第99話 資源ダンジョン(10)

 大通路を進むと、膜の様なモノを突き抜けた。

 思わず足を止め、後ろを振り返る。


 「どうした?」

 と言って太和さんが振り返る。


「結界の境界線に戸惑っていると思う」

 と黒崎さんが状況を説明してくれた。


「この膜みたいなのが、境界線なんですか?」


「俺には分からん」


「膜みたいかは不明。

 ただ、鋭敏な人はそう感じると聞いている」


「そうなんだ」


「それより、この先にも結界がある。

 このまま、20m先まで何も無い」


「全員、注意して進もう。結界越しに、攻撃してくる可能性もある」

 と太和さんが警告する。


 次の結界に触れた瞬間、閃光が真っすぐ襲ってくる映像が脳裏をよぎった。

「このまま進むと危険」

 思わず叫んだ。


「チ、全員走れ。

 この先は、広間になっている筈だ。

 そこで、左右に飛べ」

 と叫びながら走り出す。


 更に結界を超えると急に視界が広がった。

 前方に光源が見える。

 太和さん、霜月さん、戸神さんが左に飛び、私、山奈さん、黒崎さんが右に飛び退く。

 その直後に、通路に向かって光線走り、通路から爆音が響く。

 一気に10個の照明弾を撃ち上げる。


 照明の元に現れる3体のタラテクト。

 中央に一際大きいタラテクトが、体を低くして通路の方の真正面に頭が向く姿勢で居る。

 その左側に中位の大きさのタラテクトが居て、右側に小さいタラテクトが居る。


「神城。中央の女王クイーンを殺れ」

 太和さんの怒声が響く。


「はい」

 身体強化能力アビリティを全開にし、音を置き去りにして、女王クイーンタラテクトを目指して走る。

 女王クイーンタラテクトとの距離は、200m弱。

 0.5秒で距離を縮めると、そのまま魔力を載せた拳撃を顔に叩き込む。

 女王クイーンは、200m程後ろに飛ばされ、数回転がってから止まった。

 直ぐに起き上がり、此方を見た瞬間に、再び後ろに吹き飛ぶ。

 今度は、追いつた私が後ろ回し蹴りを顔に叩き込んだからだ。


 女王クイーンタラテクトは、立ち上がった直後に横に飛び避けた。

 直後に私の飛び蹴りが通過する。


 30m程距離を取って対峙する。

 女王クイーンタラテクトの顔に、傷一つ付いていない。

 公開演習の時に、超強度コンクリートを跡形もなく消し飛ばした拳撃や蹴撃は、出力60%だったが、今の攻撃は出力80%だった。

 こいつ、とんでもなく硬い。


 女王クイーンタラテクトは、鋏角きょうかくをガチガチと鳴らしている。

 相当、お怒りの様子だ。

 お返しとばかりに、瞬時に距離を詰め、右前足(第1脚)の爪先(跗節ふせつ)を突き落とす。

 私は、後ろに飛ぶ。

 そこに女王クイーンタラテクトは、左前足(第1脚)の爪先(跗節)を突き落とす。

 女王クイーンタラテクトは左右交互に数度突き落とす攻撃を繰り返すと、右前足を払ってきた。


 私は、後ろではなく前に飛び、女王クイーンタラテクトの顔目掛けて、オリハルコン製の短剣で突き出す。

 とっさに体を左に傾けて回避されたが、8つある目の一つ、右の大きな眼を派手な金属音と共に切り裂いた。

 眼は切り裂けたが、外殻が硬くて数cm位を削った程度だ。

 そのまま、空中跳躍を使って、女王クイーンタラテクトの背後に飛び抜けた。

 その際に、ワンタッチで全てのバックパックの留具を外すギミックを動作させ、地に降りると同時にバックパックを放り出して、女王クイーンタラテクト左側に回り込みながら飛びかかる。


