人は強制的に魔力調律状態を維持させているので、5分毎の休憩を入れていない。

 維持が出来なくなった時点で、3分休憩をさせている。


 訓練方法の変更は、とにかく体に魔力調律状態を覚えさせる事が目的だ。


 彼女達の訓練の第一段階は

「自力で最大出力と魔力纏身まりょくてんしんを行う」

 というもので、予想では2週間位掛かると思っていたが、2日で達成するとは思ってもいなかった。

 彼女達は、こちらが想定していたより潜在能力が高い様だ。


 そして第2段階、魔力調律を習得するに移行した。

 次の目標は、全力の魔力纏身まりょくてんしん状態で、自力で魔力調律状態に移行して最低60分の維持だ。

 今の所、外部から干渉で魔力調律状態にして10分が限界だ。


 ちなみに、一緒に訓練している二人の隊員は機動戦略隊所属隊員なのだが、自力で調律状態にはなれるが維持時間が20秒足らず。

 しかし昨日は、自力で調律状態になれなかったし、維持時間も数秒だったので上手く感覚を掴んだようだが、田中さん達4人に維持時間が圧倒的に負けた事に悔しがっている。


 今朝の訓練時間が終わった時点で、田中さん達の維持時間は10分を超え、魔力量は10%も増加した。

 何処まで成長できるか楽しみだ。


 平田さん達と別れ、田中さん達と授業を受ける。

 能力訓練の時間に宿泊棟に行くと別の護衛兼訓練の担当官が来ていた。


 まず、平田さんの診察を行う。

 彼女の状態確認後、魔力出力の調整を行う。

 想定外だったのが、彼女の狂戦士バーサーカー能力アビリティには、魔力塊マナ・コアの修復も可能だった事だ。

 それなのに、あのパスの傷つき様。

 能力アビリティで修復されていたから、あの程度で止まっていた可能性がある。

 この考察は、三上さん達と共有しておこう。


 その後は、今日来た二人の教導を行う。

 先日の二人と同じく、魔力調律状態になる事と維持する事を訓練する。


 先日の二人もだが、高月さん程魔力制御が出来ていない。

 当面の間、ここに来る護衛官役の人には魔力制御訓練を施す事にるだろうな。


 そして、金曜日になった。

 田中さん達4人は、まだ自力で魔力調律状態になる事は出来ないが、魔力量はランクF2まで増え、最大出力の魔力纏身まりょくてんしんの維持時間は20分まで増えた。

 このまま訓練を続ければ、3ヶ月後には第2段階を達成出来て、魔力量もランクE1に達しそうだ。


 成長率だけを見ればもっと早く魔力量がランクE1に達成しそうに思えるかも知れないが、魔力量が増えると魔力制御が難しくなる為、最大出力を維持する事も難しくなる。

 なので、それ相応の魔力制御も必要なのだ。


 訓練校の訓練は、最大出力を維持する事で魔力量の増加と制御訓練を同時に行わせている。

 この方法では、魔力制御訓練は必要最低限にしかならないが、魔力量の大幅な増加は見込める。

 ある程度魔力量を増やし、魔力切れを防ぎながら能力アビリティの訓練を行う事が目的だ。


 思金おもいかね考案の教導は、最大出力で魔力調律状態を維持させる事で、魔力制御訓練を主眼としており、魔力量の増加は副次的な位置づけだ。

 魔力量より魔力制御を鍛え魔力調律状態を習得する事で、既存の訓練方法との差異を調べる事も目的の一つだ。


 それに魔力調律状態は、魔力運用時のロスがほぼ無い。

 その状態で能力アビリティの訓練を行えば、どれ程の効果を出すかを調べるのも目的の一つだ。


 なにせ、私の技能スキル運用が能力アビリティと同程度なのは、この魔力調律状態を常に維持しているからだ。

 そして、身体強化の能力アビリティを使い、ランクA7以上の魔力出力かつ魔力調律状態で魔力纏身まりょくてんしんを行う事で発光している事が判明している。

 発光の条件は分かったのだが、何故発光しているのか、発光すると何が変わるのかはまだ分かっていない。

 そのうち思金おもいかねの研究者達が解明してくれると思う。


 ただ、この魔力調律状態の維持というのは、現役の機動戦略隊の隊員達でも困難な魔力制御だ。

 防衛課・戦術課の戦闘隊員達は、静的状態でもほぼ出来ない。

 機動戦略隊の隊員達は、静的状態なら短時間行える位だ。

 私の知っている範囲では、教導隊の霜月さんや太和さんが短時間なら動的状態でも使える位で、動的状態で常時使えるのは私以外では、伊坂さんと平田さん位だ。


 それ程、難度の高い訓練を、4人には何も告げずに施している。

 今のところ、先入観が無いからか訓練は順調なようだ。

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