第224話 1年次 6月総合試験(1)
6月中旬になると、訓練校では月末に行われる総合試験に向けて、訓練・勉強共に熱が入ってくる。
総合試験は年4回、6月、9月、12月、3月に行われる。
この試験結果は、各学年男女それぞれの上位10名に、個室と研修生訓練参加資格が与えられる為、エリート志向の者達は必死である。
また、同時に最下位から20名にも特別補習が待っている。
評価は、学科と
特にDクラスに居る者達は、特別補習を
一種異様な訓練校独特の緊張感が、寮を含む訓練校全体を包んでいる。
中間テストの事を考えれば、新たな妨害を仕掛けてくるかと思われたが、今の所は何も仕掛けてこない。
ただ、諦めたかと言ったら、諦めていない事は確認出来ている。
注意が必要な状態が続いている事には間違いない。
6月下旬、総合試験前日の日曜日。
私達は、カラオケボックスに居る。
そして、今、鳥栖さんが絶叫するように歌っている。
えーと、曲名は『うっ◯ぇわ』と画面の端に掛かれている。
別に、試験なんて余裕とかの舐めプをしている訳では無い。
この1ヶ月、周囲の雰囲気に呑まれて、普段以上に頑張り過ぎていた位だ。
周りから見ていても分かる位張り詰めていた。
そして、それはもう、爆発寸前と言わんばかりだった。
この状況で試験を受ければ爆死すると思えたほどだ。
それを見かねた南雲さんや隊員達から説得され、ストレス発散の為にカラオケボックスに放り込まれた状態だ。
今は、各々が歌を入れて熱唱している最中だ。
横で見ている私ですら、びっくりする程の熱量だ。
歌い終わった鳥栖さんが、ソフトドリンクを持って私の横に座った。
「神城さんは、歌わないの?」
と聞かれたが
「よく知らないから、歌えないよ」
と答えると、反対側に座る都竹さんが
「勿体ないよ。何か歌おうよ」
と言うと
「なら、私と一緒に歌おう。この曲なら多分知っていると思う」
と対面に座る土田さんが言った。
田中さんが『残◯散歌』を歌い終わると、手を取られてモニター前に引っ張り出させた。
マイクを手渡され、二人で歌う事になった。
画面には、『残酷◯天使のテーゼ』と出ている。
土田さんとのデュエットが終わっても、他の人とデュエットする形で次々と歌わされた。
迎えの来る時間になったので、カラオケボックスを出て、迎えの車に乗って訓練校に戻る。
その車中で、田中さんが意を決した顔をして
「神城さん。話があるのだけど良いかな?」
と言うので
「何でしょう」
と答えると、他の3人も緊張し、妙に張り詰めた空気になった。
「名前で呼んでいいかな?」
と言う。
「良いですよ」
と即答すると、拍子抜けした様な感じになり、田中さん達4人は脱力した。
私は、訳が分からず首を傾げていると
「あっさり、了解を得るとは思っていませんでした」
と都竹さんが言う。
「どうして?」
と私が問うと
「だって、何処か距離を取っている感じがしてたから」
と鳥栖さんが言うと
「そうそう。常に一歩引いた感じが常にしていた」
と土田さんも言う。
「そんな風に感じていたんだ」
と言うと
「何も感じてなかったの?」
と都竹さんが疑問を口にした。
「何の事でしょう?」
と私が疑問を口にすると
「これは、本当に何も感じていなかったみたいですよ」
「そうみたいね」
「なんか、今まで遠慮していたのが馬鹿みたい」
「うん。そう思う」
「これが、色々と疎いと言っていた事じゃあないですか?」
「神城さんなら、あり得るね」
「そうかも知れない」
「納得しか無い」
と4人で顔を見合わせて話し合っている。
「では、これからはお互いに名前呼びで」
と田中さんが宣言すると
『さんせー』
と他の3人が同意を表明する。
「うん。分かった」
と答えると、4人は崩れ落ちる様に脱力した。
寮に戻り、玄関で別れ部屋に戻る。
この日は、明日の試験勉強をして終えた。
翌日からの学科試験は、問題無く終了。
美智子さん達4人も問題無かったそうだ。
4日目、能力試験の日。
私は、朝から魔力制御訓練棟2階の教育官待機室で待機している。
この後行われる、A・Bクラス合同試験の試験官を行う事になっている。
試験官と言っても、彼らの前に出る訳では無い。
この部屋の窓から、魔力制御訓練棟で一番大きな訓練室を覗いて判定するのだ。
1階に居る彼らからは、しっかりと見上げないと、2階の窓越しに居る私を確認する事は出来ないので、まず見つかる心配は無いだろう。
今日の試験者名簿を確認する。
美智子さん達4人の他のAクラスには、以前話に上がっていた伊吹さんの他に章と零士の名前も載っている。
彼らがどの位の実力かは、成績表上でしか知らない。
ちょと楽しみでもある。
そうしている内に、階下の訓練室に訓練生が入って来た様だ。
窓から覗いて人が居るの確認すると、すぐに窓際から離れた。
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