第41話 世情は動く(3)

 車に乗り、学校に向かう。

 乗り込む時に挨拶はしたが、移動中の車内は静かだった。

 運転している氷室さんも助手席にいる霜月さんも、周囲を警戒している様子で緊張感が漂う。

 学校に着き、待機室になっている教室に移動しても警戒を解いていない。

 若桜さんが、ポケットよりタブレットと見慣れない機械を取り出して操作している。

 そのまま、5分程して

 若桜「取り敢えず、この教室の安全は確認できたわ。

 弥生ちゃん、悪いけど学校全体の確認お願いね。」


 氷室「了解です。」

 そう言うと、手に持ったカバンを置き、中から黒いモノリスの様な物を取り出して、教室から出ていった。


 霜月さんも、持ってきたカバンから装置を取り出して教室の四隅に設置していた。


 若桜「大丈夫よ。教室の魔防装置まぼうそうちに物理耐性を強化する機器を追加しているだけだから。

 この結界を張っていれば、容易に侵入は出来ないわよ。

 あと、これを持ってて。」


 そう言って、クレジットカード位の大きさのカードを渡された。


 若桜「それは、この結界を通り抜けるために必要な認証キーよ。

 無くさないでね。」


 私が、認証キーを見ていると


 霜月「優ちゃん、保護を受入れてありがとう。

 これで護衛しやすく為る。」


「こちらこそお願いします。

 ところで、物凄く警戒していましたが何あったのですか?」


 霜月「対魔庁うちと公安でクーデター起こしたのは知っているか?」


「ニュースで見ました。」


 霜月「クーデターの正当性を証明するために、各種証拠を公開しているのだが、その中でマスメディア限定で公開した情報に、あの馬鹿神埼 綜一郎の情報も含まれていてね。

 あるテレビ局のレポーターがあの馬鹿神埼 綜一郎の名前を公開してしまったのだ。

 それを皮切りに、限定情報を見た他のメディアのレポーター達による限定情報の内容の暴露大会に発展してしまった。

 そのため、国内外の要人・有名無名を含めた人達の実名と犯罪行為の内容が赤裸々に語られ、国内外で混乱が起こり始めている。

 既に、マスコミと群衆が押しかける事態が発生している場所もある。

 そして、此処にもマスコミが押しかけてくる可能性がある。

 情報の拡散が起こることは想定されていたが、海外メディアを含めて暴露大会に発展し、ここまで急速に拡散したのは想定外だった。


 もし、優ちゃんが危険を感じたら、即ここに避難してくれ。」


「そういえば、その馬鹿神埼は捕まったのですか?」


 霜月「当然、捕縛されたよ。

 今は、公安の特別収容所で厳重に監禁している。

 隠れ家で押収された物が、かなり酷くてな。

 クーデターの正当性を証明するために一役買ってくれているが、ひと悶着もんちゃくで収まらない内容で困っているんだ。

 思金おもいかねの想定より、騒動が長引きそうなんだ。」


「はあ、そうなんですか。神崎は、このあとどうなるんですか?」

 きらっていたが、なんだか哀れに思える。


 霜月「あれは、おそらく死刑になるだろう。」


「え!!」


 霜月「あれは、それだけの罪を重ねている。

 もはや良心の欠片すら残っているのかも怪しい。

 今朝、特別収容所に状況を確認したんだが、相変わらずの尊大な態度と状況を理解しようとしていない。

 今更、心を入れ替えても容易に贖罪しょくざいが出来る状況に無い。

 減刑されても無期懲役は確定だろう。


 正直、これほど罪を重ねていると思っていなかった。」


 若桜「優ちゃん。 貴方が気にする必要は無いのよ。

 これは、自業自得なのだから。」


 どうやら、顔に出ていたようで心配された。


 霜月「この事は、口外しないでくれ。」


「分かりました。」


 霜月「まだ時間が有るから、昨日のおさらいをしよう。」


 30分ほど定常出力訓練をしてから教室に向かった。


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 ○Side:護衛官

 優が教室に向かうのと入れ違いに氷室は、待機所に戻った。

 氷室「只今戻りました。」


 霜月「ご苦労様でした。校内はどうでした。」


 氷室「まだ、マスコミは来ていませんが念のため、警察と地域防衛隊には対応を要請しておきました。

 校内は、平穏そのものですよ。

