第273話 1年次夏期集中訓練 3日目(7)
食後も気持ちが回復しなかった。
千明さんが私の顔を覗き込む様にしながら
「大丈夫?」
と聞いてきた。
周りを見ると、皆心配そうに見ている。
「大丈夫。何でもないよ」
と答えると、三上さんが
「お前が落ち込んでどうする」
と言った後、大きなため息をつくと
「今回の件は、お前と全く関係ない。
その娘の気持ちが理解出来たからと言って、気にする必要性は全く無い。
確かに不幸な案件ではあるが、我々が手を差し伸べても何の助けにもならない。
むしろ、より深く傷つける事になるだろう。
だから我々に出来る事は、その娘と関わりを持たない事と、こういう事例もあると憶えているだけで良い。
気に病むな」
と言う。
「はい。分かりました」
と答えると
「それで良い。
いくら能力者が、超人的な力を持っていても所詮は人間だ。
なんでも出来るわけではない。
出来ない事を悔やむよりも、出来る事をやれ」
と強く言われた後、美智子さん達の方を向き。
「これは、神城だけに言った事ではない。
君達にも言ったことだ。
肝に銘じなさい」
と力強く言う。
美智子さん達は、気圧され、姿勢を正し、声を揃えて
『分かりました』
と答えた。
三上さんは、ギロリと都さんを見ると
「まだ、納得出来ていない様だな」
と言うと
「いえ、そんなことは…」
と返すが、語尾が段々と小さくなっていた。
三上さんは、都さんを指差し
「お前の消えた友人については、今後一切考えるな。
既に居なくなった人間の事を考えるより、自身の未来と今居る仲間の事を考えろ」
と言うと、都さんは驚いた顔をした。
三上さんは、ふぅと大きなため息をつくと
「本来は、ここまで言うつもりではなかったのだがな。
お前の友人が、今も生きているかも怪しい。
過去の調査では、約6割の人間が自殺もしくは失踪している」
と言うと、都さんの顔は真っ青になった。
「生きていても過去を切り捨てた人間だ。
新しく人生を切り開いて行く決意をした人間の決意に水を注してはならない。
向こうから頼ってきたら、対応する程度で十分なのだ。
それに現状で我々が手を差し伸べても、
この分野の研究は、余り進展していなのが現状だから、どうにもならん。
だから、過去に囚われるのは辞めろ。
その友人の事を思うなら、友人の分まで強くなって活躍してやれ」
と言った。
都さんは、俯き、声を絞り出して
「はい」
と答えた。
三上さんは
「うむ。
よろしい。
では、私は行くぞ」
と言うと、お盆を持って席を後にした。
三上さんが食堂から出て行くと、郁代さんが
「ちょっと怖い人だったね」
と小声で言うと、途中から空気と化していた武井さんが
「そりゃあ、三上主任だからな」
と言った。
郁代さん達は、鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしている
そして頭には、ハテナマークが浮かんでいる事だろう。
私が説明するより先に伊島さんが口を開らき
「三上君は、実質的な東海支局
優しいだけでは務まらないよ」
と言った。
流石にこれだけでは分からないだろうから
「曲者揃いの研究者達を纏め上げている人です。
誰も頭が上がりませんよ」
と補足する。
郁代さんが首を捻りながら
「でも、なんで主任なの?
主任ってあんまり高い役職ではでしょう。
私の両親は、防衛課の研究部門に所属していて、お父さん係長だけど、家でお酒飲んでいる時に部下の主任の愚痴を言ってるの何度も聞いているし、お母さんは主任だからどんな役職か聞いたら、下っ端の役職って言ってた」
と質問する。
「一般的な役職なら一番下の役職だもんな。
三上主任を普通の役職で言うなら、副所長か課長補佐だな」
と武井さんが言うと、伊島さんが
「
そして、東海支局は係りや室制度を廃止したから係長や室長が存在しない。
だから、主任の上が課長になっているだけだよ」
と説明した。
郁代さん以外は、武井さんと照山さんの説明で納得したが、郁代さんは反対側に首を捻りながら
「う~ん」
と唸っている。
「どうしたのかな?」
と伊島さんが問うと
「
と郁代さんが答える。
すると、武井さんが
「
対魔庁の組織は、岩倉長官こと対魔物対策庁審議官の元、戦略本部と防衛本部と支援本部の3つの部に分かれている。
戦術本部は、戦術本部官房長を筆頭に5人の部長と10名の審議官と庶務等が本部として東京の事務所を構えている。
そして各地にある戦術課の部隊は、それぞれが1つの課と言う扱いになっている。
だから、各支局のトップは課長なんだよ」
と武井さんが言うと、伊島さんが
「戦術本部は、少数精鋭で組織されたからね。
だから役職を大幅に減らして、効率化を図っているんだ。
東海支局は、更に役職や係りの壁と取っ払って、効率化とイノベーションを促しているんだよ。
その分、三上君の負担も大きいのだけどね。
そうそう、他の
と補足を入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます