第72話 真相

 年末の日曜日、早朝の訓練中に伊坂さんから「10時に教導官棟の会議室に来て欲しい。」と連絡を受けたので霜月さんと一緒に向かっている。

 会議室に入ると、何故か両親がいた。

 今、会議室に居るのは、伊坂さん、三上さん、山崎さん、私、私の両親、若桜さん、霜月さんの8人だ。

 霜月さんは、会議室への案内だけで退室しようしたのを伊坂さんが止めた為、ここに居る。


 伊坂「忙しい中、集まっていただきありがとうございます。

 本来なら、私ではなく課長の山本が対応すべき案件なのですが、実務権限が与えられた私、伊坂と思金おもいかねの三上が担当としてお話があります。


 先日、前政権が秘密裏に行っていた計画の全容と被害内容が判明したため、関係者である神城家の方に説明したくこの場を設けました。


 色々と疑問に思う所も在るでしょうが、最後まで聞いて下さい。」


 出だしから、私も両親も訳が分からない。

 霜月さんや若桜さんを見たけど、こちらも事前に知らされていなかった様だ。


 伊坂「まず、前政権が秘密裏に行っていた計画の概要から説明します。

 前政権は、『強硬防衛構想』という計画を立てていました。

 この計画は、ランクS能力者とランクA能力者による部隊による強襲部隊を編成し、敵性国家の軍事基地を秘密裏に壊滅かいめつさせる事を主眼を置いた構想です。

 この構想で重要なのが、相手に証拠を残さず短時間で壊滅かいめつさせる事で事実を公表させない事です。

 どこの国でも、正体不明の存在に基地が壊滅かいめつされたという恥を公開したくないものですから。

 この計画の要は、ランクSとランクA能力者による強襲部隊きょうしゅうぶたいです。

 しかし、御存知の通りどちらのランクも非常に人が少ないです。

 国内では、ランクSは神城さんのみ、ランクAは5人だけです。

 これでは、直ぐに正体がバレてしまいます。


 なので彼らは、能力者を強化して運用しようとしていた様です。

 この強化人間計画は、一部成功をしていた様ですが実用にまでは至ってません。


 そこで、彼らは能力が発露前の子供、赤子、胎児に魔力を増強する薬等を投与する実験を行っています。

 その結果、ほとんどの被験者が亡くなっています。

 その数少ない生き残りの一人が神城 優さん。あなたです。」


 驚いて両親を見る。

 両親も非常に驚いている。


 三上「ここからは、私が説明しよう。

 神城 優さんは、胎児の時に薬を3度に渡って投与されてた記録が残っている。


 では、どうやって投薬したかと言うと、通っていた産婦人科の医師が関与していた事が判明している。

 検査時に、秘密裏に投薬していた。

 既に、その病院を閉鎖、証拠を押さえ、医師を始めとした関係者の捕縛と事実関係の確認は済んでいる。


 胎児に行われた投薬実験の期間は3年間、被害者はおよそ千人、無事出産できたのが30名、この内障害があった者が10名で3歳まで生きられず死んでいる。

 7歳までに、13名が原因不明で死亡。

 現状、生存が確認されたのが7名で、12歳までに能力が発露した者が3名だ。

 この3名の一人が、神埼かんざき 綜一郎そういちろうだ。


 この3名は、洗脳と投薬で能力を伸ばしていた事も判明した。

 残りの4人の内3人が女性で、発露した3人が男性だったことから、性交実験に使われていた。

 残った1人が神城だったのだ。

 君の場合、男で魔力欠乏状態だったので、経過観察のみで捨て置かれていた。

 周りの干渉が起こらない様に検査の偽装まで行われてな。


 そして今に至ると言うわけだ。

 ちなみに、奴らが人身売買組織を運営していた理由も判明した。

 集めた人間の内、能力者や薬への適正が高い者を交配実験や薬の実験体に使っていた。

 あぶれた者を売買、売春等に使い資金を集めていたようだ。

 とんでもないゲス共だよ。」


 父「何故、この様な国家規模の犯罪を私達に教えるのですか?」

 両手を強く握りしめ、声を震わせて問いている。

 驚きと怒りと困惑が混ざっているのがハッキリと分かる。


 伊坂「私としては、知らなくても良い事実なので、教えない方が良いと思ったのですが。」


 三上「私が、君達に対して誠実であるべきだと説いたのだ。」


 三上さんに視線が集中する。


