第45話 訓練所女子寮(2)

 服を脱ぎ、浴室に移動して洗い場の端に移動して身体を洗う。

 浴室では、皆隠すこと無く堂々と裸体を晒している。

 その状況に、自分が場違いな場所にいる気がしてならない。


 土方「おい、神城。」

 土方さんの強い語調にビクっとしてしまった。


 土方「元男だからって、卑屈ひくつに成るな。

 お前がつい最近まで男だったことは、この寮にいる女性隊員は全員知っている。

 これから女性として生きる為に努力していることも聞いている。

 そして、これから先出会う人間はお前が元男という事を知らない。

 だから引け目を感じることも卑屈ひくつになる必要もない。

 もっと、堂々としろ。」


「え、え、えーと、はい、がんばります。」

 我ながら、間が抜けた答えだと思う。


 土方「お前な~」

 顔を右手で覆いながら呟いている。


 市川「まあまあ、みやこ

 彼女が、真面目だから間が抜けた回答になってしまっただけだよ。


 一々、自分が元男だってことを公表する必要も無いし、そのことを引け目を感じる必要も無い。

 そうやって壁を作るより、もっと自分を出して良いんだ。

 みやこみたいに堂々としろとは言わないけど、隅っこで縮こまる必要は無いよ。

 いきなりは無理だろうけど、頑張りなさい。」


「はい。えーと」


 市川「私は、市川いちかわ みおだよ。

 もう、洗い終わったんだろ、なら湯船に浸かろう。」

 そう言うと、手を引かれて湯船に浸かる。


 当然のように、女性陣に囲まれてしまった。

 今、浴室に居るのは私込みで7人で、残りの人は既に上がっている。


 水谷「神代さん、貴女怪我をしているけどどうしたの?」


「怪我ですか? この間、火蜥蜴サラマンダーと遭遇した時に怪我しました。」


 水谷「自己治癒法は、使っていない様ね。

 今、霜月教導官からなにか習っていない?」


「魔力制御の訓練をしてます。」


 水谷「他に習っていることはある?」


「いいえ、魔力制御だけです。」


 水谷「ちょっと、触るね」

 そう言うと、私の右隣に座って、右手を私の右肩当たりに当てた。


 水谷「え、うそ、何も見えない。」


 屋上「どういう事っすか?」


 左海「魔力診断が弾かれている?」


 水谷「どうやら、そうみたい。ちょっとごめんね。」

 そう言うと、ヒョイと私を持ち上げ膝の上に置いた。


 あまりにも自然に持ち上げられて抱っこされたので、気がついたら膝の上で後ろから腕の外側からに手を回した状態で抱きつかれた姿勢になっていた。


 水谷「そのまま、じっとしていて」


 私の耳元でそう言われた後直ぐに、水谷さんに触れている皮膚がチリチリとむず痒い。

 耳元で、息が荒くなっていく。

 周りも固唾を飲んで見ている。


 水谷「う、うはーーーー。はぁ。 はぁ。・・・」

 物凄く、息が荒い


 屋上「なんか、エロいっす。」


 左海「陽葵ひなたちゃん、大丈夫?」


 水谷「大丈夫です。この子の魔力に飲み込まれた掛けただけです。」


 屋上「どういう事っすか?」


 土方「両者の魔力量の差が大きい状態で、魔力干渉を行うと魔力が小さい方が大きい方に魔力を吸われる現象だ。」


 屋上「それって、陽葵ひなたよりそのの方が魔力が大きいという事っすか?」


 左海「神城さんの方が圧倒的に大きいって事よ。

 神城さんの魔力ランク教えてくれる?」


「Sランクです。」


 左海「え? S?」


 屋上「Sってありえないっす。」


 水谷「なるほどどおりで」


 土方「陽葵ひなたは、納得しているようだな。」


 水谷「以前、魔力B3の人を治癒ちゆした時は、軽く引っ張られるのが分かる程度だったのに、今回は表層にちょっと接触しただけで引きずり込まれかけたんです。

 1ランク上では納得出来ない程強力だったですよ。

 だから、2ランク上のA1以上だと思ったので納得です。

