第136話 都竹母、乱入(1)

 一瞬躊躇したものの、都竹さんは私の手を取り

「分かりました」

 と答えた。


 状況が理解出来ていない3人は、その様子を不思議そうに見ていた。


 鳥栖さんが遠慮がちに

「あのー何があったの?」

 と聞いてきたので

「大した事では無いよ」

 と答えると都竹さんが

「大した事無いよじゃないよ。これは、皆で共有しておくべき話だよ」

 と反論された。


 大きく深呼吸した後

「神城さんの特別待遇の理由がハッキリと分かったから、聞いてほしいの」

 と言うと、皆興味津々という感じで都竹さんに注目した直後、誰かのスマートフォンの着信音が響いた。


 確認すると、都竹さんのスマートフォンだった。

「ごめんなさい。お母さんからだ」


 取り敢えず、電話に出てもらう。


「もしもし、お母さん。どうしたの?


 ご飯? 食べたよ。


 そういう情報は、もっと早く欲しかった。

 所で、要件はそれだけ?


 私に忠告?


 友達にも教えた方が良いの?

 今、友達も一緒にいるから、一緒に聞いたほうが良いのかな?


 うん、分かった。スピーカーに切り替えるね。

 え、ビデオ通話。

 うん。分かった。

 一旦切るね」


 直ぐに通信が着て、ビデオ通話を始める。

 スマートフォンを立て掛けて、皆が映るようにする。

 私は、それとなく画面に入らない位置に移動する。


『はじめまして、みやこの母親の圭子けいこです』


 皆、それぞれ挨拶を交わした。


『それにしても、良かったわ。

 こんなにお友達が出来て。

 この娘、ちょっと人見知りだから、心配していたのよ』


「お母さん、そんな事より忠告って何?」


『そんな事ってどういう事よ。

 親として娘を心配していただけなのに。

 まあ、いいわ。

 あんまり時間を掛けると休憩時間が終わってしまうわ。


 今日、私達の所に教導官が来たのよ』


「教導官?」

「何処かで聞いたような?」

 田中さんと土田さんが小声で確認している。


「お母さん。

 いきなりそれだと分からないよ。

 私のお母さん。

 機動戦略隊の隊員なんだ。

 だから、多分、駐屯地に教導官の人が来たって事だと思う」

 随分と疲れた感じの合いの手が入ったので、どうやら日常的なやり取りの様だ。

 周りから驚嘆の声が上がっている。


『そうそう。その通りよ。

 それで、その教導官の人と3回模擬戦を行ったんだけど、けちょんけちょんに負けちゃったわ。

 うち機動戦略隊の隊員が35人が挑んで3巡したんだけど、結局2勝しか出来なかったのよ。

 本当に、強かったわ』


「えーと、35人が3回だから、105連戦。

 それって、100人抜きっしたってことですか?」

「103勝2敗って、メッチャクチャ強いじゃあないですか!」

 鳥栖さんが素早く計算して、田中さんがその戦績に驚いて大きな声をだした。


『その通りよ。

 私達は順番に戦ったけど、教導官はずーと戦いぱなしよ』


 都竹「すごい!」


 鳥栖「あのー、その事が忠告と関係するのですか?」


『それが関係するのよ。

 その教導官が、貴方達の居る訓練校の1年生だからです』


「「「「えーーー」」」」


『その教導官が駐屯地に訪れたのも、規定訓練を行うために来たのよ。

 その紹介ついでに模擬戦が行われたの。

 あ、規定訓練って言うのは、戦術課で定められた訓練で、火器訓練を行うために来たらしいの』


 田中「なんで、そんな人が訓練校に?」


『なんでって、15歳だからでしょ』


「「「「???」」」」


『あれ?分からないの?』


 田中「分かりません」


『法律で、満15歳以上の能力者は、国の定める訓練校に入学・卒業する義務があるから、既に入庁していても訓練校に通う必要はあるのよ』


 田中「知らなかった」


『貴方達の様な訓練生と違って、既に正規隊員だから、色々と待遇が異なっていると思うの。

 だから、依怙贔屓えこひいきだとか言って、盲目的な正義感で手を出す馬鹿が必ず出るのよ。

 なので、貴方達はそんな馬鹿な人達から距離を取りなさい。

 その上で、可能なら教導官と親交を交わす事を勧めるわ。

 親交を交わす事が出来れば、きっと貴方達に取って良い刺激を貰えるはずよ』


 田中「分かりました。その教導官の名前と特徴を教えてください」


『外見はパッと見12歳位で、色白、白銀髪のロングに赤い瞳よ。

 もう、あまりの可愛さにハグしてスリスリしたい位だったわ』


 それを聞いた皆が私を見た。

 全員の顔に、驚きと困惑が張り付いていた。


『あれ、皆横を向いてどうしたの?』


 大きなため息をついてからカメラに映る位置に移動して

「こんばんわ。都竹3尉」

 と挨拶すると都竹3尉は硬直してしまった。


 少しして硬直が解けた様で

『こんばんわであります』

 と上ずった声で敬礼で返答していた。


「今は、プライベートな時間です。楽にしてください」


『あ、はい。あのー、娘とはどんな関係ですか?』


「お友達ですよ」


『え、あ、そうなんですか』


「それに、ここは私の部屋です」


『!』


「お母さん、さっきご飯食べたか聞いたでしょ」


『ええ、聞きたわ』


「私達ね、ものの見事にお昼も夕食も食べそこねたのよ。

 それを見かねた神城さんが、ご飯をご馳走してくれたの」


『え、あ、娘がご迷惑をおかけして申し訳ありません。

 ありがとうございます』


「全く気にしていないので、気にしないでください」


『そうですか。

 短い期間になると思いますが、娘と仲良くやって下さい』

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