第197話 テスト前の出来事(7)
戦術課と防衛課の確執。
愛知方面隊は、特に地元意識が強い部隊の一つだ。
同じ地域に、エリート部隊である戦術課が居る事を快く思っていない。
なにせ彼らからすれば、余所者の集まりで、上位組織で、全てに優先権と決定権を持っている。
即ち、全てにおいて気に食わないのだ。
そして神崎は、その確執を
その結果、防衛課の隊員の多くが地元採用となり、戦術課と防衛課との確執を根深いものとしていった。
全く持って前政権の残した厄介な問題だが、武装組織としては指揮系統の混乱を招くので、この件を容認できない。
そこで神崎が失脚後は、主要な支持者を排斥して組織改編を行った。
また、排他主義を取り除く為に、合同訓練が行われる様になったのだが、愛知方面隊は態度を軟化する事無く、むしろ硬化させていった。
それが今回表面化したにすぎない。
対策としては、2種類ある。
ます1つ目が、中部方面隊の主要な要職に愛知県出身者を据える方法。
この方法だが、戦術課に合格した愛知県出身者は、何故か地元に戻る事を強烈に拒否するので実現は不可能だ。
2つ目は、反抗の意思が持てなくなるまで、実力差と上下関係をその身に叩き込む方法だ。
正直、あまり良い方法だと思わないが、彼らが軟化しない以上、命令系統の維持と絶対的な上下関係を築く必要があるから仕方が無い。
その上で、大半の隊員を他県の隊員と入れ替える予定だ。
防衛課愛知方面隊の大磯司令が避けたかった事態が、現実になってしまった。
あと、中部方面隊の駐屯地を他の県に移設すれば良いのではと思われるが、これは愛知方面隊を図に乗せるだけなので、選択肢としはありえないし、重要な都市である名古屋と浜松の間に戦術課の駐屯地が設置されているのだ。
だからこそ、愛知方面隊を屈服させる事で話が進む事になった。
この件は直ぐに本部に上申され、本部の承認が下り、教導隊の協力の元行われる事が決定した。
今回は4部隊だけだが、順番に全ての部隊に懲罰的訓練を行う事も同時に決定した。
まあ、特務防衛課への移動か懲罰的訓練の2択を突き付けた訳だから、退庁も移籍も不可能になっている。
脱走すれば、討伐隊が送られ確実に処分される。
なので、必然的に懲罰的訓練を受けざる得ない状況になった。
愛知方面隊は、神崎が実権を握っていた時代の感覚が抜けていない証拠を自ら示し、墓穴を掘った訳だ。
これが、私が駐屯地から訓練校に戻る間に知らされた決定事項だった。
私が思っていたよりも遥かに大事になっているし、決定も早い。
それだけ重大かつ懸念案件であり、他の地域の防衛課への牽制と組織改革を含んでいるのだろう。
寮に戻ると、玄関に田中さん達4人が居た。
時刻は、18:35位だ。
訓練予定時間には、まだ余裕があるのに玄関に集まっている理由を聞くと、今日も部屋と共有スペースを占拠されて居場所が無くて、自然と此処に集まったそうだ。
日中は、宿泊棟の居たから問題は無かったが、入浴後も占拠は続いているとの事。
そんな彼女達を部屋に上げ、私は着替えもせず、昨日の続きの訓練を行う。
20時まで訓練を続け、引き続き試験勉強をして貰う。
その間に私は、シャワーを浴びに行く。
シャワーを終え、体の手入れをし、長い髪を乾かし終わって部屋に戻る頃には、21時近くになっていた。
4人共、勉強に集中していて、私が出てきた事に気づいていない。
広域探知で寮内を確認すると、田中さん達の部屋に居座っている人達が移動を開始した。
4グループの目的地は、おそらく談話室だろう。
昨日も、この時間に談話室に移動して、私が寝る時間を過ぎても集まっていた。
内容は矢野さんも把握していると思うが、遠隔操作可能な小型のゴーレムを談話室に忍ばせて状況を確認している。
時折確認すると、雑談に興じていたり、上級生が下級生に勉強を教えていたりしている様だ。
合流した者達は、雑談の輪に加わるだけだった。
この談話室の奥まった所に居る数人は、不機嫌を隠す事なくイライラとしている。
様子を確認すると、まあ、愚痴の嵐だった。
コイツラは女子寮最大の派閥で、田中さん達にちょっかいを出した派閥の幹部で、私の入学の際に文句をつけて、候補生資格を失った3年生達だ。
そして、今の性もない嫌がらせの主犯だ。
もっとも、それも雀の涙程度の効果しかなく、むしろ自分達の首を閉めている事に気づいて愚痴っているのだ。
当面、放置で良いだろう。
解散指示を受けた後も集まっているのは、元派閥の本流のみが集まった新しい派閥で、元の派閥の1/3程度に縮小した。
他の面々も、それぞれの小さな集まりになっている。
この事は、私だけでなく寮監も知っていて放置している。
それは派閥には、上下関係を築くだけでなく、上級生が下級生を指導する事で、訓練校で教えきれない部分を補う役目もあるのだが、同時にイジメや対立の温床でもある。
その為、常に監視されているのだが、当人達は気づいていない。
気づいていたら、こんな場所で愚痴を零す事などしないからだ。
そして、不穏な動向等を察知したら、問答無用で叩き潰すのだ。
だから、訓練校の寮では、大きな不祥事が起こらないのだ。
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