第52話 世情の裏側
私は、読み終わった報告書を机に置きため息をついた。
この国の指導者やそれに続く者達の愚かさに頭が痛い。
どうやら、首謀者とその側近の排除だけでは腐った根性の連中は何も変わらないらしい。おまけに敵性国家に成りかねない国々に内部情報を
この報告書には、その愚か者のせいで、侵略の準備が進められている国々の状況と開戦予想時期と侵攻ルート予想が記されている。
クーデターを起こして3日目で、進行準備が完了間際とか外務省の情報収集能力の無さというより、何もやっていなかったのだろう。
この情報も、クーデター以前から対魔庁と自衛隊の広域調査で判明していた内容だし、外務省にこれらの国家に問い合わせを行わせたが、こちら側に何の回答も寄越さない無能さだ。
そして、もう一つ手元にある資料にはその愚か者共の経歴と犯罪履歴が載っており、立証が確定の物と未確定の物が一覧になっている。
その中でも大物、外務省事務次官の立証が遅れている。
そして、今そいつに関係各国への根回しと敵性国家への対応をさせているが状況は
明らかに手を抜いている。
更生するならば良し、そうでなければ立証でき次第粛清するまで。
外務省に頼らない外交と強力な防衛力が必要だ。
自衛隊と対魔庁の戦力を超える絶対的な力の象徴、守護者が必要だ。
たった一人で、戦局をひっくり返すだけの力を持った者、Sランク能力者。
現在、公式に存在が認められているSランク能力者は、7人全員が歩く戦略兵器だ。そして、その7人いるSランク能力者の内5名が自国の防衛に協力する契約を交わしている。それ故、国を守護する者、守護者と呼ばれている。
そして、守護者となったSランク能力者の多くは、個人情報を
私は、呼び鈴を鳴らし補佐官を呼ぶ。
補佐官「岩倉長官お呼びですか?」
岩倉「これから、東海支局教導隊に行く。
直ぐに車の手配を、あと公安長の
補佐官「分かりました」
出ていく補佐官を横目に、引き出しから極秘資料を取り出し、その内容を再確認する。
岩倉「彼、今は彼女か。
こんな子供に守護者になる事を強要しなければならないとは、なんとも情けない限りだ。
前政権の・・・いや我々大人の
しかし、国難に守護者に足る能力者が現れたのは、天の配慮かもしれない。
可能な限り誠意ある対応をしなければならない」
補佐官が車の準備が出来たと呼びに来たので、首相官邸玄関に向かう。
現在、クーデター政権は、ここ首相官邸を政務棟として使用しており、国会議事堂や議員会館等の設備を封鎖している。
正直、人員不足で回らないからだ。
玄関には、公安の補佐官の飯島君と外務省の事務次官の
山出「岩倉長官、どこに行かれるのですか?」
岩倉「ふん、守護者を迎えに行くだけだ」
山出「なぜ、長官自らが迎えに行くのですか?
呼び出せば済む話でしょう」
岩倉「どこぞの誰かが無能のせいだな」
さっさと車に乗り込む。
山出「御一緒します」
岩倉「貴様など必要ない」
山出「そう言わず」
そう言って車に乗り込んでくる。
この愚か者は、私に媚びを売りに来たか、Sランク能力者の情報を手に入れたいだけだろう。まあ、いい。ボロを出したその瞬間に粛清してやる。
飯島「私も御一緒します。佐倉長官より名代を受けたわまりました」
飯島君も車に乗り込む。
山出「さっさと、車を出せ」
この馬鹿を今直ぐ捻り潰したい。
静岡支局の教導隊隊舎に到着すると、玄関に3人の課長が出迎えた。
ここでも、
本当にくだらない。
罪状に関係なく、この件が終わり次第粛清しよう。
しかし、丁度良いタイミングだった。
これから、護衛役の紹介の為主要な人間が集まっているというではないか。
彼らと共に、彼女に会いに行く。
彼女に会って驚いた。そして罪悪感に見舞われた。
資料では彼女の事を知っていた。
神城 優 15歳
世界で8例目の性転換者で、唯一魔力を失わなかった能力者。
世界初事例の発露時Sランク能力者
幼く儚げな外見に膨大な魔力を秘めた子供。
この子に、国の守護者の責務を押し付けなければならない。
私は、彼女に国の守護者として対魔庁に入庁して欲しいと
彼女に付き添う教導官の言う通り、他国の様に守護契約でも問題はない。
彼女に入庁して貰うのは、クーデターが正しい事を対外的にアピールし、各国に理解を求める為でもある。
目の前の教導官がいう通り、我々のエゴなのだ。
飯島君が、反論しているがそれは無意味だ。
既に、我々に周辺諸国を抑える力が無い事が証明されている以上、
彼女は、自分の存在で戦争を回避出来る可能性に掛けて入庁してくれた。
彼女の思いを無駄に出来ない。
必ず戦争を回避しなければならないと心に強く誓った。
しかし、
何故、子供を戦場に送る決断に
何故、戦争を回避の為、協力を申し出た少女を見下せる。
何故、自分が特別だと思える。
何故、自分の行動が正しいと思える。
何故、自分都合の良い結論を相手に押し付ける。
本当に理解できないクズだ。
ああ、今直ぐ処分しよう。
私は、
流石に、この少女の前で殺す訳にはいかないから
次は、意識を刈る。
行動を起こす直前、教導隊の一人が
直ぐに教導隊課長の山本君から、
これでようやく、堂々と
そうだ、ついでに他省と
この少女がこの国の守護者である事が誇りと思える様にしないといけない。
そして、周りを見て確信する。
彼女は、
彼女は既に彼らの仲間になっている。
横では、飯島君が何処かと電話をしていた。
内容は、
既に終わった事だ。
改めて、彼女に入庁の礼と
それと、これからの行動として示威行動を行う事を告げる。
そして、静岡支局教導隊預かりになる事を宣言し、示威行動の内容も任せた。
飯島君も彼女と言葉を交わしていたが、飯島君の言う通り外見からは守護者に成れる程の力ある様に見えないからな。
幼く儚げな外観からは想像できない膨大な魔力と強靭な精神を持った少女。
このまま、健全に育って欲しい。
彼女と別れ、飯島君と共に応接室に戻った。
しばらくして、山本君達3人が戻ってきた。
彼らを交えて、今後の大まかな計画を立て直ぐに行動させる。
私は、人材育成課の山崎課長と共に彼女の両親に挨拶に行く。
私の行動を予想していたらしく、
彼女の両親に、謝罪と事情説明を行い理解を求めた。
本部に戻り、公安委員長の佐倉君に状況説明を行い、追認を貰うついでに彼女の事を飯島君と共に話すと随分と気にし始めた。
なにせ、何時撮ったのか分からないが、飯島君の携帯には彼女の写真が収められており、資料とは全く違った彼女の姿を見て心を痛めていた。
あとは、彼女の示威行動で、敵性国家にどれ程の脅威を植え付ける事が出来るかが鍵だ。
その日の夜遅く、静岡支局教導隊から示威作戦(案)のメールが送られてきた。
そこに記されていた彼女の詳細能力に驚愕した。
その能力を元にした示威作戦。
これで脅威を感じない国があれば、それは
明日朝一に、佐倉の元にこれを見せて承認させなければ。
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