第109話 訓練校の入学式(2)

 担任「では、ホームルームを始めるぞ。

 まず、入校おめでとう。

 俺が、君達の担任を務める教育課訓練校教育隊の霧崎きりさき 壱馬かずまだ。

 能力訓練の教官も務めている。

 ビシビシ鍛えていくから覚悟しておくように。


 まずは、自己紹介から始めるか。

 じゃあ、扉側の一番前から順にいくぞ。」


 私の前4人は、氏名以外にも能力や意味不明のアピールをしている。

 私は、氏名だけ言って終わらせた。

 周りからは、「え、それだけ?」という感じだったが気にしない。


 自己紹介で気になったのは、あの態度が悪い生徒。

 名前を毒島ぶすじま 斗吾とうごと言って、「いずれ守護者より強くなって世界の頂点に立つ。」とか大口を叩いていた。

 私が見た奴の能力は、身体能力と魔力が共にランクF2しかない。

 魔力形成や性質に変な癖が着いていて、それほど伸びる要素が無い。

 よっぽど頑張らないと、ランクEまで上がるかどうかも怪しい。


 あと、都竹つづき みやこさん

 何故か私を睨んでいた。

 能力は、放出系火のランクF1、魔力F2で、変な癖もついていない。


 全体的には、戦闘系能力者が20名で、非戦闘系能力者が9名だった。

 ランクは、最も高い人でもランクF3だった。

 ただ、戦闘系能力者の人の方が、高圧的な人が多い気がする。

 実際、非戦闘系能力者の自己紹介の時に、鼻で笑う人が結構いた。


 担任「自己紹介も終わった事だし、一つ忠告をしておく。

 現時点の能力アビリティなんて、これからの3年間でいくらでも変わる。

 戦闘系能力アビリティを有しているから、上位だと思わない事だ。

 本人の適性と能力アビリティが合っているかの方が遥かに重要だ。

 適性が合っていなければ、いくら努力しても能力アビリティは成長しない。

 適性は、これからの訓練で分かるだろう。


 適性の不一致で苦しむ者が毎年一定数いる。

 だからこそ、今有している能力アビリティでは無く、適正にあった能力アビリティを見つけて欲しい。

 それと、個々の個性を認め、互いに高め合って欲しい。


 今日の予定は、昼食後に市役所の臨時出張所が来るので、必ず住民票の移動を行う事。

 これを怠ると、後日、自分で市役所に出向いて行ってもらうからな。


 明日は、定刻8時30分までに教室に居る様に。

 午前は、校内の見学を行う。

 午後は、身体検査と能力測定を行うから、訓練校指定の訓練着を着用するから忘れるなよ。


 体育館に、親族の方々も待っているだろうから、これで解散だ。」


 席を立ち、教室を出ようとすると


 女生徒「ちょっと待ちなさい!」


 振り返ると、女性としては長身の女生徒が仁王立ちしていた。

「何か用?」

 出来るだけ素っ気なく答える。


 女生徒「貴方の自己紹介なに?

