第44話 訓練所女子寮(1)

 女子寮へ帰る途中で、研修棟の前でちょうど出てくる機動戦略隊候補生の人達と出くわした。

 一人の女性隊員が、私達に気付いて仲間の女性隊員達に声を掛けて私達の前で整列した。

 研修棟から出てくる男性隊員達は、怪訝な顔をしながら通り過ぎて行く。中にはこちらの様子をうかがって、声を掛けようする者もいたが周りに促されて通り過ぎて行く。

 男性隊員が居なくなり、私達と女性隊員だけになった。


 霜月「山奈やまな教導官から詳細は聞いたかな?」


 板倉「はい、女性隊員全員で聞きました。」


 霜月「そうか、ならこの後の事はよろしく頼む。」


 板倉「了解しました。」


 霜月「優ちゃん、この後は彼女、板倉いたくら候補生に任せようと思う。

 大丈夫か?」


「うん、大丈夫」


 霜月「寮のスケジュールは、覚えている?」


「覚えてます。

 5時30分 起床

 6時00分 朝食

 6時30分 出勤


 17時00分-~19時00分 夕食

 22時00分 消灯

 ですよね」


 霜月「合ってる。

 明日は、朝6時30分に寮に迎えに行くので他の人に付いて行かない事。」


「え、そんな小さい子みたいな事しません。」


 霜月「そういう訳ではなく、優ちゃんの護衛官は教導隊のBランク教導官が行う事になっている。その為訓練所外に出る場合は、他の対魔庁の関係者であっても禁止にしている。

 当然、若桜や氷室でも護衛官無しでの訓練所外へ外出は禁止だ。

 そういう意味で、代役とか言われても無視して良い。

 そういう人間が来たなら、寮監やそこにいる女性機動戦略隊候補生に頼って欲しい。決して、不埒ふらちな者に付いて行かないでくれ。」


「そういう人が出る事が前提?」


 霜月「残念ながら、その通りだよ。

 対魔庁も一枚岩では無い、今回の騒動で相当数の身内を処断しているがそれでも全てではない。必ず不埒ふらちな者がでる。

 現状、裏が取れて潔癖けっぺきな者はそこまで多くない。

 幸い、今回の女性候補生は、全員裏が取れた潔癖な者達だ。

 だからそこ、信頼に足る者達を頼ってほしい。

 いいね。」


「はい」


 霜月「どうしたお前達、言いたいことがあるなら言え。」


 女性隊員「えーと、なんかお母さんみたいな感じだなーと」

 しどろもどろに、答えてる。


 霜月「そんなに、この子の事を心配するのが不思議か?

 私は、これでも二児の母親だぞ。

 それに、この子は私の娘の歳に近いし、他人事に思えない。

 娘同然で接していても可笑しくないだろ。」


 女性隊員「いえ、おかしくないです。」


 霜月「まあ、いい。この子優ちゃんの事頼んだぞ。」


 女性隊員一同『了解です。』


 霜月さんは、私を板倉さんの前に出した。

「よろしくお願いします。」


 板倉「こちらこそ、よろしくです。

 では、女子寮に行きましょう。」


 若桜「優ちゃん。明日は、渡した体育服装を来てきてね。

 また明日ね。」


「はい、また明日」

 手を振って別れたて、女性隊員達と女子寮に向かう。


 女子寮に着いたら他の女性隊員達と分かれて、板倉さんと一緒に部屋へ戻り荷物を置いてから一緒に女子寮の食堂に向かう。

 霜月さん達と分かれてから、ここまで必要最低限げの会話しかしてない。

 上手く話しかけられなくて、10分以上経っている。


 食堂で、お盆を持って配膳の列に並んで料理を貰うのだが、その料理が大盛りだったのだ。今の私では到底食べれる量ではなかったので料理を貰う段階で、お願いして半分の量にしてもらった。

