第100話 資源ダンジョン(11)

 閃光が消えた直後、女王クイーンタラテクトの頭部に雷光が突き刺さり、頭部を吹き飛んだ。


 私は、女王クイーンタラテクトに近づき、鑑定を掛けて死亡している事を確認する。


 他の人の戦闘を確認すると、黒崎さんの槍が腹部に刺さって、床に縫い留められた宰相チャンセラータラテクトの頭に、山奈さんの戦鎚が振り下ろされて止めを刺されていた。

 一方は、凍りついた将軍ジェネラルタラテクトの頭部が吹き飛んで、直ぐ側で太和さんが倒れた。

 霜月さんと戸神さんも、床に倒れていた。


 3人に駆け寄る。

 霜月さんと戸神さんは、魔力欠乏で動けないだけみたいだ。

 問題は、太和さんだ。

 顔は真っ青で、体中に傷を負っており、凍傷に罹っていた。

 生きているのが不思議なほどだ。

 それでも、意識は辛うじてあるようだった。


 直ぐに鑑定を掛けて、状態を確認する。

 無数の打撲に切り傷と骨折。

 低体温症のうえ、体のあちこちに凍傷が出来ている。

 本当に辛うじて生きている状態だった。

 直ぐに治癒の能力アビリティで止血をした。

 将軍ジェネラルタラテクトの周辺は気温が極端に低いので、20m程移動させた後、装備を外してから手で外部から魔力で内部から、骨折した骨の位置を正しい場所に矯正してから治癒の能力アビリティを使って修復していく。

 体温より少し温かい温度のお湯を作って、傷の汚れを洗い流す。

 凍傷で、駄目になった部位を戦闘ナイフで抉り取り、治癒の能力アビリティで復元していく。

 そのついでに、全身の打撲と切り傷も治す。

 麻酔なんてものは無いので、激痛に襲われ暴れる太和さんを、山奈さんと黒崎さんに押さえて貰って、施術を行った。


 施術が終わった頃に、ようやく動ける様になった霜月さんと戸神さんが来た。


「何も手伝えなくて済まん」

 霜月さんが謝ってきた。


「太和君は、どうです?」

 と戸神さんが、太和さんの容態を聞く。


「意識を失っていますが、体の方は問題がありません。

 目が覚めれば、普通に動けると思いますが、暫く戦闘は無理です。

 二人共、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。魔力を使いすぎただけだ」

 青い顔をした霜月さんがそう答え。


「正直に言った方が良いですね。

 私達二人は、魔力過負荷マナ・オーバーロード状態です。

 幸い、命に係る程まで行きませんでしたが、数日は魔力が回復しません」

 戸神さんが、今の状態を説明する。


「3人共、無茶しすぎです」


「それは、そのまま返すぞ。

 なんで、女王クイーンタラテクトの破壊光線を真正面から受けた。

 そして、何で無傷なんだ?

