第65話 守護者の実力(1)

 朝6時 横須賀海上自衛隊基地に多数の報道関係者が集まっていた。

 守護者の公開演習の抽選に当たった報道関係者が、入門証と持ち込み機材の検査を受けて軍港に案内されて行く。


 軍事ジャーナリストの土屋つちや 圭吾けいごは、運良く抽選に当たった為、相棒の石川いしかわ 翔吾しょうごと共に此処を訪れ、持ち込み検査を終わって岸壁に向かって歩いている。


 石川「圭吾、守護者の能力をどう見てる?」


 土屋「ん、記者会見での映像で見る限り近接特化じゃないのか?」


 石川「俺もそう思っているんだが、わざわざ横須賀基地が集合場所になるんだから違うのかなと思い始めた。」


 土屋「確かに、そこは引っかかてる。まあ、この後、実際に見られるんだから気にしても仕方ないだろう。それよりも、撮り逃すなよ。」


 石川「当たり前だ。良い映像を撮って、抽選落ちした連中に高値で売らないとな。」


 お互いに馬鹿話をしながら船着き場が見える位置に来ると声を失った。

 なにせ、接岸して停泊している船「護衛艦ひゅうが」の第一甲板だいいちかんぱん(飛行甲板)上に巨大な観覧台が設営されていた。

 観覧台は、艦首側に設置されており、4階層で最上階は操舵室の直ぐ下までの高さがあり、船幅を大きくはみ出して設置されていた。


 報道陣向けの乗り込み用の専用タラップも用意され、第一甲板まで直通で行ける様になっていた。


 石川「うへぇー、15mも登らないと行けないのか。」


 土屋「狭い艦内を移動しなくて良いのは嬉しいが、中も覗いてみたかったな。」


 重い撮影機材を抱えて第一甲板まで登ると甲板上に待機所となる集会用テントが複数個連結され、周囲に目隠しの覆いが着けられていた。

 テントの側には、簡易トイレまで設置されていた。

 しかも、テントも簡易トイレもデッキにしっかりと固定されている。

 艦載機は、1機も見えないからわざわざ下ろしたのか。


 俺達も待機所のテントに入ると、デッキに固定された机と椅子が設置されており、抽選に当選した報道関係者であふれかえっていた。

 知り合いの同業者と合流して雑談を交わしながら出港の時を待つ。


 7時になり出港のアナウンスが流ると護衛艦は離岸を始める。

 俺は、滅多に見れない光景を撮る為、テントの外に出て撮影を開始した。

 同じ様に撮影している者や、生中継をやっている者も居る。


 沖合には、護衛のため待機していた護衛艦3隻が合流して海上を進む。

 俺は、テントに戻り仲間達や他の同業者達と情報交換をしつつ、機材の手入れをして時間を潰す。

 やはり話題になるのは、周辺諸国の動向と日本の守護者になった者の能力についてだった。

 周辺諸国の動向はハッキリ言って悪い、最悪の一歩手前という状況だ。

 既に侵攻準備の完了している国もあり、いつ侵攻を開始してもおかしくない状況だ。

 守護者については、公開された情報が少ない為、判断出来ない状況だ。


 映像解析が得意な連中からは、超強度コンクリートを破壊した際の映像に映っていた手から、守護者は子供もしくは小柄な女性の可能性が高いという。

 他の同業者からは、国内にいるランクA能力者の動向から、ランクA能力者がランクSにステップアップしていないという。


 クーデター政府による捏造ねつぞうを疑う必要があるだろうだからか、全ての報道機関が魔力感知カメラを準備してきている。

 当然、俺達も持ってきている。

 俺のカメラは、通常とランクSまでの魔力状態を両方同時に撮れ、高速連射撮影対応の特別仕様だ。

 翔吾の方は、通常とランクSまでの魔力状態の動画を両方同時撮れるビデオカメラだ。

 当然、メモリーもバッテリーも大容量搭載してあるので、公開演習中に容量不足も電源交換も必要ない。


 横須賀基地の手荷物検査場では、魔力感知カメラを所持していないなら貸し出すとまで言っていたから、相当自信が有る様に思える。

 俺としては守護者に期待したいが、子供や女性を戦場に送り出す事になると思うと良心の呵責かしゃくを覚える。


 公開演習開始30分前になり、観覧台に上がる許可が降りた。

 許可証に書かれた場所での撮影になるので、機材の設置に移動を開始しようした所で落下制止用器具と救命胴衣を渡され、装着するように言われた。


 石川「安全装備なんか渡してどうするんですかね?」


 なんとなく嫌な予感がする。

 船が大きく揺れる事が想定されているとしか思えない。

 土屋「観覧台から落下を予防したいんだろう。機材も落下防止をしよう。」


 石川「了解っす。」


 撮影場所は、腰高の柵で幅1m弱に仕切られており、他のブースにはみ出せない様になっている。

 頭上には、フックを掛ける場所が設置されていた。

 俺達の場所は、最上階の船首に向かって左端だった。

 景色は絶景で、後ろを向けば第一甲板と大海原が見える。

 前方に島が見えた。

 あそこで公開演習が行われるだろう。

 スマホの地図とGPSデーターを併せてもあそこに島はなかった。

 なら、あの島は人口浮遊島「演習島」なのだろう。

 存在は知られていたが、一般公開された事が無い対魔庁の演習場。


 その事に思い至った俺は、カメラを取出し島の写真を数枚撮った。

 この写真が、後に貴重な一枚になるとは思いもしなかった。

 その後は、時間がなかったので大急ぎでカメラの設置を行った。


 開始時間間際になって、船は島の前に停船した。

 公開演習の会場は、かなり広い。

 両翼400mを超えているし、奥行きは1,000m以上有るだろう。

 船の観覧台から会場までも200mは離れているだろう。

 この事は、事前に告知されていたので、全ての報道陣が望遠撮影対応で来ている。


 開始時間になり、30機を超えるドローンが一斉に飛び立ちアナウンスが流る。

『これより、守護者による公開演習を行います。

 これに先立ち、戦闘能力指標となる破壊砲ブラスターキャノンによるデモンストレーションを行います。』


 アナウンスの直後に、演習場に双発ヘリコプター(CH-45J)が飛来して、演習会場に着陸し、5名の対魔庁の隊員が破壊砲ブラスターキャノンを担いで降りてくると、こちらに敬礼後赤く塗られたまとを撃った。

 2m四方の超強度コンクリートのまとは、大きくすり鉢状に抉れている。

 これを指標として見ろと言っているのか。


 破壊砲ブラスターキャノンを撃った隊員は、こちらに向き直って敬礼後、破壊砲ブラスターキャノンを担いで全速力でヘリコプターに乗り込んだ直後に飛び去った。

 異常なスピートで飛び去るヘリコプターを見て言い知れぬ不安が襲ってくる。


 ヘリコプターが見えなくなった所で、『守護者の登場です。』

 とアナウンスが流れた為、大急ぎで周辺を確認していると周囲から「あ、」という声が聞こえた直後、俺達の前を何かが横切った。

 直後に、爆音と衝撃が体を襲った。

 俺は、その横切ったものに必死にカメラを向けてシャッターを切った。

 そいつは、船を大回りすると何事もなかった様に演習場に着地した。


 遠くて姿はハッキリと分からないが、こいつが守護者だと分かる。

 魔力感知カメラの映像では、魔力が強すぎて真っ白にしか映っていない。

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