第118話 模擬戦(対 高月 彩芽)

 平田「ちょっと待って、霜月教導官の刺突衝撃ピアシング・インパクトって、突撃技であって、ゼロ距離攻撃じゃないよ」


 伊坂「それは、霜月教導官が多用している使用方法だ。

 刺突衝撃ピアシング・インパクトの本質は、武器に魔力を纏わせ、打撃と共に魔力を放出する事で、貫通力の増加と魔力波による貫通攻撃を行う技能スキルだ。


 久喜、お前が衝撃を受けた場所と、盾を構えた時の位置はどこだ?」


 久喜さんは、実際に、盾を持たない状態で手の位置を確認しながら

「衝撃は、左手の甲から突き抜ける様に受けたな。

 普段通りこう構えていたから、左胸の前辺りだな」


 伊坂さんが、久喜さんの前に立ち、久喜さんの左手の甲の中央を右手人差し指で触って「ここから真っすぐ体を貫通する魔力波を受けたらどうなる?」


 久喜さんは、左掌中から真っすぐ伸びるラインを右人差し指でなぞり

「左胸から心臓を抜けるな……。

 確かに初撃で終わっていてもおかしくない」


 伊坂「その事を踏まえて、先程の神城さんの感想だが、初撃が不発に終わった後、それに続く攻撃が出来なかったと言ったんだ。

 その後の戦略も、自身の身長の低さを利用して、徹底的に下からの攻撃に意識を向けてから、頭上攻撃を仕掛けてきたんだ。


 だから、久喜と高月の感想は、的を外れている。


 改めて、どう感じた?」


 久喜「俺達が教える事ってあるのか?」


 高月「同感ね」


 平田「ところで、減衰ってどの位だったの?」


 久喜「どうしてだ?」


 平田「さっきの模擬戦で、吹き飛ばされたうえ、左手が痺れたって言っていたから、本来の威力はどのくらいだったのかなと」


 伊坂「1mmで大体半減する。今回は5mmだから1/32だな」


 平田「訓練用ナイフでなかったら死んでいるのでは?」


 伊坂「衝撃波は、距離の自乗分の1で減衰するし、魔力纏身をしているから死ぬ事は無いだろう」


 平田「そっかー」


 山本「ところでお前達、教える事はいっぱいあるぞ。

 神城さんは、徹底的に鍛えられた基礎能力といくつかの技能スキルしか持っていない。

 なので、状況に合わせた最適な選択手段が少ない。

 闇雲に技能スキルを教えるより、応用の効く技能スキルを中心に教え、状況に合わせた使い方を覚えてもらう。


 それに、適正武器もまだ見つかっていない。


 何よりも対人戦、対魔物戦共に経験不足だ。

 こう聞けば、教える事は沢山あるだろう」


 高月「今、サラッと怖いこと言わなかった?」


 平田「聞いただけで、頭痛くなったんですけど」


 久喜「ああ、ランクBなのに、ほとんど基礎しか知らないとかありえん」


 山本「それだけ教導官達が、本気で育てたってことだ」


 伊坂「あと彼女、一度見るとすぐ覚えるから、そのつもりで」


 久喜「え!」


 高月「なにそれ?」


 平田「どういう意味?」


 伊坂「そのまんま。

 模擬戦中に使った技能スキルを、直ぐに応用して使ってくるから、そのつもりで対戦する様に。

 でないと、自分が使った技能スキルが倍返しで返ってくるぞ。」

 カラカラと笑いながらそう言った。


 山本「じゃあ、次は高月と模擬戦な」


 高月「え?聞いていないんですけど」


 山本「今言ったからな。さあ、さっさとやれ」


 高月さんは、気だるそうに「はー、もう仕方ないな。神城さん、やろうか」と言って中央に向かう。

 自分の評価を直接聞いて内心でもだえていた私は、慌てて対面に移動する。


 伊坂の合図で高月さんは、右手に持った杖を水平に振ると、鉛筆位の大きさの火の矢を無数に撃ってきた。

 私が横に避けつつ、高月さんに近づこうとすると、弾幕が厚くなるので円を描く様に避け続ける。

 半周回った位で、偏差撃ちとゴルフボール位の大きさの火球ファイヤー・ボールも混ぜて撃ってきた。


 私の周囲に水の膜を張って防御する。

 水の膜に当たった所に波紋が表れるが、突破されていない。

 絶え間ない攻撃に、無数の波紋が広がっている。


 高月さんは、弾幕を切らすこと無く、杖を掲げた先に直径15cm、長さ1m位の炎の槍を形成した。

 私は、波紋が広がる水の膜から、親指1本位の水球が分離して弾丸状に整形し、回転を加え、初速300m/sで炎の槍ファイヤー・ランスに目掛けて撃ち出す。


 炎の槍ファイヤー・ランスの真正面からぶつかり、爆発を起こして双方消滅した。


 高月さんは、爆風で吹き飛ばされながらも、姿勢を崩す事なく着地した直後に、私の背後3方から先程頭上に作った炎の槍と同じ物を撃ってきた。


 先程と同様に親指1本位の水球を3個分離させ、弾丸状に整形し、回転を加えて初速420m/sで私に迫っている炎の槍を迎撃、炎の槍を穂先から15cm程貫いて炎の槍が爆散した。


 高月さんは、両手を上げて「降参」を宣言した。


 高月「相性最悪の相手に、ここまで善戦できれば上出来でしょう。

 もう、あまり魔力も残っていないから、逆転の手は無いわよ」


 山本「1対1タイマンなら、仕方ないか」


「あの、相性最悪ってどういうことですか?」


 高月「神城さんは、近接戦闘も遠距離戦闘も出来るでしょ。

 私は、遠距離戦闘専門だから、あまり近接戦闘が得意でないの。

 近接戦闘になったら、全く勝ち目が無いわ。

 だから弾幕を張って、距離を取って戦っていたの。


 それに、私は火と風で、神城さんは水と土。

 私は放出系で、神城さんは具現化系。


 一般的に放出系は、高威力・広範囲・使用魔力量が少な目だけど、魔力で形作っているだけだから直ぐに霧散して消滅するでしょ、だから戦闘が長引くと使用魔力量が多くなるのよ。

 具現化系は、低威力・限定範囲・使用魔力量が多いけど、実体を伴って存在するし、操作する魔力量は極微量で済むから、長期戦では放出系より使用魔力量が少なくて済むのよ。


 それに、火と風の放出エネルギー量は大きいけど、質量は殆ど無いわ。

 一方、水と土は内在エネルギー量が大きく、十分な質量もある。

 正面からぶつかり合いになると、質量が大きい方が有利なの。


 だから、相性が悪いってこと」

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