第95話 資源ダンジョン(6)

 明朝6時まで、交代で休憩を取る事になった。


 休息中、霜月さんにいくつかお説教を貰った。

 1つ目はオーバーキル過ぎる事。

 極低温を作るだけでも、ほぼ魔物が死滅していたので、その後のショットブラストはやり過ぎだと言われた。

 2つ目は、魔力制御が追いつかず、魔力量でゴリ押ししている点。

 たしかに、制御が追いつかず、一撃で倒せない事も多々あった。

 3つ目は、周りへの配慮を優先しすぎて、威力が犠牲になっている点。

 もう少し、周囲の動きを見れば、そこまで威力を落とす必要が無かった場面がいくつもあったと、実際の戦闘の場面を持ち出して教えてくれた。


 あと、変形させたダンジョン内の地形だが、数日で元に戻るので気にしなくて良いとの事。

 正直、やりすぎたと思っていたから、元に戻ると聞いてホッとした。


 戸神さんからは、極低温ショットブラストについて色々と聞かれた。

 まず、どうやって極低温を作り出したのかだった。

 極低温は、極小の氷を色々な物に衝突させて、粉砕気化させて周囲の温度を強制的に奪わせて温度を下げている。

 その冷気を逃さないように、強力な風で閉じ込めると同時に、粉砕気化の連鎖を続ける事で、短時間で急速に温度を下げ、極低温を作り出している。


 次に聞かれたのが、範囲内の物が全て研磨された理由だった。

 これは、極低温を作っている旋風が範囲内の氷、石、砂、魔物の残骸等を強風で何度もぶつけることで研磨されたからだ。

 さらに、低温脆性ていおんぜいせいで脆くなった為、より一層研磨され、研磨クズが新たな研磨剤として、範囲内を循環したためだ。


 その次に聞かれたのが、どうやって思い付いたかだった。

 これは、工廠こうしょうに居た研究員が教えてくれた。

 彼らが教えてくれたのは、マイクロミストによる冷却原理と塗装の下処理として使用しているサンドブラストの原理だった。

 それを組合せたら、低温状態が出来た。

 そこから、研究員達の監修の元、色々と試行錯誤して極低温ショットブラストが出来た。

 工廠での実験は、両手の間に200mm程度の球体を作って実験していた。


 それを聞いた霜月さんが静かに怒りを溜めている姿が見え、側に居た山奈さんと黒崎さんが、そ~と離れていった。


 戸神さんは、自分が使えそうな部分が無いか検討を始めていた。


 太和さんは、「彼奴等やつら、思いついたけど実験・実証が出来ない理論を押し付けやがったな。」と呟いていた。


 「優ちゃん、他にも教わっているんじゃない?」

 霜月さんの声色が低くて、ちょっと怖いです。


「あります。」

 思わず、背筋が伸びて返事をしてしまった。


「何を教わった?」


火炎弾ファイヤー・バレット

 氷弾アイス・バレッド

 石弾ストーン・バレッド

 レーザー砲

 空圧砲エアキャノン

 裂炎球バースト・フレア

 火炎旋風フレアトルネード

 荷電粒子砲エレクトロン・キャノン

 陽電子砲ポジトロン・キャノン

 電離気体球プラズマ・ボール

 電離気体刃プラズマ・カッター

 超電磁砲レールガン

 水刃ウオーター・カッター

 あと、何があったかな。」


 霜月さんは、大きくため息をついた後、

「その様子だと、攻撃用以外にも習っている?」


「はい、能力アビリティを使った鉱物の精錬方法とか、大気中から液体窒素、水素、酸素の作り方とか習いました。」


 太和「彼奴等研究員共、馬鹿か? いや、(研究)馬鹿だった。」


 黒崎「それには、同意。」


 山奈「私も。」


 戸神「まあ、彼らの気持ちも少しは分かりますが、強力なものを教えすぎです。

 まあ、彼らの考えた能力アビリティの運用は、ほぼ理論だけで、実際に使えた事が少ないですからね。

 主に魔力量の関係で。」


 太和「そうでなくても、守護者の能力が高すぎる為、国内外から恐怖の対象になっているのに、何を考えているんだ。」


「え、そうなんですか?」


 霜月「ああ、優ちゃんには、あえて知らせていなかった。

 私達は、優ちゃんにはちょっと強い能力者として過ごして欲しかったからな。」


 戸神「私は、神城さんが強力な力を手に入れるのには、賛成ですよ。」


 全員の視線が戸神さんに集中する。


 戸神「神城さんが本当に力を欲した時に、必要な力が有る方がより大きな惨劇さんげきを防ぐ力になると思っています。

