第15話 研究者たち(4)

 Side:三上

 午後、待ちに待った魔力検査の時間だ。

 若桜に連れられた被験者がやって来た。


 早速、被験者を環境試験室に入れ魔力測定を行う。

 被験者に今回の測定の内容と意義を教えながら刻々と現れるデータを見ていた。特に今回素晴らしいのが、羽佐田と水無月で作り上げた魔力塊マナ・コアのリアルタイム3Dマップだ。これを常時使用できる環境が出来れば、研究が大幅に進むぞ。後で相談だな。


 途中、例の不正行為の証言を得る為の質問をしなければならなかったが、魔力障害に対する質問を受けるとは思ってもいなかった。

 最後に意識を飛ばしていたが仕方あるまい。

 まさか自分が木端微塵になって死んでいたかもしれないと聞かされたのだからな。

 それでも実に有意義なデータが取れた。


 向こうで討論しているが、再性転換の可能性が見つかった。

 我々が立てた仮説の中に、2種類の魔力因子による過干渉が性転換を起こす説と膨大な魔力が歪遺伝子ひずみいでんしに作用して性転換を起こす説があったが、まさか両方が揃っているとは思っても見なかった。

 しかも片方の魔力因子が休眠状態だ。

 他にも、性転換前の遺伝子情報から「隠れ魔力過多」の可能性が出てきた。


 そこで新しい仮説は、2つの魔力因子(男性因子と女性因子)があり、男性の時は、男性因子魔力が優勢かつ封印体質で女性因子魔力を封印していた状態であった。封印が女性因子魔力の増加に耐えられなくなり崩壊、暴走した魔力が歪遺伝子に作用して女性化した。その際に男性因子魔力は休眠状態になったと考えられる。男に戻るには、逆のことをすればよい。


 この被験者の魔力量はSランクに到達している。試算ではSランク相当の魔力が必要だったので、被験者に男に戻れる可能性があるがどうするか確認すると、二つ返事だった。


 魔力測定後、能力鑑定だ。

 魔力測定データを我々5人の能力鑑定を使い鑑定する。

 お互いの鑑定結果を持ち合って、直ぐに判明したのは「身体強化:運動能力向上」と「放出系:風」だった。

 特殊系は、葉山が「耐紫外線」、羽佐田が「耐赤外線」、残り3人は不明だった。

 特殊系は、この後の実技の際のバイタルデータで判別する事になった。

 問題は、「身体強化」の方で、「運動能力向上」+「視力強化」・「聴力強化」・「触覚強化」・「内蔵強化」・「筋力強化」という形で全員が違う結果になった。

 この時点で被験者に告げるのは、「身体強化:運動能力向上」で決定した。


 あと、問題になったのが発露寸前の未発露能力。

 これは、伊島が気づいた。

 注意深く再鑑定を行って擦り合わせた結果、発露寸前なのが「思考加速」「回復」「記憶」。

 発露の芽があるのが「放出系:氷」「特殊系:障壁」

 随分と才能豊かだ。羨ましいぞ。


 潜在能力値は、

 身体強化:運動能力向上 S

 放出系:風       A

 特殊系:???     C

 魔力:         S

 未発露のものは、鑑定出来ないので仕方ない。


 意見が纏まったところで、未発露能力と潜在能力ランクを除いた能力を被験者に告げバイタルメーターを着けさせた。

 娘を持つ親としては、バイタルメーターを着けた姿に罪悪感を感じるがデータ収集のためを割り切ることにする。


 被験者が第一体育館に移動したので、大急ぎでデータを纏めバイタルメーターからデータが取れているかを確認する。


 バイタルメーターのデータが魔力解析装置と連動設定する設定にしてから体育館に向かう。

 その際、若桜は残って遺伝子解析を進めると言っていた。


 若桜自身は、今回の被験者の再性転換に反対の立場にだった。

 被験者の心身への負荷が大きい事を気にしていたからだ。

 しかし、被験者自身の了承が有ったため、少しでも負荷を減らす為に歪遺伝子を調べるそうだ。

 より正確な情報は、魔力誘導パルスを適切に制御出来るからな。


 我々が、体育館に到着すると膨大な魔力を感じた。

 慌てて魔力の発生源をさがすと、被験者が居た。


 見ている間にも魔力は増え、体に収束していき、ついに可視化・発光を始めた。


 人の身で、魔力発光現象を起こすなんて聞いたこともないぞ。

 大慌てで、太和に近づき状況を聞くと、「魔力纏身まりょくてんしん」しかさせていないという。


 私が驚いて被験者を見ていると、目を瞑っていた被験者が目を開けて目の前に私が居ることに疑問を感じていた。

 太和にどうでもいいことだと切り捨てられていたが、なんとなく面白くない。


 しかし、太和がどうでもいいと言っても仕方がない状況だった。

 その状態で動いたら、制御不能で何処にどれだけの被害を出すか考えられない。

 この辺り一帯壊滅の恐れがあるほどの力が目の前の小娘に集まっているのだから。


 太和は、その事に気づいていたようで魔力制御をさせていた。最終的に1/4に抑えて試験を行うことになった。

 しかし、この辺りの教育訓練はさすが教導隊員だ。


 その後の、身体強化の試験はAランク相当の結果を出していたが、100m走は圧巻過ぎたぞ。

 衝撃吸収マット壁にめり込むって初めてみたぞ。

 他の連中もめり込んだ壁を見て声をなくしていた。


 放出系試験のため移動する時、太和が指摘するまで被験者が魔力纏身を解除していないのに気付かなかった。

 移動中に仲間にも確認するが誰も気づいていなかった。


 ここで、羽佐田がバイタルメーターの表示用端末からデータを確認して、被験者が身体強化試験中は、一度も切らさず1/4出力で魔力纏身まりょくてんしんを行っている事が判明。


 ついでに、特殊系の正体も判明した。

 バイタルメーターの環境測定データの内、太陽光に含まれる波長の殆どに減衰が掛かっている事が確認できた。

 減衰率は、紫外線と赤外線が大きく、可視光線が低くなっていた。

 この能力は、「耐日光」と言う事で決着した。


 放出系の試験は、太和が何を考えているの分からないが、発動手順を教えただけでやってみろとか言う。

 言われた被験者も、一生懸命撃とうとしている姿についつい娘を重ねてしまった。


 伊島なんて、今直ぐにでも教えに行きたくてウズウズしていたしな。

 太和が見本を見せた後、直ぐに撃てる様になっていたな。

 ついつい保護者視線で見ていたが、風を纏って宙に浮いた時は驚いたぞ。

 伊島なんて、目を皿にして見入っていた。あれ、後で再現しようとするだろうな。


 後は、ランクを決定して明日の準備だ。

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