第96話 資源ダンジョン(7)

 夜営中は、特に襲われる事も魔物の気配も無く休む事ができた。

 朝の支度が終わると、私が見つけた横道が有った場所まで移動する。

 そこで、改めてその場所を教えた。


 上を見上げた太和さんが

「確かに一見したらわからないな」

 と言うと、黒崎さんも

「言われなければ分からなかった」

 と言った。


 幅30m、天井まで20mもある大きな真っ直ぐな通路の中程の天井付近にその通路は有った。

 幅5m、高さ3m程度しかなく、しかも天井付近の岩陰では気付かなくても仕方なかった。


 全員、身体強化を使って飛び移り曲がりくねった道を進むと、その先に広間が有るのが見えた。

 そして、そこに待ち受けている大量の蜘蛛の群れも居た。


「黒崎さん、初めて探知する魔物です」


騎士ナイト

 と黒崎さんが教えてくれる。


「数を聞くまでも無いな。

 神城、極ナントカを使ってくれ」

 と太和さんが指示を出すと

「極低温ショットブラスト」

 と黒崎さんが突っ込む。


「おう。それそれ」

 と太和さんが応じた。


 微苦笑を浮かべると

「分かりました」

 と答え、極低温ショットブラストを広間に展開し、広間の騎士ナイトタラテクト達を全滅させる。

 更に極低温状態を維持しつつ、圧縮と回転数を上げて行く。

 広間全体(30m☓30m☓20m)を覆っていた極低温を1m位の球体まで冷却しながら圧縮した。


 殲滅報告後、全員で広間に入ると

「極低温の珠、どうするの?」

 と黒崎さんが聞くので

「この先にある通路で、炸裂させます」

 と答えると

「は? どういう事だ?」

 と太和さんが驚いた様子で聞いてくる。


「通路の先がクランク状になっている。

 その先に第2陣が待ち伏せ」

 と黒崎さんが説明する。


 戸神さんが、興味深そうに

「その珠をクランクの先に移動させて、炸裂させるということですか?」

 と聞かれたので

「はい。その通りです」

 と答えると、呆れ顔の太和さんは、頭をガシガシと掻いた後

「分かった。やってくれ」

 と指示を出した。


「はい」

 と答え。私は球体の前に行き、球体を移動させる。


 太和さんは戸神さんに

「あれは、どうやって移動させているんだ?」

 と聞く。


「球体を維持している風の能力アビリティに、外部からエネルギーを供給する際の余剰エネルギーを使って移動させていますね」

 と答えると

「はあ、器用なことをする」

 と呆れを多分に含んだ返答を返す。


 戸神さんは

「多分、今さっき思いついた事を試しているんだと思いますよ」

 と嬉々とした様子で言うと、太和さんは

「天才の思いつく事は、俺には想像も出来ねーな」

 と返す。


 渋い顔をした霜月さんが

「太和、お前何を言ってる?」

 と言うと

「純粋な感想だ。

 あいつと初めて会った時から、そう評価しているだけだ。

 それ以外の事は、なーんとも思っていない。

 それに、あいつが天才だろうと、まだまだ子供だ。

 変な方向に行かない様に、見守るのが俺達先達せんだつの仕事だ。

 そうだろう」

 と返し

「その通りだな」

 と霜月さんも同意した。


 クランク前までやって来た。

 クランクの先は、少しの直線通路の後、広間になっている。

 この広間の天井は、通路よりかなり高く、天井まで40m位あり、出口側の壁と天井に大量の騎士ナイトタラテクトの群れが張り付いている。

 また、出口を塞ぐ様にも騎士ナイトタラテクトの群れが整列している。

 圧縮球を撃ち出して、真正面の騎士ナイトタラテクトの群れの前で圧縮を解除すると同時に、出口を物理結界で塞いだ。


 広間を白い暴風が襲い、壁や天井に張り付いて居た騎士ナイトタラテクトが地面に落ちて行く。


 広間とその先の通路のかなり先まで探知出来ていた生命反応が消えた。


 横に来た太和さんが

「先に進めるか?」

 と聞かれ

「結界を張れば可能と思います」

 と答えると

「それで行こう」

 と判断する。


 全員が物理結界に入ったのを確認してから、通路を塞いでいた物理結界を解除すると、強烈な冷気が襲ってきた。

 私達は、物理結界に阻まれて何も起こらないが、周辺は真っ白になった。

 大気中の水分が凍ったみたいだ。


「これは、今まで一番強烈だな」

