第43話 魔力訓練

 第三体育館に着いた。

「ようこそ、第三体育館へ。

 ここは、魔力制御の訓練専用施設だ。

 今日、明日で、自己鍛錬の為の基礎を覚えてもらう。

 そんなに身構えなくても大丈夫だ」

 と霜月さんが言った。


 どうやら、私は無意識の内に力が入っていたようだ。

 霜月さんと一緒に第三体育館に入った。


 入り口をくぐると、エントランスホールになっており、休憩所を兼ねている様だ。


「此処には、魔力制御の訓練用に大・中・小ホールと個室がある。

 大きさは、大がバスケット2面分、中がバスケットコート1面分、小がバスケットコート1/2面分、個室が畳4畳位だ。

 部屋数は、大1,中1、小2、個室10ある。

 今回は、小ホールを使うか」

 そう言うと、壁にある部屋の使用状況を表示してあるディスプレイを操作して、カードを取り出してカードリーダーの上にかざし電子音が鳴った。


 ディスプレイ上の小ホールの一つが使用中に切換わり、使用者に霜月さんの名前が表示された。


「よし、行こう」

 と言うと、霜月さんは奥に向かって歩いて行く。

 私も慌てて後を追う。


 小ホールの前で、カードリーダーにカードをかざすと扉の鍵が開いた。

 中に入ると、部屋はほぼ正方形の部屋で、先程言われたようにバスケットコートの半分程度の広さで、天井までの高さは5m位はありそうだ。

 部屋の奥には、マネキンと的が置いてある。

 入って左側の壁には、高さが2m位、長さが10m位ある大きなディスプレイが設置されていて、反対側の壁は一面鏡になっている。

 入ってきた扉の横には、装置の制御装置コンソールが設置されて霜月さんが操作している。


 部屋の四隅には、魔防装置まぼうそうちの発信機の様な物が取り付けられている。私が、室内をキョロキョロと見渡している間に霜月さんが機器を起動したようで結界が発生した。


「結界を起動したから、訓練を始めよう。

 最初は、魔力を最大出力で維持からだ」

 と指示されたので、魔力を最大出力で維持を始める。


 訓練は、最初に100%、75%、50%、25%の4段階を順番に維持する事から始めて、ある程度各段階で安定してくるとランダムに指示された段階の出力で安定させるものに変化していった。

