第42話 文化祭と保護先

 テストも終わり、3時限目のホームルームになった。


 ある意味、今日のメインと言っても過言ではない。

 今週末行われる文化祭の内容を詰めるための話し合いが行われる。

 文化祭は、水・木・金曜日に準備、土曜日に実施される。


 各クラスの出し物の中で人気の食品関係の出店は、各学年1組とPTAが出す事が決まっている。

 1年生が、綿菓子。

 2年生が、チョコバナナ

 3年生が、喫茶店

 PTAが、焼きそば、ソーセージ、唐揚げ、ジュース等を出している。


 生徒の飲食店は、チケット制で事前に販売数が決められている上、学校側が飲食物を用意している。なので、生徒は売り子(配膳)をするだけだのだ。


 中間考査前に行われた文化祭実行委員のくじ引きで、我がクラスはみごと喫茶店を引き当てていた。

 今日の話し合いは、限られた予算の中でどの様なお店にするかと配役を決めることになっている。


 話し合いの結果、仮装喫茶になった。

 私の配置は、午後の案内係(呼び込み)。


 端折はしょり過ぎなので簡単に経緯を説明すると、お店のコンセプトについては、普通の喫茶店にする案とコスプレ喫茶で分かれた。


 コスプレ喫茶推進派は、最初メイド喫茶を押していたのだが、衣装代が高いなどがあって普通の喫茶店が優勢だったのだが、ハロウィンの仮装へと方針転換すると、格安で衣装の調達が可能な上色々と工夫が出来るということで支持を受けて決定。


 お店の内装と仮装の内容は、美術部と手芸部の部員だった生徒が主導して大筋を決めた。後は、買出しで費用と相談で修正する事になった。

 なお、個人でコスプレ衣装を持っている人は、それを着ても良い事になり事前申請を受け付けている。

 買出し班は、主導した生徒2人と立候補者6人で行くことになったが、大勢が立候補したため6人になるまで、じゃんけん大会になった。


 文化祭当日の配役は、フロア係、厨房係の2種に、午前・昼・午後の3班に分かれて行われる。

 私の希望は、午前の厨房係だったのだけど、周りから午後のフロア係を切望された。目立たず、忙しくない仕事が良かったのに。


 私は、体が小さいから皆と一緒に配膳はいぜんを行うと邪魔になるからと辞退しようとすると、案内係に任命されてしまった。

 渋々了承すると、「クラスの目玉ができた。」とか「勝ったな。」とか言っている人やガッツポーズを取っている人もいる。

 意味が分からない。


 その後も、細かい事を決めて2時限通しの文化祭の話合いが終了した。

 ホームルームの最後に、担任の山並先生から注意事項を言われた。

 

 山並「テストが終わり、文化祭が目の前に迫っているからはしゃぐ気持ちも分かるが、これから言う事をしっかりと理解して欲しい。


 昨日、神埼かんざき 綜一郎そういちろうが逮捕された。


 学校側も逮捕された理由も経緯も分かっていない。

 学校も対応のしようがないが、学校の外にはマスコミが集まっている。


 校長にマスコミ対応をして貰ったが、解散する気配が無い。

 おそらく、生徒への取材が行われると思う。

 マスコミには、『知りません』とだけ答えて欲しい。

 以上だ。」


 クラスメイトは、ようやく捕まったかという感じで、特に何かを感じている雰囲気はなかった。


 放課後になったので、待機所に戻ろうとすると手芸部の篠原しのはらさんに呼び止められた。

 今回、仮装の衣装を複数人で使い回す予定だが、私は特に小さいから他の人と共用できるか調べたいから測らせて欲しいと言われたので、快く了承して測って貰った。買出し班は、この後一旦帰宅後、再集合してから買出しに行くらしい。


 待機室に戻ると、既に移動準備が完了していた。

 教室での訓練は、中止して対魔物戦術課たいまものせんじゅつかの訓練所に移動することになった。

 途中でお昼ごはんをご馳走になり、移動中の車内でこの後の予定を聞いた。


 私が保護先としてお世話になるのは、士官学校の女子寮になった。

 メリットは、外部から隔離されている上、24時間常に誰か居るのと最低限の戦力が確保されている事。

 デメリットは、士官学校の寮の部屋は、二人部屋なのと、士官学校の生活サイクルに合わせなければならない点だが、私の場合通学の時間の関係でデメリットにはならないらしい。


