第135話 食事を振る舞う
あとは、ご飯が炊けるのを待つだけだ。
福神漬けを器に移して、食事が取れる準備をしていると、私の広域探知に田中さん達が玄関ロビーに集まったのを確認できたので、迎えに行く。
玄関ロビーに出ると、寮監の市松さんといつものメンバーに何か話していたので、「どうかしましたか?」
と訊くと
「この子達が、あんたに迷惑を掛けてないかい?」
「今回は、私が呼びました」
「そうかい。あんたは優しいね。
でも、あんまり情けを掛けすぎるとこの子達の為にならないよ」
「初回なので、大目に見てください」
「ふむ、分かった。
ほれ、あんた達も神城さんに感謝するんだよ」
そう言うと寮監室に戻っていった。
「行こう」
と声をかけ、寮監室の横にある扉を開ける。
この扉は私の部屋に通じる扉で、他の寮生が簡単に入れないようにIDカードによるオートロックになっている。
扉の先には、短い廊下と階段があるだけ。
2階に上がって直ぐの部屋が私の部屋だ。
皆を先導して階段を上がり、自分の部屋の扉を開けて入室する様に促す。
4人を部屋に上げ、扉を閉める。
4人は、室内をキョロキョロ見渡し「普通の部屋だ」と呟いている。
炊飯器から炊きあがりを知らせる電子音がなった。
4人にダイニングテーブルに着くように言うと、食事の準備がされている事に気づいた様だ。
席に着いた4人に、カレーライスとサラダを出す。
「あれ、神城さんは何処で食べるの?」
と田中さんが聞いてきたので
「夕飯は既に済ませたよ」
と答えると4人は驚いていた。
恐縮した感じで都竹さんが
「あの、これって、私達の為だけに用意したの?」
と尋ねてきたので
「そうだよ。その様子だと、お昼もロクに食べてないでしょう」
と問い返すと
「どこも混んでいて、食べれませんでした」
と言って全員俯いてしまった。
「今回の引率で行ったのは、ショッピングモールだけでしょ。
あそこのショッピングモールは、幹線道路から少し離れた場所にあるから、周辺にも駅までの道沿いにも飲食店が無いし、週末になると人で混むからショッピングモール内での食事は難しい。
だから、幹線道路沿いまで出ないと飲食店が殆ど無いから、次に行くときは気をつけてね」
「はい、次は気をつけます。
それにしても詳しいですね。
地元?」
と土田さんが尋ねた。
「違うよ。
私は現地視察という名目で、あっちこっちに引っ張り回されたから知っているだけ。
ほら、食べないと冷めるよ。
おかわりもあるから食べて」
そう言って食事を勧めた事で、食べ始めたので着替えを取り出してお風呂に行く。
その際に
「ちょっとシャワー浴びてくる。
ご飯もカレーもサラダも食べ尽くして大丈夫だから食べてね」
と言い残して脱衣所に入る。
駐屯地でもシャワーを浴びたけど、あれは汗と埃を落としただけで、体の手入れが出来ていないのでもう一度シャワーを浴びる事にした。
それに、食事を取らない私が側に居ると食べづらいだろうという配慮でもある。
ゆっくりとシャワーを浴び、体の手入れしてから室内着に着替え、洗濯機を回してから室内に戻る。
皆食べ終わっており、ダイニングテーブルでゆっくりしていた。
脱衣所から出てきた私に気づいて
「ごちそうさまでした」
「美味しかったです」
等々返してくれた。
用意した料理は、全て食べ尽くされていたので
「足りた?」
と訊くと
「もう、お腹いっぱい」
と返事が返ってきた。
食器は、自分達で洗うと言ってくれが断って、食器洗い乾燥機に任せた。
寮に置いている食器洗い乾燥機は、卓上式の2~3人用の少人数向けの物だ。
流石に1回では洗い切れないので、2回に分けて洗う。
これも、霜月さんのオススメで購入した物だ。
今の所、使用頻度は高くないが、食堂が休みになる長期休暇中は活躍する予定だ。
皆の反応は、存在は知っていても実物を見るのは初めての様で、驚いていたり、興味深く見ていたりと、反応は様々だった。
そんな中、隣の部屋から都竹さんの声が聞こえた。
「え、この制服」
私が隣の部屋に移動すると、都竹さんが対魔庁の制服の前で固まっていた。
私に釣られる様に、他のメンバーも移動してきた。
「私の常装がどうかした?」
と尋ねると
「申し訳ありませんでした」
と言って頭を下げた。
私はため息をついてから
「頭を上げなさい。
ここは駐屯地でも庁内でもありません。
ここは、個人のプライベートな空間です」
涙声で
「私、何も知らなくて、神城教導官に迷惑を掛けたから」
「そうね、迷惑を掛けているね」
そう呟くと、都竹さんはビックンと肩を震わせた。
「友達に一方的に壁を作って距離を取るのは迷惑だよ」
その言葉を聞いた都竹さんは、勢いよく頭を上げた。
私は、できるだけ優しく微笑みながら
「貴方が私と友達になりたいと言ったのでしょ。
だから、私も貴方を受け入れたのよ。
なら、肩書きなんて関係ないでしょ。
でも、公私の区別はちゃんとつけてね」
そう言って、右手を差し出した。
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