 ちなみに、夕食は厚切りとんかつです。


 食堂の席は、6人掛けのテーブルが6脚置いてあるので、人の座っていないテーブルの角に席を取った。

 すると、私の前の席に人が来た。


 女性隊員「相席してもいいかしら?」

 肩まである黒髪に目尻が垂れた優しそうな女性だ。


「はい、大丈夫です。」


 女性隊員「ありがとう。」

 そう言って彼女が私の前の席に座ると、堰を切ったように空いてる席が全て埋まった。同じテーブルに着いた人達と簡単な自己紹介をした。

 そして、私の前に座った「左海さかい 成美なるみ」さんが話しだした。


 左海「本来ならあおいちゃんが対応しないといけないんだけど、私でこめんね。」


あおいちゃん?」


 左海「板倉 葵。あなたの同室の子の名前よ。

 もしかして、自己紹介も出来てなかった?」


「はい、必要最小限しか喋ってくれなくて、うまく話しかけられませんでした。」


 左海「本当にごめんね。後で言い聞かせておくから。

 あの子、緊張すると無表情、無口になってしまうの。」


「え、緊張していたんですか?」

 今も、違うテーブルからこちらを睨むように見ている。


 左海「そうなのよ。

 あの子の小さい時からの悪癖あくへきだから気にしないで。

 本当は、色々と話しかけたいのに緊張して何も喋れなくなっているだけだから。

 社会人になって、大分改善したんだけど神城さんを前にした途端に極度に緊張してしまってね。」


「そうなんですか?」


 左海「あなたのその仕草、結構な破壊力あるわよ。」


 土方「これは、葵で無くても落ちるな。」

 左海さんの隣に座っていて背が高く、凛としたかっこいい女性の「土方ひじかた みやこ」さんのげんに同意する同席した女性陣。


「?」

 訳が分からない?何が悪いの?


 屋上「これは、理解できてないっすね。」

 私の隣に座っている「屋上やがみ 芽依めい」さんは、苦笑いをしながら言った。


 左海「とりあえず、ご飯が冷めない内に食べましょう。」

 左海さん達と雑談をしながら夕食を頂いたけど、半分でも多くて、やっとのことで食べきった。

 食器を返しに行った時に、食堂の人に感想と半分の量で足りたのかと聞かれたので「美味しかったですが、半分でも多くて食べきるのが大変でした。」と答えると、「明日は、1/3にしてみるか?」と聞かれたので、それでお願いした。


 部屋に帰り、洗面道具と洗濯物を入れたカゴを持って浴場に向かう。

 洗濯物も持って行くのは、洗濯のやり方を左海さんに教わるからだ。

 左海さんは、お風呂上がりに洗濯機を回すのを習慣としているそうなので私もそれに習うことにした。板倉さんは、週末に纏めて洗うらしい。(左海さん談)

 板倉さんは、部屋に居なかったので既に浴場に行っているものと思われる。


 浴場の脱衣所に行くと、左海さん達5人が待っていた。

 一緒に脱衣所に入り、隅で服を脱いでいくが恥ずかしい。


 屋上「そんな隅っこで何をしてるかな?」


 思わず顔を屋上さんの方に向けると、全裸で手を腰に当て顔を突き出すような姿勢で、いたずらっ子の様な笑みを浮かべて私を見ていた。

 私は、彼女の裸を真正面から見てしまって、慌てて顔をそむける。


 屋上「おお、初々ういういしい反応」

 なんか嬉しそうにそうに聞こえる。


 土方「こら、からかうんじゃない。」

 そんな言葉と共にゴチンと鈍い音も聞こえたので、思わず音がした方を見ると同じく全裸の土方さんが屋上さんに拳骨げんこつを落とした様で、屋上さんが頭を押さえてうずくまっていた。

 顔を再びそむけたが、土方さんの素晴らしいプロポーションをしっかりと見てしまった。

 自分の体を見る、多少胸があるが起伏の乏しい身体だ。

 あまりの違いにタメ息が出てしまった。


 中杉「あら、自分の体を見ながらタメ息なんかついてどうしたのかしら?」

 いきなり、後ろから耳元で囁かれた。


「ひゃい」

 変な声が出てしまった。


 中杉「あらあら」

 おっとりした感じで口元に手を当て笑っている。

 彼女は、「中杉なかすぎ りん」さんで、一緒に夕食を食べた人で胸の大きいおっとりしたお姉さんです。


 中杉「神城さんは、まだ成長期ですから落胆する必要なありませんよ。むしろ、初潮前でそれだけ胸があるのなら将来大きくなると思いますよ。」


「え?」


 土方「スタイルは、適度な運動と適量の食事で作られるものだ。これから精進すれば良いだけだ。」


 屋上「そんな事が言えるのは都ちゃんだけっす。

 私達の3倍も動くなんて普通は出来ないっす。」


 左海「まあ、都ちゃんの運動量の件は置いといて、言ってることは正しいわよ。

 規則正しい生活と適度な運動に適量のバランスの取れた食事は、成長期の神城さんには重要な事よ。

 夜更かし、暴飲暴食、無理なダイエットは、美容と健康の天敵ということをしっかりと憶えててね。


 それと、都ちゃんと芽依ちゃんは前を隠しなさい。

 はしたないわよ。

 思春期ししゅんきは、見るのも見られるのも恥ずかしが多いんだから。

 あなた達だって、経験あるでしょ。」


 土方・屋上「いや、無い(っす)」


 左海「ああ、そう。

 とりあえず、あの二人は放っといて、さっさと脱いじゃいましょう。」

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