 ちなみに、私の魔力はC7。」


 土方「山奈やまな教導官が、神城の能力値を教えてくれなかったのはこのためか。」


 屋上「『能力については、直接本人から確認する様に』なんて言っていたのは、事前に教えても信じないと思ったからすか。」


 土方「正直、まだ信じられん。」


 水谷「ところで、神城さん。」


「なんですか?」


 水谷「優ちゃんって呼んで良い?」


「え、いいですよ。」


 水谷「ありがとう」


 屋上「あ、陽葵ひなただけずるいっす。私も名前呼びしていいっすか?」


「いいですよ。」


 屋上「うっし!」

 ガッツポーズをしている。

 その後、残りの人も名前呼びの許可を求めるので、許可した。


 左海「ところで、陽葵ひなたちゃんは、いつまで優ちゃんを抱っこしているの?」


 水谷「お風呂上がるまでですよ。

 だって、この娘物凄く抱き心地が良いんです。

 このままお持ち帰りしたいです。」

 そう言いながら、私の頬に頬擦りをしている。


 中杉「陽葵ひなた、私にも貸して。」


 水谷「はい。」

 横に来た中杉さんに、ぬいぐるみでも渡す感じでヒョイと渡されてしまった。


 膝の上で、後ろから抱きついた状態で頬擦りしながら、「ほんと、抱き心地最高ね。」と言ってウットリとしている。

 水谷さんは、中杉さんに私を渡すと湯船から上がった。


 屋上「私にも抱かせてほしいっす。」


 中杉「そうしたいけど、そろそろ時間だし上がらないと。」


 屋上「あ、ガックシ」


 私は、ようやく開放されると思ったのに、中杉さんは抱いた状態のまま立ち上がって、湯船から出で洗い場に置いたままの私のお風呂道具と自分のお風呂道具を片手で持った。私は片手で胸元に抱え込まれた状態のままである。

 そのまま、脱衣所に運ばれて言った。


 土方「りんのやつ、器用だな」


 左海「そうね、私達も上がりましょう。」


 脱衣所で、ようやく解放された。

 着替えて、髪を乾かす。

 周りにお世話したいオーラを出している人達が居るが気が付かないったら、気がつかない。


 その後、洗濯場で洗濯機の使い方を教えてもらい洗濯機を回した。

 今まで、母さんがやっていてくれていたから使い方を知らなかった。

 洗濯機を回したので部屋に戻ろうとしたら、お風呂道具を部屋に置いて談話室に来て欲しいと言われたので、お風呂道具を部屋に置いて談話室に向かう。


 談話室には、女性隊員と寮監さん夫妻もいた。

 なんと、私のために歓迎会を催してくれた。


 改めて、お互いに自己紹介をして気が付いた。

 板倉さんが普通? むしろ饒舌じょうぜつに喋っていた。

 手には、缶ビールを持っている。

 もしかして、酔っ払ってる?


「左海さん。板倉さんって酔っ払ってます?」


 左海「その通りよ。葵ちゃんは酔っ払うと、ちょっと開放的になるだけだら大丈夫よ。」


「でも、まだ始まってそんなに経ってないですよ。」


 左海さんは苦笑いしながら

 左海「葵ちゃん、お酒に極端に弱いからね。でも、酔った状態の記憶もしっかり残るから大丈夫よ。」


 なにが大丈夫のだろう?

 取り敢えず、その事は置いといて気になったことを聞いてみよう。

 「皆さんは、名前で呼び合う程仲がいいのですね。

 以前から知り合いなのですか?」


 左海「私は、葵ちゃん以外は知り合って2週間位よ。」


 土方「ほぼ、全員が知り合って2週間だよ。」


「え?」


 市川「この状況を作ったのは、芽依めいだよ。

 芽依めいが、入所初日に『私たちは、同僚であり、仲間であり、ライバルだ。だから、お互いに蹴落けおととし合うのでは無く、高め合おう。そして、女子全員でこの三次試験を突破しよう。』と私達の前で言いってね、それに葵さんと成美さんが賛同して、前回の三次試験を受けた人達がその時の様子を教えてくれた事で全員参加になったの。