 その場限りの力を手に入れる為に暴走されるより、きちんと制御された強大な力の方が良いです。

 だから、神城さんが、強大な力を手に入れる事に賛成します。」


 霜月「だがな。」


 戸神「強大な力が、神城さんを孤独にすると言いたんでしょう。

 それは、否定しません。

 我々も通った道です。

 それに、神城さんは、既に一般人とはかけ離れた存在になっています。


 それに、力を手に入れる事と制御する事は、別物でしょう。

 普段は、後方支援部隊、衛生部隊、思金おもいかねの研究員等になって、前線に出なければ良いだけです。

 実戦訓練は、我々の様に諸事情を知っている少数でやれば良いのです。」


 霜月「確かに、それも有りだな。」


 戸神「それに、我々に出来る事は他にもあります。

 神城さんの成長を通して、より強くなる方法を見つける事です。

 そして、全体のレベルアップを促すことで、神城さんへの負担を減らすことが出来るはずです。」


 黒崎「恐怖の対象は、守護者だけじゃない。

 我々、戦術課戦闘系隊員も同じ。

 戦術課に所属しているだけで、自衛隊の1個分隊に相当する戦力。

 ランクCになれば、単独で戦車隊を壊滅出来る。

 機動戦略隊など、1個小隊で、機甲大隊を壊滅出来る程の戦力。

 だから重要なのは、守護者と神城さんを同一視させない事。

 そうすれば、戦術課の職員の一人として過ごせる。」


 太和「まあ、訓練校卒業後は、そのまま対魔庁戦術課に所属する事が決まっているが、進路を決める必要はある。

 進路については、在学中に色々と進路相談を行うから、その時に考えて欲しい。

 それと訓練校在学中は、戦術課東海支局教導隊所属の「補助と衛生」が主任務の隊員として登録されているから、そのつもりで居てくれ。」


「あの、進路ってなんですか?」


 山奈「進路って言うのは、主に機動戦略隊の様な前線部隊、教導隊や思金おもいかねの様な教育・研究部隊、救命や衛生管理を行う衛生部隊、兵站や人事、施設の管理運営を行う後方支援部隊の何処に所属するかを決めるものだよ。」


 霜月「対魔庁関連もしくは提携大学への進学という選択肢もあるぞ。

 優ちゃんは、治癒師の資格を持っているから、医大学への進学も選択肢にある。」


 戸神「氷室君、雛元君、山下君が所属するのが、後方支援部隊

 植松君と望月君が所属するのが、衛生部隊だよ。」


「若桜さんは?」


 霜月「彼女は、思金おもいかねと衛生部隊の兼務だ。」


 戸神「思金おもいかねが主所属だよ。」


「そうなんだ。」


 太和「本来なら、卒業式が終わってから説明するつもりだったんだが、ついでだから言っておくぞ。

 現在調整中だが、神城の訓練校の授業の一部が変更になる予定だ。

 能力アビリティ開発訓練は免除、代わりに中部機動戦略隊が戦闘訓練を担当する予定だ。

 訓練校の合宿訓練、能力測定も免除、戦術課の訓練の方に参加予定だ。

 寮は、バス、トイレ、キッチン付きの個室になる。

 あと、状況次第で、衛生兵として緊急出動も有ると思ってくれ。」


「はい、分かりました。

 ところで寮は、相部屋と聞いていたんですけど?」


 山奈「それは、訓練生だけです。

 訓練校の生徒は、基本的な能力制御訓練を受ける訓練生です。

 対魔庁の隊員候補生でも準隊員でも無いんです。

 そして、貴方はです。

 正規の隊員としても、活動もしなければならない貴方と、訓練生を同じ部屋にする事は出来ません。


 それに、法律によって定められているから、訓練校に通うだけで、彼らと同じ事をする必要がありません。

 むしろ、訓練校の授業の大半が、貴方にとって無意味な可能性も高い。

 そこで、訓練校と貴方の実態の差に併せて、貴方の免除される科目を増やす事も考えています。」


 黒崎「これは、特例だけど、過去にも有った話。

 だから、気にする必要は無いけど、どうしても周りからやっかみを受けてしまう事は避けられない。

 その際は、自分で対応しない。

 必ず、担当の機動戦略隊隊員に相談する。

 訓練校の職員は、当てにならない。」


 うーん、今から訓練校貴陽学園での生活が不安だ。

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