第198話 中間試験

 私達を目の敵にしている派閥の動向を確認した後、時間まで田中さん達の勉強を見守った。


 田中さん達が帰った後メールの確認をすると、若桜さんからメールが入っていた。

 内容は、久喜さんに言われた内容に対する返信だった。

 直接診断していないので詳細はわからないが、バイタルメーターのデータからも、私の推論が正しいと思われると書かれていて、しばらくその状態を維持してみて欲しいと言う内容だった。

 あと、無理をしないようにと3回も書かれていた。


 「分かりました。継続してみます」

 と返信した。

 この日は、少し早いが寝る準備をして寝た。


 試験前の日曜日だが、やることは普段の日曜日と変わらない。

 朝から魔力訓練と高圧縮学習装置を使った学習を行う。

 違う点は、合間合間のスキマ時間に試験勉強を行い。

 夜の技能スキル訓練の時間を少し縮めて、試験勉強時間を長くしたくらいだ。


 試験初日、この日の朝も普段通り朝訓練を行ってから教室に行く。

 普段と違い、試験前の独特の雰囲気が教室を包む。

 普段通り過ごす者

 友達同士で、試験内容の確認を行う者

 必死に教科書を読んで、頭に叩き込もうとする者

 既に燃え尽きている者

 机にうつ伏せになって寝ている者

 等々様々だ。


 霧崎教育官の朝のホームルームが終わり、1科目の問題用紙が裏向きで配られた。

 独特の静寂の中、チャイムと共に開始された。





 この日のテストは、午前中で全てが終わった。

 私は、問題なく解けたので、そこそこの点数が取れると思う。

 田中さん達も

「不思議と解けた」

「たぶん、平均点は取れてると思う」

「問題無いと思いたい」

 と言った感じだった。


 食堂でお昼を食べながら午後の予定を決めると言っても、普段通り訓練を行うだけだ。

 普段と違うのは、訓練と訓練の合間に試験勉強を挟む位かな。


 一旦寮に戻って訓練着に着替え、勉強道具を持って玄関で待つ。

 田中さん達も、訓練着に着替え、勉強道具と着替えを持ってやって来た。

 皆で一緒に宿泊棟に向かう。


 離れた所から尾行してくる者が3人。

 寮を出る前から、物陰から私達の様子を見ていた。

 今も各人が一定以上の距離を取って、身を隠しながら着いてくる。


 私達は、いつも通りの道順で宿泊棟に向う。

 田中さん達4人は、尾行されていると気づいていない。


 そして、いつも通り、既定のルートを通って角を曲がる。

 尾行者も私達に続いて角を曲がるが私達を見失う。

 尾行者達は、私達が進んだであろう方向に向かって慌てて走りだすが、それは明後日の方向だ。


 これは、私が何かをした訳ではない。

 元々宿泊棟周辺には、容易に人が近づけない様に、特殊な結界が張られている。

 この結界は、結界から先の風景を偽る事と、結界に触れた者の方向感覚をずらし、結界中心部から遠ざかる方向に進行方向があると思わせる効果がある。


 この結界を通過するには、一定以上の力がある能力者か、セキュリティキー持って規定されたルートを通るか、結界を無効化する特殊装置を身につけるしか無い。


 私や隊員達は、この特殊結界の効果の影響は無い。

 田中さん達は、教えた既定のルートとセキュリティキー持って通っている。

 そして、南雲さんは無効化装置を持っている。

 南雲さんが無効化装置を持っているのは、よく考え事をして歩いており、考え事に集中して規定ルートから良く外れるからだ。

 セキュリティキーと無効化装置は、キーホルダーサイズなので持ち歩く不便も無い。


 何故この様な結界が張られているかと言うと、宿泊棟は世間から隠匿いんとくする必要な人達をかくまう施設だからだ。

 あまり強力な結界だと、結界の存在から場所を特定される可能性があるので、方向感覚をずらすという変わった仕様になっている。


 だから、訓練校の教育官や戦術課の一部にしか知られていない。

 なので、今まで訓練生に気づかれる事はなったのである。


 ちなみに、この特殊な結界は、思金おもいかね謹製の結界発生装置で作られている。

 この結界の欠点は、あくまで方向感覚をずらすだけなので、結界が無効な人やセキュリティキーか無効化装置を持った人と一緒に居ると通過出来てしまうし、偶然辿り着く事もある。

 だから注意が必要なのだ。


 それに最近、私達の事を快く思って無い人達が、私達の周辺をコソコソと調べているのは知っていたので、一応気をつけている。

 尾行もその一環だろう。

 尾行は、ゴールデンウィークが終わってから行なわれる様になった。

 万が一を考えて、別の既定のルートも教えた方が良さそうだな。


 後で、思金おもいかねにセキュリティの強化も依頼しよう。

 そんな事を考えながら、宿泊棟に入って行く。



 宿泊棟での田中さん達の訓練は、魔力調律訓練、武術訓練、高圧縮学習装置を使った学習後、夕食の時間まで試験勉強を行った。

 隊員達が田中さん達が武術訓練を施している間は、私は筋トレを行っていた。

 実際に筋肉が付いたかどうかは、数週間後に判明するだろう。

 私としては、筋肉が付いて欲しい。

 正直、最近は見慣れたが、腕も脚も細すぎる。

 当然、身体も細い。

 自分の身体ながら、よく折れないものだと思ってしまう程の細身なのだ。

 身体が壊れないのは、魔力に依る身体の保護と筋力強化の賜物だと分かっていても不安だった。

 それが解消して欲しい。

 ついでに、身長も伸びて欲しい。

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