第137話 都竹母、乱入(2)

「私は、まだ、高等学校卒業程度認定試験を受けていないので、今年度は在校しますよ」


『そうですか。可能なら、娘も少し鍛えて欲しいです』


「それは、本人しだいです」


「ちょっと、お母さん、神城さん、どういう事?」


「私に都竹さんのお母さんが訓練の依頼をしたこと?」


「そうじゃなくて、まるで1年で卒業するみたいな事言っているから」

 言葉尻に進むに連れて、声が小さくなっていった。


『神城教導官みたいに訓練校に行く必要の無い人は、半年から1年で卒業するのが通例よ』


「訓練校に行く必要が無い?」


『ええ、そうよ』


「どういう事?」


『訓練校は、一般の公立高校に能力アビリティの基礎訓練を課した学校よ』


「うん、それは分かる」


『神城教導官は、訓練校で学ぶ事が何もないのよ』


「学ぶ事が無い?

 能力アビリティの基礎訓練なら分かるけど、学科は必要でしょ?」


『いいえ、違うわ

 神城教導官は、上級の治癒師でもあるそうよ。

 この国家資格を取るには、医科大学の4年生相当の知識が必要らしいの。

 だから、本当に訓練校で学ぶ内容が無いのよ。

 それに、訓練校は文部科学省の管轄で無いから、資格さえ有れば飛び級も出来るのよ』


「そんな」

 言葉を紡ぎ出した後、泣き出してしまった。


 私は、都竹さんの肩に手を置いて

「少なくとも、1年はここに居ますよ。

 2年目以降は未定ですが、対魔庁関係の医科大学に進学予定です」


「2年目以降が未定なのに、進学先は決まっているの?」


「医師免許が無いと、色々と不便なので取得します」


「不便だから、医師になるって普通考えないよ」


 微笑みながら

「半分は、部隊指示だからね」


 田中さんが叫ぶように

「神城さん、都竹さん、私達も居るからね」


 土田「そうよ、時間が限られているなら、それ以上に濃厚な時間を過ごせばいいだけよ」


 鳥栖「いっぱい、思い出を作ろう!」


 田中「学校を卒業したら、友達も終わりではないでしょ。

 その先もずーと続く関係を作ろうよ」


『そうね、まだ1年も時間があるのだから、友好を深める時間はあるでしょう』


「うん、そうだね。取り乱してごめんなさい」


 周りの雰囲気が落ち着いた所で、土田さんが

「ところで、聞いてもいいですか?」


『どうぞ』


「教導官ってなんですか?

 教育官との違いって、なんなんですか?」


『教導官と教育官の違いか-。

 確かに、外部の人からすると分からりづらいね』


「教育官は、教育課に所属していて対外的な教育を行う部隊です。

 なので、訓練校や大学校の様な教育機関の運営も行っています。

 教導官は、戦術課に所属していて戦術・戦技の開発、新装備のテスト、部隊訓練等を行っています」


 土田「えーと、教導官と教育官は、全く別物?」


「全くの別物です。

 教育課が非能力者も教育の対象にするのに対して、教導隊は戦闘部隊しか訓練の対象にしません」


 土田「非能力者も対象?」


「普通に考えてください。

 対魔庁を能力者だけで運用する事はできません。

 能力アビリティに依存しない仕事。

 事務や設備・車両等の整備・維持・管理を始め、通常医療、福利厚生等々に、非能力者の方が多く在籍しています。


 また、非能力者でも対魔庁の関係者になるので、配属先に依ってはそれ相応の戦闘技術を持つ事が求められる部署もあります。

 そういった方々への戦闘訓練も教育課の仕事です」


『後方支援部隊の車両隊なんかが該当するわね。

 前線への人や物資の運搬を行う部隊で、大半が非能力者か低戦闘能力者で構成されているわ』


 土田「へぇ-、そうなんだ」


『だから、教導隊は戦闘のエリート集団なのよ。

 折角の機会だから、指導を受ける事を薦めるわ』


「私は戦闘のエリートと呼ばれる程、経験を積んでいません」


『今日の模擬戦を見たら、誰もそんな事思わないわよ。

 戦闘特化、それも近接組と遠距離組が手も足も出なかったのよ。

 しかも、貴方の能力アビリティ、支援型だって言うじゃない』


 都竹「え、支援型で圧倒したの?」


『そうよ。

 能力アビリティではなく、技能スキルによる戦闘。

 技能スキルも極めると、能力アビリティと遜色がないと思い知らされた模擬戦だったわ。

 本当に私達も学ぶ事が多かった模擬戦だった。

 それだけの技巧者から学ぶ機会なんて、滅多に無い事よ』


 田中「そんなに凄いことなんですか?」


『そうよ。

 貴方達はまだ習っていないから知らないと思うけど、能力アビリティ技能スキルでは、同じ能力・同ランクなら能力アビリティより1ランク以上劣ると言われているわ。

 でも、神城教導官の戦闘では、能力アビリティと同等以上の技能スキルを使用して見せたの。

 本当に凄い事よ』


「魔力制御を鍛えれば、誰だって出来るようになります」


『なるほど、魔力制御を鍛えるのね。

 食堂で伊坂君が言って事は、事実っぽいね。

 それじゃあ、そろそろ休憩時間が終わるから、またね~』

 そう言って通信が切られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る