 と太和さんが驚いた様子で言った。


「想定の何倍もの冷気になっている」

 と私が呟くが、誰も反応しない。


 吹き荒れる冷気が一段落すると

「取り敢えず、進んでみよう」

 と太和さんが指示を出す。


 誰も何も言わず広間に入ると、そこは白銀の世界だった。

 魔物の残骸すら見当たらない。

 奥の通路を進んでも変わらず、100m程進んだ所で大型SUV自動車のハマー位のサイズの体に、その2倍もありそうな長い脚が8本。

 前足2本の跗節ふせつ(先端部)が鎌のように成っている。

 残りの足の中央部(脛節けいせつ)の外骨格が、盾の様に見える。

 お腹の方は、蛇腹の様な外骨格になっており、頭部はヘルメットでも被っている様にもみえる。

 そんな騎士ナイトタラテクトの氷像が無数に立っていた。


「溶けたら、復活するのかな?」

 と言っている側から、氷像は崩れ落ちる。


 黒崎さんが首を不利

「無理。

 少し先に生命反応有り。

 反応が微弱」

 と言うと

「辛うじて生き残ったのがいるみたいだね」

 と山奈さんが言った。


 更に進むと氷像の群れの中に、全ての足が砕け、体も半分凍った瀕死の騎士ナイトが藻掻いていた。

 山奈さんが結界を出て、頭部を一撃で粉砕して止めを刺す。

 その反動で、凍った体が砕け散り、バスケットボール位の大きさの魔石が転がり出た。

 それを回収して先に進む。


 時折、瀕死の騎士ナイトタラテクトを見つけては、止めを刺しながら、1km位進むと、動きが極端に鈍った騎士ナイトタラテクトの群れが居たので、こちらは普通に倒して魔石を回収して先に進む。


 ここまで、一本道だったから、この辺りまで冷気が分散せずに届いたという事なんだろう。

 騎士ナイトタラテクトの外骨格は、非常に軽く、丈夫な防具になるのだが、流石に荷物になるので諦めた。


 散発的に襲ってくる騎士ナイトタラテクトを撃退して進むと広間に出た。

 この広間で、道が分岐しており、片方が下層に向かう道になっている。

 そして、もう一方の道の先に、魔物の気配を感じる。

 その中に、未知の魔物の気配も混じっていたので、黒崎さんに確認すると、工兵エンジニアのモノだという。


「どの位居る?」

 と太和さんに聞かれ

「少なくとも100は超えていると思います」

 と答えると

「広範囲を凍らせた冷気の奴、もう一度撃てないか?」

 と聞かれ

「どうでしょう。

 やってみないと分かりません」

 と答えると

「なら、やってくれ」

 と指示された。


「太和、無茶を言うな」

 と霜月さんが言うと

「だが、このままチマチマ攻略していると罠に嵌まるぞ。

 実際、ここまで騎士ナイトばっかりで、工兵エンジニアが出てきていないという事は、この先に仕掛けていると思った方が良さそうだ。

 向こうの下層に向かう通路自体が、罠とも考えられる。

 なら、先に工兵エンジニア共を殲滅させてから先に進むべきだ」

 と主張する。


 渋い顔になった霜月さんが

「確かに、そうなんだが。

 優ちゃん、無理はしなくて良いからな」

 と言って、後ろに下がった。


 私は前に出て

「少し時間を下さい」

 と言うと、直径10m位の極低温球を作り、それをビーダマサイズまで冷却しながら圧縮する。

 10個の極低温球を作り、それを1つに併せてビーダマサイズに冷却しながら圧縮する。

 更に9回同じ極低温球を作り、1つの圧縮した極低温球を作り上げた。

 最初に作った極低温球100個分の圧縮球が完成した。


 顔を引き攣らせた太和さんが

「それ、物凄く恐ろしい結果を出しそうだな」

 と呟くと

「此処まで来たら、腹を括りましょう」

 と戸神さんが叱咤する。


 通路の前に行き、圧縮球を通路に放り込むと同時に入り口を、物理・魔力結界と厚さ3mの土壁で塞いだ後、圧縮球を開放する。


 地響きが響き、探知範囲内の生命反応が消えた。

 終わったかなと思ったら、下層に向かう通路から冷気と凍った騎士ナイトタラテクトと工兵エンジニアタラテクトが噴き出した。

 凍った騎士ナイトタラテクトと工兵エンジニアタラテクトは、壁や地面に落ちて砕け散っている。

 私は、慌てて物理結界で皆を包んだ。

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