 三上「我々も、この報告を受けた時、正直悩んだ。

 伊坂が言ったように知らなくても良い話だからだ。

 しかし、関係者である以上、誠実に対応する事の方が重要だと思ったのだ。


 君達にとって望んだ話では無いだろうが、我々は真摯しんしに神城 優と向かい合っている事を知って欲しかったのだ。


 くだらない実験の落し子ではなく、神城 優という個人に対して真摯しんしに向き合っているという事実を示すには、情報を開示すべきだと考えたのだ。


 それに、この事実を隠した状態でのちに発覚した時、我々を信用出来るかね?

 私は出来ない。

 私自身がそう感じる以上、情報の秘匿ひとくは不誠実だと思ったのだ。

 これが、公開した理由だ。」


「分かりました。ありがとうございます。」

 私は、頭をさげた。


 両親は、驚愕して私を見ている。


 伊坂さんと山崎さんは、やや驚き。

 三上さんは、やはりそういう態度を取ったかと言った顔で。

 霜月さんと若桜さんは、穏やかに見守っている。


「正直、色々と思う所はありますが、一個人として認めてくれている事は理解できました。これからもよろしくお願いします。」


 伊坂「ああ、こちらこそよろしく頼む。」


「一つ聞いてもいいですか?」


 伊坂「どうぞ」


「この実験で生き残りの人達はどうなるのですか?」

 私が気になったのは、神埼以外がどうなるかだ。

 あれが死刑になるのは聞いていたから、きっと酷い事になっているだろうな。


 三上「能力が発露している3人は、死刑が決定している。

 洗脳状態というより、既に思考が歪みすぎて矯正が不可能だ。

 かなり残虐な行為にも手を染めていた事も判明している。


 社会復帰は不可能だし、薬の影響で短命になっている。

 定期的に調整を受けなければ3年と生きられないだろう。

 調整可能な施設は、こちらの制圧下にあるがあの技術者キチガイが素直に言うことを聞くとは到底思えない。

 今後の事を考えると、死刑が妥当となった。


 交配実験に使われた女性だが、3人共精神が崩壊している。

 長期のリハビリである程度回復すると思われるが、社会復帰は絶望的だ。

 問題は、彼女達の子供だ。

 こちらは、全国の孤児院で育てて貰う事になっているが、秘密裏に監視をつける事になるだろう。

 現状では、健康な普通の子供達だが、将来どの様な能力を開花させるか見当もつかない。

 こんなところだ。」


「ありがとうございます。」

 やっぱり、ロクでも無い事になっていた。

 精神が崩壊する程の事が行われていたと思うと心が痛む。

 言葉を選んでいるけど、相当酷い仕打ちを受けているのだろう。

 聞いて後悔したけど、聞かないで後悔するよりマシだ。


 三上「そうだ、先に言っておくが、被害者総数は未だ集計中だ。

 既に万を超えているとだけ言っておこう。

 一歩違えば、この被害者の仲間入りしていたのだからと言って、神城が心を痛める必要は無い。」


 次の質問を言う前に三上さんに先読みされた。


 伊坂「そんな顔をしていれば、分かりますよ。

 他に質問はありますか?

 無いのであれば、報告を終了します。」


 報告が終了して、家族だけになると父さんと母さんに抱きしめられた。

 両親にとっても衝撃的な内容だったからだろう。


 しばらく抱擁ほうようされた後、父さんが「お前、俺達より大人の対応してたな。」と零した。

 母さんも「知らないうちに大人になって」と零していた。


 抱擁ほうようから解放して私を見た父さんが少し寂しそうに微笑みながら、「見た目は、全然大人っぽくないのに、しっかりとした考えを持つ様になったのだな」と感慨深く呟いた。


 それに続て、母さんが「ほんと、見た目と合ってないわね」とからかわれた。

 その後は、少し歓談をしてから別れた。

 両親は、舞と合流してから帰るそうだ。

 その舞は、雪香せつかちゃんと遊んでいるらしい。

 事前の連絡では、両親二人だけで来て欲しいと依頼が有ったそうだが、舞がゴネて両親が此処に居る間は、雪香ちゃんの所に居るという事で妥協したそうだ。

 これは、霜月さんも知らなかったそうで、ただ友達が来るとしか聞いていなかったそうだ。

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