第66話 守護者の実力(2)

『これより、守護者による公開演習を開始します。

 1のまとにご注目ください。』


 全員の視線とカメラが対象のまとに注目する。

 まとの配置図は、乗船時に貰っているので頭に入っている。

 1のまとは、1辺20mの四角形を描くように4つ置かれており、気がついたら守護者がその中央に立っていた。


『拳による攻撃になります。』

 アナウンス後、1秒程タメがあった直後、まとの前に瞬間移動した守護者の姿があり、次の瞬間にはまとが爆裂音を残して消失していた。

 まとの前に現れて0.5秒とかからずまとが消失して次のまとの前に守護者が現れる。

 時計回りに4つまとは、消失していた。


『続けて、2のまとへの連続攻撃になります。』

 2のまとは、10m間隔ぐらいで5個一直線に並んでいる。

 2のまとも、瞬間移動してきた守護者によって一瞬で5個のまとが消失した。


『3のまとを御覧ください。

 守護者専用、破壊砲ブラスターキャノンによる射撃になります。』

 3のまとは、破壊砲ブラスターキャノンのデモンストレーションが行われたまとの隣に10m程離れて設置されている。

 守護者は、デモンストレーションで破壊砲ブラスターキャノンを撃った地点に移動が既に完了しており、背負っていたライフルを1丁手にしていた。

 しかし、なぜライフル?しかも2丁も?


