第117話 模擬戦(対 久喜 辰雄)

 山本「今日の予定は、神城さんの能力を間近で見てもらう。

 一応、訓練メニューも考えてあるが、こちらは他の班と協議をした上で、大隊長の了承を得てからになる。

 というわけで、神城さんは作業服に着替えて地下訓練所に来て欲しい。

 俺達は、先に降りているからな」


 着替えて、地下に降りると伊坂さんがいじけていた。


「あの、伊坂さんはどうしたんです?」


 山本「ああ、気にしなくて良い。

 いつもの事だ。

 今日の模擬戦の相手に入れないで戦えないと宣言したから、いじけただけだ」


 久喜さんも軽い感じで「そうそう、いつもの事だ」


 高月さんは、笑いながら「班長は戦闘狂バトルジャンキーだから、戦闘観察に向かないから仕方ない」


 平田さんは、呆れたように「昨日も挨拶ついでに2時間も戦ったのに、全然満足してないとかどういうことよ」


 散々な評価だ。


 久喜さんから、戦闘ナイフを投げ渡された。

 鞘から抜いて確認すると、刃が潰された訓練用の物だ。


 久喜「班長の事は放っといていい。

 準備が出来次第始めよう」


 私は、了承して、軽く準備運動をしてから久喜さんと対峙する。

 久喜さんは、身長が180cm位で、胸当て、肩当て、腰当て、籠手、脛当てという軽装装備に、首元まであるタワーシールドを左手に持ち、短槍を右手に持っている。


 復活した伊坂さんが、模擬戦の開始を告げる。

 制限された能力を最大限に使った速度で、久喜さんの盾側の死角に回り込む。

 ナイフを左手で逆手に持ち、右掌底を柄尻に当て、久喜さんの左手甲に当たる位置に狙いを定め、盾の上から右掌底で魔力を載せたナイフを打ち込む。


 久喜さんは、衝撃で飛ぶがしっかりと私を見ている。

 着地合わせて、私の方向以外の3方向から石柱を突き上げるが、短槍を払って破壊する。

 そのスキに、一気に間合いを詰め、右手に持ち直したナイフで首を一閃するが、盾を叩くだけに終わった。


 そのまま、左に飛ぶ。

 その直後に、短槍が通過した。


 距離を取り、構え直す。

 久喜さんも、盾を前面に構えて、短槍を軽く引く。


 盾を構えたまま突進してきた。

 盾の影、死角に回り込む様に避けると、盾を振り抜いてきた。


 盾を靴底で蹴る様にして、後ろに飛ぶと同時に、空いた胸元に石柱を突き上げる。

 久喜さんは、強引に上半身を後ろに反らして、ギリギリ躱した。


 着地と同時に、前に出る。

 久喜さんが私に向き直った直後に、石礫を10個撃ち出す。


 石礫を無視して、迎撃体勢の久喜さんの真上から岩を落とす。

 当たる直前に気づき、岩にぶつかりながらも右手の短槍で破壊した。


 その隙きに、背後に周り首筋にナイフを当てる。


 伊坂「そこまで、勝者神城」


 私は、ナイフを下ろす。


 高月さんと平田さんは、顔を真赤にして口を押さえて笑いを堪えている。


 久喜「俺が負けたのが、そんなに可笑しいか」


 平田さんは、「違う違う。神城さんがね」というと声を殺して笑い出した。


 久喜「神城さんがどうかしたのか?」


 高月さんも忍び笑いをしながら

「あんた、背が高いじゃない。

 だから、背伸びして、爪先立ちで、一生懸命手を伸ばしてやっと、首筋にナイフの刃を届かせていた姿が微笑ましくて」


 久喜さんが、私を見るけど、そっぽを向いてしまった。

 多分、顔が赤くなっている。


 その様子を山本さんが、爆笑している。

 笑いが収まるまでにしばしの時を要した。


 山本さんから模擬戦の感想を聞かれたので

「守りが硬くて、上手く攻められませんでした」


 それを聞いた久喜さんは、渋い顔をして、頭を掻きながら

「あれだけ、俺の体勢を崩しておきながら、よく言うぜ。

 何だよあの初手、俺が飛ばされるなんて思いもよらなかったぞ。

 あの一撃で左手が痺れて、その後の立ち回りに支障が出た。


 それに、的確にガードが空いた場所を狙ってくるから、ある程度予想しやすかったが、タイミングが絶妙で躱すのが容易じゃなかった。


 あと、最後の奴、発動地点を空中にして、岩を作るとか思わなかったぞ。

 あれには、対応が遅れた。


 正直、教える事は何もないぞ」


 高月「土の能力アビリティの発動速度、正確さは、私より上ね。

 ただ、正確すぎるから、読みやすいのが欠点かな。

 発動時の魔力を隠蔽するとか、時差発動とか、フェイントを混ぜるとかした方が良いかも」


 平田「問題点は、決定打に欠ける事ぐらいかな」


 山本「戦力としてはどうだ?」


 久喜「実力に問題は無い。連携の訓練をすれば、即実践でも行けると思うぞ」


 山本「俺の評価と変わらないか」


 久喜「あの初手を鍛えれば、必殺技になると思うぞ」


 伊坂さんが盛大に溜息を着いた後

「久喜。これが訓練用の鉄製ナイフではなく、戦闘用の魔鋼製ナイフなら初撃で終わっていたぞ」


 伊坂さんに視線が集中する。


 伊坂「神城さんが使った初撃は、刺突衝撃Piercing Impact

 霜月教導官が得意とする刺突技能スキル攻撃を、ナイフで再現したものだ。」


 それを聞いた山本さんが、私が持っていた訓練用ナイフを奪い取ると、切先ポイントを確認して「潰れている」と言葉を漏らす。


 久喜「はぁ、アダマンタイト製の盾相手にして、欠けたのではなく潰れた?」


 山本「ああ、5mm程潰れている。通常なら欠けるな」


 高月「どういう事?」


 伊坂「ナイフの切先に魔力が十分に乗った状態で、盾に対して垂直に打ち込まれたが、強度不足の為に切先が潰れた。

 切先が潰れた分、衝撃が緩和されて吹き飛ばされていたが、ナイフの強度が十分であれば、初撃で戦闘不能までの衝撃を受けていただろう」

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