第138話 4人の初訓練(1)

 都竹さんがスマートフォンをを片付けていると、田中さんが

「私も指導してくれませんか?」

 言ったのを皮切りに、残りの3人も指導を志願してきた。


「言っておくけど、私の指導って厳しいし、幾つか条件つけるけど良いの?」

 という問に

「頑張る」

 と返されてしまった。


「分かりました。

 貴方達に教導を行いますが、あくまでも貴方達の自主訓練の一環として行いますが、良いですか?」

 と訊くと

「はい、お願いします。」

 と声を揃えて返事が返ってきた。


 私は、机の上に置いていたパソコンとプリンターを立ち上げ、契約書を印刷して1人1部ずつ手渡した。


「なにこれ?契約書?」


「私が貴方達に教えるに当たって、東海支局教導隊と思金で作成中の訓練プログラムを使用します。

 その訓練プログラムの検証データの取得と管理に関する契約書です。

 要は個人情報が含まれるのが、効果検証以外には使いませんという内容です。

 よく読んで、理解したら署名してください」

 と言うと土田さんが

「内容がよく分かりません」

 と返答し、他の3人も頷いている。


 なので、契約書の内容を噛み砕いて説明した。

 内容は、

 1.機密保持

 今回の訓練プログラムの内容を親族を含む第三者に教えない事。


 2.訓練データの収集

 訓練前後及び経過状態のデータ収集を行います。


 3.訓練データの扱い

 各人の訓練データは、思金おもいかねが管理する。

 収集したデータは、訓練プログラムの分析以外には使用しない。


 4.訓練プログラムデータに対する報酬

 訓練プログラムを全て終了後にプログラム成果により、5千円から10万円相当の報酬を用意します。


 5.違反時の罰則

 こちらが指定する強制ボランティアを行ってもらう。

 内容は、違反内容により変わる。


 大体こんな感じだ。

 内容を聞いて報酬が貰える事に驚いていたが

「訓練と同時に実験でもあるので、訓練成果データを取得するので正当な対価です。それに、報酬は思金おもいかねの予算から出るから大丈夫」

 と説明した。

 その後4人は、契約書に署名した。


 私は、署名した契約書をコピーして、コピーしたものを渡した。

 こういう時、レーザープリンター複合機を持っていると便利だね。

 4人共、個人でレーザープリンターを持っている事に驚いていたが、SOHO用なら個人でも手が届く製品もあるのだ。


 この後、4人は自分の部屋に帰っていった。

 寮の消灯時間は、22時になっていて、21時を過ぎていたので帰した。

 私の部屋の下は、寮監室なのだ。

 そして、各人の部屋に戻るには、寮監室の横を通る必要がある。

 なにも問題が無くても寮監さんから睨まれたくないから大人しく帰ってくれた。


 なにせ、訓練校の寮監は、全員元対魔庁の隊員でランクD以上の実力者なのだ。

 第一線から身を引いた人達とはいえ、訓練生程度では束になっても勝てない人達だ。


 まあ、22時に消灯とは言っても、殆どの訓練生が部屋から出ないだけで起きている事が多いのだけど、もちろん私は寝る。

 なので契約書をデータとして取り込み、三上さん宛に電子メールで送る。

 明日、彼女達に行う訓練の内容を確認してから、寝る準備をすると22時になったのでそのまま就寝した。



 翌日、普段通りに朝のルーティン、朝食、朝の魔力制御訓練棟での訓練をこなして現在7時ちょっと前、いつもなら8時位まで訓練を行うけど、今日から朝の1時間で4人の訓練を行う事にした。

 訓練は基本的に毎日行うが、訓練校の行事や個々の都合が悪い日はお休みにする予定だ。

 魔力制御訓練棟の前で数分待つと、元気いっぱいの4人がやって来た。

 どうやら、私の訓練が楽しみだったらしい。

 4人を連れて魔力制御訓練棟に入る。

 4人共、「え、やっぱりここに入るの?」みたいな感じで建屋に入る。

 更に地下階に向かうとソワソワしはじめた。

 構内見学の時は、地下階の説明はなかったからな。


 セキュリティの掛かった扉を私のIDカードで開けて中に招き入れる。

 4人は、私がいつも使っている魔力制御訓練室を、物珍しそうに見渡している。


 私が、装置の制御装置コンソールを操作して、魔防装置を起動し、壁一面が鏡になっている一面に黄色の人形ひとがたの枠を4つ表示させる。


 驚いている4人に

「一人一枠、自分の全身が鏡に収まるように立って」

 と呼びかけ、4人が横一列に鏡の前に整列した。


「魔力の登録をするから動かないで」

 と声を掛け、コンソールを操作する。

 魔力の登録が終わった人の枠が、緑色に変わる。


 4人の魔力の登録が終わると人形の枠が消え、ただの鏡状態に戻った。

「次は、その場で魔力を最大限に高めて維持」

 4人共目を瞑り、気合を入れる感じで、思い思いに魔力を高めている。


 5秒、10秒と時間が進むに連れて、顔が紅潮しているので、息を止めているのかな。

 13秒過ぎた所で、鳥栖さんが脱落すると直ぐに、田中さん、土田さんも脱落。

 都竹さんが31秒維持できた。

 現時点の彼女達の魔力量は、1,202~2,021MPで、都竹さん以外は訓練校に入学した直後の生徒の平均な値だった。


「楽にして、息を整えて、これで訓練前のデータ収集は終わり」

 彼女達の前にゆっくりと移動する。


「息も整った様だから訓練を始めます」

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