 魔力出力の状態は、壁面ディスプレイに表示されていて、それを見ながら指定された出力の範囲に入るように調整する。

 1回5分で、結果に対して成績スコアが表示されるので、ゲームみたいでちょっと楽しい。

 霜月さんは、椅子を持ってきて壁際に座って私の様子を見ている。


 しばらくして、ミスが増えてきた所で休憩になった。

 氷室さんからスポーツドリンクを貰った。

 「え、氷室さん。いつの間に?」

 と聞くと

「優ちゃんが、一生懸命に頑張っている時ですよ」

 と返された。


 全く気付かなかった。


 ちょっと呆然としていると氷室さんが

「壁際に移動しましょう。霜月先輩が手本を見せてくれるそうですよ」

 と言って、氷室さんが私の背中を押して壁際に移動する。


 私達が壁際に移動すると、霜月さんが結界内に入って私達の方を向き

「訓練を進めれば、誰でも出来る内容だから目指してくれ」

 と言ってから、魔力の操作を始めた。


 霜月さんのデモンストレーションは、圧巻だった。

 魔力の出力は、10段階で行われて、全ての段階を完璧にこなしていた。

 各段階への移行も瞬時に行われ、振れ幅も分からない程だった。


「すこし、面白いものを見せてやろう」

 と霜月さんが言うと、制御装置コンソールを操作して、表示を変えた。

 結界の中に戻るとディスプレイに霜月さんのシルエットが写っている。


「まず、魔力を練る」

 と言うと、ディスプレイのシルエットのお腹に赤い丸印が表示されて、横に2種類の数値が表示された。


「発生した魔力の位置と魔力圧と単位時間当たりの魔力量が表示されている。

 魔力圧と単位時間当たりの魔力量の積が把握量だ」


「次に右手に魔力を集める」

 今度は、ディスプレイのシルエットの右手に赤い丸印が表示され、横に2種類の数値が表示された。

 魔力塊マナ・コアから手の魔力へ魔力が流れているを表しているのか、短い矢印の破線が2つの丸印を繋いでいる。


「右手の魔力値と魔力塊マナ・コアの魔力値を良く見て欲しい」


 言われた通り確認すると同じ数値だった。

「同じ数値になっています。」


「そのまま確認していてくれ」


 そう言われたので、そのまま見ていると右手の魔力量の値がどんどん増えている。


「右手の魔力量が増えています」

 と言うと、霜月さんは

「その通り、これは溜めチャージという技術だ。

 言葉通り、魔力を溜め込んでいる状態だ。

 次は、これだ」

 と言った直後、右手に集めていた魔力を開放した後、再び右手に魔力を集め始めた。

 今度は、魔力圧が高くなったが魔力量が下がった。


「魔力圧が上がって、魔力量が下がりました」

 と応えると、霜月さんは

「では、魔力塊マナ・コアの状態はどうかな?」

 と聞くので

「数値に変わりがありません」

 と答えた。


「これは、魔力操作という技術だ。

 この状態は、水道に繋いだホースの先端を押しつぶして水圧を上げている状態と同じ状態だ。

 では、この状態はどうかな」

 と言うと、右手の魔力値に変化はなかったが、魔力塊マナ・コアの魔力圧と魔力量が変化していた。


魔力塊マナ・コアの魔力値が、右手の魔力値と同じになっています」

 と私が言うと

「他には?」

 と聞かれた。


「他にですか?分かりません」

 と応えると

「把握量は、どう変化したかな?」

 と言われたので

「把握量ですか」

 と言った後、前の状態を思い出しながら考え

「多分、変化前と同じ値ですか?」

 と答えると

「その通り。

 この技術は、魔力塊マナ・コア操作という。

 魔力塊マナ・コア操作と魔力操作を組み合わせると様々な出力を作り出すことが出来る。

 この技術を優ちゃんに覚えてほしい。

 もちろん、一朝一夕の習得できるものではない。

 訓練校に入るまでの半年の間に基礎訓練の基礎が出来れば良いと考えている。

 習得できるように頑張って欲しい」

 と言われたので

「頑張ります」

 と応えた。


 霜月さんは

「よろしい。休憩を終わりにして続きを行おう」

 と言うと結界の外に出た。


 入れ替わる様に私が結界に入り、訓練を再開する。

 その後、4時半になるまで定常出力訓練を続けました。

 途中で若桜さんと2人の男性も来て、私の訓練の様子を見ていた。


 霜月さんが

「今日は、ここまでにしよう」

 と言ったので、魔力を霧散させた。


 私は、息が上がり汗だくになっていた。

 結界内に立ち、ディスプレイの指示に従って魔力の定常出力を行っていただけなのに、激しい運動を行った後の様に強い疲労感が襲ってくる。


 そんな私を見て、霜月さんは

「魔力出力に慣れない内は、無意識に身体からだに力が入ったり、動かしているから疲れるんだ。その内慣れる」

 と言って、タオルを渡してくれた。


「ありがとうございます」

 と応えて、タオルを受け取り顔を拭く。


「ちょっといいかな?

 私は、この訓練装置を開発した者なんだが、これを使って見でどうだったか感想を聞かせてくれないか?」

 と急に白衣を着た男性から声を掛けられた。


「いいですよ」


 それから、制御装置コンソールの使い勝手や実際の訓練でやってみた感じとかディスプレイに表示される情報についてや成績スコアについて等々聞かれ、答えると一緒に居た人が紙に記録していた。


「いやー、貴重な意見ありがとうございます。

 それでは、また会いましょう。」

 そう言うと、二人の白衣を着た男性は帰っていった。


 氷室さんが私の側にやってきて

「優ちゃん。IDカードを渡しておきますね」

 と言って、カードを渡された。


「これは?」

 と聞くと

「訓練所内に立入る為に必要な許可証です。

 女子寮に滞在している間なら、いつでも此処で魔力制御の訓練をしていいですよ。地下は、ジムになっているので休日に汗を流している隊員も大勢居ます。

 あと、訓練所内の売店や自動販売機で購入できるように1万円分チャージしてありますから好きに使ってください。

 訓練所以外では使えないので、気をつけてください」

 と言われた。


「えーと、ありがとうございます」

 と言って、頭を下げる。


 いつの間にかに来ていた若桜さんが

「あとこれね」

 と言って、紙袋を渡された。


 私が紙袋を見ていると

「体育服装よ。昔のデザイン物で倉庫に眠っていたものだから使ってちょうだい」

 と言われた。


「   ありがとうございます」

 と言うと

「どうかしました?」

 と氷室さんに聞かれ


「遠慮なんてしなくていいぞ」

 と霜月さんに言われた。


「なんか、こんなに親切にしてもらって良いのかなと思って」

 と言うと霜月さんが、微笑みながら

「そんなことか。もちろん気にしなくて良い。

 我々としてもメリットがあるからな」

 と言った。


 思わず

「え?」

 と声を漏らすと霜月さんは

「優ちゃんが敵対しない。

 これだけでも我々には大きなメリットだ。

 今は実感が沸かないだろうが、君は敵対する者にとって戦略核兵器に相当する程厄介な存在でも有る。

 君が十全に能力を使い、開放する事が出来るように成れば単独で一個師団に匹敵する戦力を有し、あらゆる戦局をひっくり返すだけの力になる。

 国にとって軍事に関する事だけも、その存在だけで大きな抑止力になる。


 また、今行っている訓練やこれから優ちゃんにあわせて開発される機器は、今後の人材育成や技術開発に反映される。

 国の技術力向上に大きな貢献になるから、気にすることはない」

 と言った。


 思わず

「そうなんですか?」

 と聞くと、若桜さんが

「その通りよ。

 技術開発室なんて、魔力不足で検証すらできてない理論や装置が山の様に有るわ。

 それらの実証実験にちょっと手を貸して貰えるだけで、十分な働きになるから大丈夫よ」

 と言い、氷室さんは

「それに優ちゃんは、それだけの力を手に入れたのにおごっていない。

 その事自体が稀有けうな事なのです。

 大概の人は、力に溺れ傲慢になります。

 特に労せず得た能力が大きいほどその傾向は強くなります。

 だから、優ちゃんは今のままの大人になって欲しいという我々の願いも込めているで、気にしないでください」

 と言われた。


 私は

「 分かりました。皆さんの期待に沿えるように頑張ります」

 と言って、頭を下げた。

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