 女王クイーンタラテクトは、左回りで体を旋回させながら、左後足(第3脚)で叩き落とそうと振るってきた。


 空中跳躍で、軌道修正をして、腿節たいせつ膝節しっせつの繋ぎ目に短剣を振り抜き、そのまま上空の飛ぶ。

 切られた蜘蛛の脚が宙に舞い、体液を撒き散らす。

 「節目は切れる。」


 女王クイーンタラテクトの動きが止まった一瞬を突いて、上空から急襲を掛け、左後脚(第4脚)を、短剣で根本付近(転節)から切落とす。


 私は、着地した衝撃を利用して、女王クイーンタラテクトから離れる様に横に飛ぶ。

 その直後に、女王クイーンタラテクトの体が倒れ込んできた。


『ギー』声にならない鳴き声を上げた直後に、

 女王クイーンタラテクトの周辺に、黒い魔法陣が5個出現し、そこから漆黒の先が尖った1m位の棒が、撃ち出された。

 一つの魔法陣から、5本1セットで秒間5セットの勢いで撃ち出された。

 女王クイーンタラテクトの頭の方に、弧を描くように走り抜けながら、漆黒の槍を躱して一気に接近する。


 女王クイーンタラテクトは、右前足(第1脚)の爪(跗節ふせつ)で突いてきた。

 それを潜る様に身を下げて躱し、女王クイーンタラテクトの顔の右横から背中に飛ぶ。

 すれ違い際に横一文字切りで、女王クイーンタラテクトの縦に並ぶ右目3つを、金属が削れる音共に切り裂く、これで右側の視力は失ったはず。


 直後、女王クイーンタラテクトの背中側に、黒い魔法陣が上空に向けて展開されたので、空中跳躍で女王クイーンタラテクトの右側に飛び着地する。


 女王クイーンタラテクトが、体を右旋回しようと動き出したので、頭部に向かって走り出す。


 女王クイーンタラテクトに近づき、右の第1脚の脛節けいせつを蹴って反転した直後、頭部と第1脚の間の空間に、大量の漆黒の槍が全周囲から襲った。

 一部は、自身も被弾している。


 私は反転後、女王クイーンタラテクトの右側の第2脚、第3脚、第4脚の腿節たいせつ膝節しっせつの繋目から切り捨てて、右後ろに退避している。

 真後ろに立つと、糸を吐出すのが分かっているので、絶対に立たない。


『ギ、ギ、ギィィィー』

 激しい怒りと殺気を振りまいている。

 女王クイーンタラテクトからしたら、私達人間なんて餌以下でしかないだろう。

 それが、ここまで一方的に同族を殺され、自身も殺されかけている。

 そして、女王クイーンタラテクトは頭が良い。

 私の武器で、自身を殺すには頭を狙うしか無いと分かっている。

 だから、自爆覚悟で、自身の頭部を囮にした攻撃を躱されたうえ、右脚を切り落とされた。

 まさに、屈辱だろう。

 その事に対する怒りなのかも知れない。


 私の持つ、オリハルコン製の短剣は、刃渡り45cmしかない。

 女王クイーンタラテクトの体は、大型トラックと同じ位の高さあり、幅は大型トラック2台分だ。

 頭胸部ほぼ中央にある魔石を破壊するには、刃渡りが足りない。

 それに、眼や関節の様に、外殻より柔らかい部位なら切り裂けるが、外殻は数cm切り裂く程度だ。

 何度も同じ箇所を攻撃しないと行けないが、女王クイーンタラテクトがそれを許してくれるとは思えない。


 放出系具現化系の攻撃能力アビリティは、一番高いのがランクAに届くかどうか位だから、私の拳が通用しない女王クイーンタラテクトの外殻に通用するとは思えない。


 後は、体内に直接放つしか無いが、腹部を破壊しても直ぐに死ぬわけではない。

 やはり、なんとか頭部を潰すしかない。


 残った脚を器用に使って、高速旋回した女王クイーンタラテクトの右側の触肢しょくしは、折れ、右側の目の周辺の外殻は、斬撃の傷と大量の罅割ひびわれが刻まれている。

 そして口には、破壊光線が光をたたえている。

 その光が、閃光と化して私を飲み込む。

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