 そしたら、『淑女同盟しゅくじょどうめいとして、名前で呼び合おう、男共には馴れ合いとでも思わせておけば勝手に油断してくるから一石二鳥っす』と言って今に至るの。」


「ということは、いつもはこの様な雰囲気ふんいきではないのですか?」


 左海「そうよ。例年は、かなり殺伐とした状態よ。

 隙き有れば、お互いに蹴落とし合うのが当たり前の状態よ。」


「なんかイヤだな」


 左海「その通りよ。物凄く居心地の悪い半年を過ごしての試験なんて、本来の実力も出せずに落ちたわ。だから、芽依ちゃんの提案にのったのよ。」


「試験って、三次試験で終わりなんですか?」


 土方「機動戦略隊の隊員選出試験は、四次試験まである。

 7月に隊員募集が行われて、書類選考。

 8月に一次試験で、筆記テスト

 9月に二次試験で、実技テスト

 ここで、全国5箇所ある教導隊の担当地域定員100名まで絞られる。

 10月から2月末まで、三次の研修試験

 三次試験合格者は、各教導隊50名。

 3月に四次試験を合格することで、晴れて機動戦略隊の隊員になれる。」


 「そうすると、男子寮には87名も居るんですね。」


 市川「いや、男共は62人だよ。」


 「え、定員100名では無いのですか?」


 左海「ええ、定員は100名だけど、最大100名といった方が分かりやすかったかな。」


 土方「三次試験に要求される能力がある上位100名が入所している。

 当然、三次試験合格者も四次試験に要求される能力がある上位50名が合格となる。要求能力に達した人数が定員を満たしたことは、過去一度もない。

 機動戦略隊隊員に成れるのも数人だけだ。」


 神谷「合格者なしの年もあるし、過去最多合格者数も15人よ。」


「かなり厳しいのですね。」


 神谷「だから、他人を蹴落としてでもと思う人が絶えない。

 でもね、四次試験は全国の三次試験合格者一同を集めて行われるから意味ないんだよね。」


「神谷さんも経験者ですか?」


 神谷「うたでいいよ。

 私は2回目だよ。

 あと、葵さん、成美さん、都の三人も2回目だったはず。

 残りの人は、初参加。」


「そうなんだ。」


 板倉「ところでぇ~、優ちゃんは~、ここに居る~間にやりたいことある~?」

 顔がかなり赤いし、呂律がちょっと怪しい。


「やりたいことって、なんですか?」


 板倉「みんな~、教官程ではないけど~、色々と出来るから~ 学んだらとうかな~」


「そんな事言われても、急には思いつきません。」


 土方「確かに急に言われると思いつかないな。」


 どうしたら良いか困っていると板倉さんが抱きついてきて、頬擦りをされた。


 板倉「う~ん、その困った顔とか可愛すぎ~。

 物語中から出てきたお姫様みたいな姿だし~。

 ほんと~かわいい~。」

 

 板倉さんが一通り満足した頃に左海さんが

 左海「葵ちゃん、そろそろ離れてくれる」

 板倉さんに抱きつき拘束から、解放された。


 左海「優ちゃん、洗濯機が止まる時間だから洗濯物を干しに行くわよ。」

 左海さんと一緒に、歓迎会を抜け出して洗濯物を干しに行く。

 洗濯物の干し方にも注意点があるらしく、言われた通り干していく。

 改めて、自分の女物の下着を見て気恥ずかしくなった。


 洗濯物を干し終わったて、談話室に戻ると屋上さんに詰め寄られて

 屋上「さあ、優ちゃんの苦手な教科を言うっす。」


「はい?」


 屋上さんの頭に拳骨が落ちた。

 土方「こら芽依、それだと分からんだろうが。

 優ちゃんがいない間に、何を教えるか話していて不得意科目、家事全般、能力の基礎知識、武術なんかでどうだろうかって話しになった所で戻ってきたもんだから、芽依が突撃してしまった。」


「ああ、そういう事ですか。」


 土方「優ちゃんの方が、芽依より大人の対応だな。」

 ため息交じりに言われた。

 言われた本人は、まだ頭を押さえてうずくまっていた。


「えーと、数学と英語がちょっと苦手です。」


 土方「他には、なにかあるか?

 興味のあることとか、もっとよく知りたいことかあるか?」


「プログラミングをもっとやってみたいです。

 学校だとあんまり出来なかったから。

 あと、料理かな。

 来年から訓練校に行くから、自炊出来るようになった方がよいのかな?」


 神谷「他に希望はある?」


「今思いつくのは、それ位です。」


 神谷「分かったわ。学びたいことが出来たらその都度教えて。

 それと、学習時間は、19時30分から21時30分の2時間を予定しているけど大丈夫かな?あと、学習予定と内容は私達に任せてもらえる?」


「はい、お願いします。」


 その後は、雑談をしながらお菓子を食べたり、ジュースを飲んで過ごした。

 その横では、カリキュラムをどうするかが話し合われていた。


 21時30分に会はお開きになったので、ストレッチをしてから寝た。

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