 自分の名前だけ言って終わりなんてなめてんの?」


 大きなため息が出た。

 この女生徒は、確か宮園みやぞの 満里奈まりなと言ったかな。

 能力は身体強化F3、魔力F3だ。


 宮園「ため息なんてついてないで、なにか言いなさいよ。」


「言う必要無いでしょ。

 それとも、相手の能力聞いて、自分が上だって自己満足がしたいだけ?」


 宮園「なら、今ここで上下関係叩き込んで上げましょうか?」

 そう言って、魔力を帯び始めた。


 私の目が細くなった。

 即時に高密度高圧力の魔力を纏っているのだが、霧崎教育官以外誰も気付いていない。

 レベル差が開きすぎている事に気づいてもいない。


 状況を察した霧崎教育官が、周りに気づかれない様に宮園さんの後ろに周り込み

 「ほう、宮園は明日から強制収容所が良いのか?」

 ドスの利いた低音で告げた。


 慌てて振り返る宮園さんと、いつ回り込んだのか気づかなかったギャラリーが盛大に驚いてる。


「いいえ、そんな事はありません。」


「俺は、個々の個性を尊重しろといったはずだが、何故宮園の考えを神城に押し付ける?」

と霧崎教育官は、語気を強めて問う。


「いえ、そんなつもりは。

 お互いの能力を知らないと尊重のしようも無いのに、何も言わないあの子が悪いんです。」


「それが、お前の考えか。

 お前の考えの方が間違っている。

 神城の言う通り、言う必要性は全く無い。

 俺は自己紹介をしろといったが、能力を公表しろとは一言も言っていない。

 能力に関係なく、お互いに尊重し合えば済む話だろ。

 それを、力ずくで聞き出そうとする行為そのものが厳罰対象だ。

 今回は大目に見るが、次に同様の行動に出れば、それなりの処罰を下す。

 いいな。」


「はい、わかりました。」

 うつむいて相当悔しそうに声を震わせている。


「分かったら、行け。

 もう2度とこんな事はするな。」


 宮園さんは、「くっ」と呻った後、足早に教室から出て行った。

 もっとも、出ていく時に体当たりを仕掛けてきたのだが、何事もなかった様に躱したよ。

 そのため、扉枠にぶつかって盛大によろけていたけど、自業自得だ。


 3人の女生徒が寄ってきて「大丈夫?」と聞いて来たので、「大丈夫、なんとも無いよ。」と答えた。

 寄ってきた女生徒達の内2人は、非戦闘系能力者だった。


 彼女達と一緒に体育館に行き、家族と合流する。

 校内の要所要所に、教官や上級生が配置されているが、ほとんどの生徒が気付いていない。


 家族と共に、食堂で昼食を食べた後、市役所の臨時出張所で住民票を移動して本日の学校関係の行事が終了。

 舞は、学校の様子が見れて色々と満足している様だが、周りからは姉妹の体格差から驚きを持って見られていた。

 舞も来年は、ここの生徒になる予定だ。


 家族と別れた後、教員棟の会議室に向かった。

 予定時間より多少早く到着したが、既に全員が揃っていた。

「遅くなりました。」


 高橋「いや、時間前だから問題ない。

 空いている席に座ってくれ。」


「はい」


 席に着いて、周りを見る。

 機動戦略隊から、大隊長補佐の高橋さんと3人の護衛官代表。

 教育隊は、養育官20名全員が出席している。

 教養科からは、各教科代表者が出席している。

 あと、校長と庶務からも数名出席している。


 議題は、訓練校での私が関与する教育プログラムについてだったりする。

 初日から、問題が起こっているから仕方ない。

 基礎訓練すらも行っていないのに、優劣を着けたがる訓練生の数が想定以上に多く、何時いつ問題行動を起こすか分からない状態になっている。

 確かに、見た目だけなら、私が一番弱く見えるから仕方ないのかも知れない。


 能力訓練は、私が皆の手本になる案と完全免除で別れていたのだが、今日の一件で完全免除になった。

 理由も「レベル差を訓練生が理解出来ないだろう」という見解の為だった。

 教養の授業は、一応一緒に受ける事になったが、高等学校卒業程度認定試験を受けて欲しいと依頼があった。

 1年で卒業して対魔庁関係の大学校に進学をした方が良いと薦められた。

 進学の件は一旦保留となったが、空き時間は、機動戦略隊の隊員との訓練時間か高等学校卒業程度認定試験の為の勉強時間に割り当てる事が決定した。


 会議終了した時には、夕食時間だったので、そのまま食堂に寄ってから寮に戻ると、何故か玄関に正座させられているクラスメイトが2人居た。


 正座しているのは、都竹さんと宮園さんだ。

 二人揃って、私を睨んでいる。

 二人の正面に立つのは、寮母の富野さんだ。

 「神城さん、おかえり。ご飯はもう食べたのかい?」


「はい、先程頂いて来ました。」


「そうかい、そうかい。

 私は、この二人があんたにちょっかいを掛けようとしていたから、折檻している最中さ。

 だから気にしないでおくれ。」


「はあ、そうなんですか。」


「そうさ、だからあんたは部屋に戻りな。

 この二人は、まだ反省できていない様だから、しっかりと反省させるから安心しな」


「分かりました。」

 睨む二人を富野さんに任して部屋に戻った。

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