 そして、これから士官学校に行って、女性隊員に私を紹介してから寮に移動して荷物を置いた後、若桜さんの診察と魔力制御の訓練を行う事になっている。


 その前に、寮での生活で必要な物(洗濯用品や生活雑貨)を購入する為に、お店に寄り道をするのだった。



 士官学校に到着したら、グランドの方に案内された。

 グランドに居た教導官に霜月さんが合図を送ると、女性隊員が集められた。

 女性隊員は、13人いて、全員がきれいに横一列に整列する姿は、精悍せいかんで威圧感があり、ちょっと怖い。


 霜月さんと一緒に整列している女性隊員の前に行く。

 霜月「山奈やまな教導官、時間を取らせて済まない。」


 山奈「いえ、問題ありません。」


 霜月「事情の説明は、行っているか?」


 山奈「いえ、まだ行っていません。」


 霜月「分かった。

 機動戦略隊候補生たる君達には申し訳ないが、追加訓練を課す事になった。

 君達には、護衛訓練と障害排除の訓練を行ってもらう。

 護衛対象は、この子だ。」


 霜月さんは、私を前に出し女性隊員に紹介した。


 霜月「彼女は、『神城かみしろ ゆう』 15歳だ。

 彼女には、今回のクーデーターの余波がある程度収まるまで士官学校の女子寮にて諸君達と共同生活を行ってもらう。

 平日は、公立の中学校に通ってもらう為、接点は少ないだろうが、朝・晩・休日には常に二人以上で護衛を行ってもらう。

 彼女の詳細な情報は、後程のちほど山奈教導官から説明してもらう。

 相部屋になる板倉いたくら候補生には、生活面でも負担を掛けるが諸君達が無事任務を完遂する事を期待する。

 以上だ。」


 私の年齢が出た瞬間に、女性隊員達にどよめきが起こったが直ぐに収まったのは、精鋭部隊の候補生だからであって、霜月さんが怖いのでは無いと思いたい。


「神城 優です。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」

 私がお辞儀をすると、拍手が起こった。

 顔を上げると、女性隊員達の顔が緩んでいるように見えた。


 霜月「訓練中に邪魔をした。後で、交流を深めてくれ。」

 そう言って、私は霜月さんと一緒にグランドを出た。


 女子寮に移動して、寮監りょうかんさんに挨拶する。

 寮監りょうかんさんは、70歳位の優しいそうなお爺さんなのだが、機動戦略隊にも所属経験がある人で、退官後に寮監りょうかんになったそうだ。

 奥さんと一緒に住込みで働いている。

 他にも、通いで寮の運営を手伝う人達もいる。

 全員、対魔庁の退官者で戦闘職経験者という猛者揃い。


 案内された部屋に荷物を置いて私服に着替える。

 霜月さんに訓練所を案内されながら研究棟の診察室を目指す。


 訓練所は、中央にグラウンドがあり、それを囲む様に研修棟(士官学校)、体育館が3つに、屋内射撃場が3つ、室内プールが2つとかなり大きい。

 射撃場に屋外が無いのは、周辺地域への配慮のためだそうだ。


 訓練所に隣接して、研修者用の宿泊施設、教導隊隊舎、研究機関思金おもいかねの研究棟と工廠こうしょうがある。

 研究棟の南側に、対魔庁が運営する病院がある。

 研究棟・教導隊隊舎の西側に、士官学校の男女寮と官舎がある。


 研究棟は、女子寮から見て南東に位置していて、徒歩で10分程掛かった。


 診察室で、若桜さんに診察を受けた。

 経過は順調で怪我の治りも早いそうで、週末にはブラジャーを着けても問題が無いだろうとの事。

 私的には、素直に喜べない。まだ、ブラジャーを着ける事に未だに抵抗感を感じている。


 その事が、顔に出ていたのか

 若桜「ブラジャーを着けるのは、慣れるまで恥ずかしいものね。

 大丈夫よ。直ぐに慣れるから、むしろ着けていな事の方が恥ずかしくなるから。」

 それを聞いて、ますます顔を真赤にするのだった。


 診察の後は、魔力制御の訓練の為、第三体育館に移動する。

 第三体育館は、研究棟からグランドを挟んだ反対側にある。

 グランドを突っ切る事が出来れば早かったのだが、グランドは使用中の為グルっと回る事になり、徒歩で15分は掛かった。

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