『守護者専用破壊砲ブラスターキャノンは、守護者専用に再設計を行った結果、小銃ライフルサイズまで小型化に成功しました。

 その性能をご確認ください。』


 アナウンス後、守護者がライフルを立ち射ち姿勢で構えて撃った。

 まとを貫通して背後の斜面に当たったらしく、土煙が上がっている。

 この距離では、まとの穴を確認するには距離が有りすぎるので、本当に貫通したのかは分からないが、魔力感知カメラでは貫通した様に見えた。


 守護者は構えを解き銃口を下げた、そのままの姿勢で10秒程いたと思ったら、再び射撃姿勢を取り、まとを撃ち始めた。

 今度は、1発では無く何発も撃ち込む。

 まとがどんどん穴だらけになり、背後では土煙が上がり続ける。

 俺達の距離でもハッキリと破壊されるまとが見て取れる。

 ある程度穴だらけになった所で、射撃が止まった。


 守護者が、右手に持ったライフルの銃口を頭上に掲げている。

 なんのパフォーマンスかと思っていると、銃口が光りだした。

 良く見ると銃口に白く輝く球体が膨張している。

 魔力感知カメラには、段々と白くなっていく球体が映し出されている。

 魔力値がランクAを超えて、ランクSになった頃、白く輝く球体は野球ボール位の大きさになっていた。

 守護者が再び射撃姿勢になり銃口の球体を撃った。

 まとに当たった球体は、白い閃光を放ち爆発した。

 閃光が収まると、まとは消失し、地面も球形に抉れ、隣りにある指標となる最初のまとも1/3程消失していた。


『次は、守護者による斉射せいしゃを行います。』

 その言葉で、慌てて守護者に視線を移すと、両手にライフルを持っていた。


 その場に立ち、両手のライフルを構えた後、両手のライフルから連射される破壊光線が、演習場のあちこちに配置されたまとを撃ち抜いていく。

 しかも、途中から守護者は地上、空中を瞬間移動しながら銃撃と蹴りで撃ち抜き、グレネードの様に爆発する光球を混ぜながらまとと周辺地形を破壊していく。

 唐突に、銃撃が止まると、警報も鳴り止んだ。

 もうもうと立ち込める土煙が晴れると、60も有ったまとも1つのまとを除いて消え失せ、ほぼ中央にある1つだけ無傷に残っている。

 守護者は、そのまとの前に降りるとライフルを地面に置き、まとに近づくと持ち上げて上空に蹴り上げた。

 俺達は、打ち上げられたまとを追って目線を上げる。

 十分な高度まで打ち上がったまとに、地上から弾幕が襲う。

 地上から光球が上空に撃ち上がる。

 ボロボロになったまとに光球が着弾して閃光と共に消失した。


『右舷前方の海上を御覧ください。

 対艦隊戦を想定した標的を用意しました。』


 アナウンス通り、海上にはデコイと思われる船が10隻浮いている。

 周りの人達が上を向いてる。

 俺も上を向くと、上空でライフル2丁を構えている守護者の姿があった。

 その銃口には、白く輝く球弾が鎮座していて、大きくなっていく。

 俺は、呆けたようにカメラでその様子を撮り続けた。

 サッカーボール位の大きさになった球弾2つが、一つに融合して大きさが倍以上になった。

 守護者は、融合した光球をデコイの艦隊に向けて撃った。

 高速で飛ぶ光球を必死にカメラで追う。

 デコイ艦隊の中央付近から、光り輝く半球体の壁が膨張しながらデコイを飲み込んでいく。

 膨張限界まで達した半球体は、そのまま破裂するように弾け護衛艦を大きく揺さぶる程の爆風をもたらした。

 俺は、慌てて柵に掴まったため難を逃れたが、安全帯のおかげて落下を免れた者も大勢いた。

 揺れが収まり胸をなでおろした時に気づいた。

 護衛艦が高速後進をかけて、演習島から離脱していることに。


 慌てて守護者を探すと、演習島上空で再びあの破壊の光球を生成していた。

 目標は、演習島?


 とにかく撮らないと。

 その思いで、カメラを向け続ける。


 そして放たれた破壊の光球は、演習島中央付近に着弾し、眼前に光の壁が迫ってくる。

 光の壁は、船の手前25m位まで迫ってきた。

 臨界を超えた光の壁は、直後に爆風を撒き散らし、爆風が我々を襲って来た。

 船は、強力な力で後ろに押され、俺は柵に必死にしがみつく事しか出来なかった。

 どれくらい経ったのか分からない。

 1分にも満たないと思う。

 ほんの数秒なのかもしれない。

 風がなくなっているのに気づいて、顔を上げ演習島を見ると島影が全くなくっていた。

 静寂が包む中、守護者を探すと、先程と同じ上空でライフルを背をっている最中だった。

 呆然としながらも、カメラを構え、写真を撮る。


『これにて、守護者による公開演習を終了します。』


 守護者がこちらに敬礼した直後、消えた。


 俺は、しばらく放心していたが、これで終わった事は理解できた。


『当艦は、これより横須賀基地に帰投します。

 報道関係者の皆様は、第一甲板の待機所に退避願います。』

 このアナウンスが3回流れたところで、ノロノロと機材の片付けを始めた。


 機材を片付け、翔吾と共に待機所に戻る。

 待機所は、重苦しい雰囲気と沈黙に包まれ、機材を扱う音だけが響いていた。


 日本の守護者となった者は、人の範疇はんちゅうを超えすぎている。

 突き抜けすぎた強さは、恐怖しかなかった。


 ランクSの能力者は、戦略兵器級というのはよく知られているが、アレは違う。

 他のランクSなら、街や都市を壊滅かいめつさせる程度だが、アレは街や都市を物理的に消滅させる。

 ランクA能力者なら一撃しか使えない破壊力の攻撃を、何十、何百と連発していた。

 それよりもあの破壊の光球、下手な戦略兵器より強いのでは。


 ランクSをよく「一人軍隊ワンマンアーミー」と称しているが、その称号はアレにこそふさわしい。


 止め処無い考えが頭を支配する。


 気持ちを切り替え、俺が写真、翔吾が動画を撮っていたので確認する事にした。

 確認してみると案の定、半分以上が使い物にならない物だった。


 むしろ確認して分かった事の方が、やばかった。

 アレは、あれでもまだ手加減していた事が判明したからだ。

 公開演習開始時と終了直前の魔力感知カメラに表示されている魔力状態が全く変わっていなかったのだ。

 その事を待機所で漏らしてしまった為騒然となり、メディアの垣根を超えての検証を行う事になった。

 結果、余力を十二分に残して、むしろ殆ど魔力を消費せず、あの破壊力だと分かり戦慄せんりつが待機所を支配した。


「手抜きをして、あの破壊力かよ。本気を出したら、全てが滅びるんじゃないか。」

 誰かの呟きが、全てを表していた。

 

 横須賀基地で解散する報道陣俺達だったが、あの時間を共有した報道陣俺達には連帯感が生まれていた。

「守護者を戦場に出せば、敵を一方的に殲滅する未来しか無い。だから、絶対に敵対させてはならない。」

 その思いをそれぞれが持って、自分達の戦場職場に戻っていった。

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