 どうやって、女王クイーンタラテクトの頭部を吹き飛ばした?」

 霜月さんは、半分怒り、半分呆れた感じで聞いてきた。


「ほんと、破壊光線を真正面から受けたのを見た時、驚いたんだからね」

「あれは、心臓に悪い」

 山奈さんと黒崎さんにも、心配を掛けた様だ。


「えーと、ごめんなさい。

 それしか、勝機が思いつかなかったから」


「何をどうしたのか、教えて貰えないか?」

 と霜月さんが問う。


女王クイーンタラテクトの破壊光線は、魔力結界で防ぎました」


「アレは魔力結界で防げる程、弱くない」

「そうよ」

 黒崎さんが、珍しく声を荒げ、山奈さんが同意する。


「魔力結界を、女王クイーンタラテクトの破壊光線に向かって、円錐形の魔力結界を100個位張って、周囲にそらしました」


『は?』


 山奈さんと黒崎さんは、驚きと呆れが混ざった感じの声で

「そんなんで、逸らせるの?」

しのぶ、実際に逸したから仕方ない。

 ただ、一瞬で100個張る事できる結界師居ないから、検証のしようがない」

 と感想を述べる。


「最初は、30個程張ったのですが、直ぐに割れちゃったので、どんどん追加していって、100個位張る事になりました」


「それで、女王クイーンタラテクトを攻撃した方法は?」

 と霜月さんが問う。


「それは、陽電子砲ポジトロン・キャノンで、女王クイーンタラテクトの頭を吹き飛ばしました」


「なにそれ?」

 と山奈さんが疑問を口にする。


「プラズマボールを作成して、重力と高電圧を更に掛ける事で、強制的に陽電子を放出させ、陽電子で満たしたプラズマボールを、女王クイーンタラテクトにぶつけました。

 女王クイーンタラテクトにぶつかった時に、プラズマボールが壊れた事で、陽電子が周囲の電子と対消滅したエネルギーで、頭部が吹き飛んだと思います」

 と説明すると、霜月さんは

研究者馬鹿共のトンデモ理論が、こうして役に立つ事があるとはな。

 まあ、いい。

 優ちゃんのお陰で、誰一人欠けることが無かったのだからな」

 と言って、無理に納得していた。


 状況が安定し、疑問が解決したので

「落ち着いたなら、解体して回収。

 このまま、ダンジョンに吸収させるのは勿体ない」

 と言う黒崎さんの言葉で、山奈さんと黒崎さんに手伝って貰いながら、解体していく。

 流石にバックパックに入らないから、土の能力アビリティで4輪のかなり大きい台車を作って載せた。

 その際に、改めてこの空間を確認すると、入り口から左右それぞれ500m、奥行き1,200m、高さ60mなんて大きな空間なんだんだろう。


 解体を終わらせて、戦利品と一緒に太和さん達の所に戻ると、太和さんが目を覚ましていた。


 太和さんは、床に座った状態で

「神城、話は聞いた。ありがとうな」

 と言って、頭をさげた。


「あまり無茶をしないで下さい。」


 太和さんは

「ふ、これじゃあ、どっちが保護者かわからんな」

 と言った。


 それを聞いた皆が笑い出した。

 ようやく、軍隊アーミータラテクトの支配者階級を倒したんだと実感できた。


 その日は、そのままこの場で一夜を明かす事になりました。





 機動戦略隊の先遣隊は、遅れていた後続隊と合流出来たのは、16時を回っていた。

 その為、この日の探索を諦めざる得ない状況だった。

 何よりも、24人もの人間が野営出来る場所を選定しないといけなかった。

 流石に魔物が居ないとは言え、通路のど真ん中で野営は出来ない。


 選定した場所は、7層入り口とダンジョン・コアの部屋の中間地点にある空間で、壁際に空いた幅3m高さ2mの穴の奥にある幅25m、奥行き40m、高さ5mの空間だ。


「なんか隊長、機嫌悪くねー」

「ああ、思いっきり不機嫌だな。」

「近づかない方が賢明だな。」


 そんな隊員達の小言を聞いて

 「おい、すすむ

 いい加減に不貞腐れるな。

 部下達が、怯えてるぞ」

 と吾郎が言う。


「当然だろ、流石に14時半には到着すると思っていたら、16時を回っていたんだぞ。

 しかも、ただ走るだけで、疲労困憊ひろうこんぱいになっている。

 お陰で、今日の探索が捗らなかった。

 今回の調査は、軍隊アーミー案件だ。

 何よりも、迅速な調査と討伐が必要な案件なんだぞ。

 悠長に構えていたら、スタンピードを許してしまう。

 それなのに、コイツラを見ろ。

 全員間抜け面をさらしていやがる。

 コレを怒らなくて、何を怒る?」

 と俺がイラツイていると、吾郎が

「あー、そういや、あいつらにその事説明してねー」

 とか言い出した。


「は?何やってんだよ。

 吾郎ごろう、お前が説明するから黙っていろと言ったから黙っていたんだぞ」

 と問い詰めると


「こいつら、戦術課の隊員と言っても下っ端だ。

 そんな重大案件の先遣隊なんて言ったら、暴走するのが目に見えている。

 だから、敢えて言ってない」


「だからって、私と南にも内緒にしていたんですか?」

 と同じ班の高月が怒ったように文句を言う。


「いや、すまん。高月こうつき平田ひらたには、純粋に伝え忘れた」

 と言って、吾郎が謝っている。


「それは、随分と酷い扱いですね」

 と同じ班の平田も無表情に返している。


「そうですよ。山本さん。

 私たちは、資源ダンジョンの深部で発生した異変の調査に向かった教導官達の支援としか聞いていないんです。

 そうと分かっていたら、多少無理をしてでも探知をしていました」

 と高月が怒る。


「それは、本当にすまん」

 と言って、吾郎は頭を下げた。


「とにかく、今は動けん。

 休息後、明朝6時より隠し通路の発見に全力を尽くそう。

 全ては、そこからだ」

 と俺は指示を出す。

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