 ニュースでクーデターを知っていても、実感が沸かない様で目の前に迫るテストの方に意識が行ってますね。

 後は、文化祭が開催できるか心配しているぐらいでしょうか。」


 霜月「クーデターは知っているが、実感が沸かないか。

 学生らしいな。こちらとしては、ありがたい状況だ。

 あとは上層部が、一般市民に影響が出ない内に事態の収束をしてくるれるのを願うだけだな。


 ところで、優ちゃんの保護先はどうするかな。

 出来れば、24時間人が居る場所が良いんだが。」


 氷室「そうなると、研修者用の宿泊施設はダメですね。

 実働可能な部隊は全て出払っていますから。

 後は、士官学校の女子寮位ですね。」


 霜月「戦力的には、多少不安だが悪くない選択だ。」


 氷室「普通なら、過剰戦力なんですが、優ちゃん相手だと仕方ないですね。」


 若桜「士官候補生には悪いけど、訓練の一環として付き合ってもらいましょう。

 それなら、部屋は相部屋の方が良さそうね。

 優ちゃんにも、良い経験になるでしょう。」


 氷室「分かりました。士官校の女子寮を確認します。

 休日には、優ちゃんの護衛を兼ねて、護衛訓練と障害排除の訓練も課せますか。」


 若桜「その監督として、私達が付いていくのね。それはそれで面白そうね。」


 霜月「取り敢えずその方向で話を進めてくれ。

 明日は、優ちゃんの護衛を勤める者を全員集める予定だが、大丈夫か?」


 氷室「そちらは、問題ありません。」

 

 霜月「本部からは、なにか言ってきたか?」


 氷室「いいえ、今は静観するつもりらしいです。」


 霜月「そうか。仕事に入ろう。」

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 教室に入りクラスメイトに挨拶をしながら自分の席に着く。


 三島さんが近づいてきて

 三島「おはよう」


「三島さん。おはようございます。」

 笑顔で返答した。


 三島「なにこれ、可愛すぎるんですけど。」


 口元に手を当て、なにか呟いている。

 周りにも、口元を押さえている人とか机にうつ伏せっている人がいる。

 私、なにかやりました?


 よく分からない沈黙の中に、零士れいじあきらが入ってきた。

「おはよう」

 ほがらかに言ってみた。

 二人は、私を見てその場で固まった。


 数瞬して、再起動した。

 零士・章「「お、おう、おはよう」」

 二人は、錆びついたロボットの様なぎこちない動きで、挨拶を返してきた様子がおかしくて、くすりと笑ったら二人共耳まで真っ赤にして固まってしまった。

 状況が飲み込め無くて、首を傾げたら崩れ落ちる人が出た。

 何故だ。


 よく分からないカオスを打ち破ったのは、担任の山並先生だった。


 山並「ホームルームを始めるぞ。席につけ」

 出欠で、神埼がいなかったのだが誰も何も言わなかった。


 その後のテストは、問題なく解けました。

 間の休み時間は、三島さんを始めとした女性陣に囲まれて過ごしました。

 よく会話が途切れないで続くもんだ。

 質問の答えや意見を途中で求められるが、タジタジしながら答えてたら、もだえている人が居たんですが、どういうことでしょう。



 Side:三島・見石・山田

 優が、女性陣に囲まれてタジタジしている外側


 三島「貴方達、優ちゃんに話しかけないでいいの?」


 章「あの集団の中に飛び込めと?無理だー!」

 頭を両手で抱えてうずくっている。


 零士「俺も、あの中に飛び込む勇気は無いぞ。」


 三島「貴方達、それでいいの?」


 零士「昨日の放課後、護衛官立会であきらと一緒に会ってきた。」


 章「そうそう、昨日会って謝ってきた。優は、許してくれた。」


 三島「それなら良いんだけど。

 今朝話しかけられて固まっていたでしょ。大丈夫なの?」


 章「大丈夫なもんか。美少女と優が結びつかなくて頭がおかしくなるんだ。」


 零士「あれ程の美少女に微笑みかけられて、正気でいられる男が居ると思うのか? 女性陣も相当落とされていただろう。」


 三島「たしかに、あの笑顔は凶器ね。」


 零士「慣れるまでは、まともに会話出来る気がしない。

 というか、慣れる事が出来るのか?」


 章「俺、慣れないと思う。」


 三島「二人共、弱気ね。貴方達、幼馴染みなんでしょ。」


 零士「男の時との落差が激しすぎて同一人物として認識出来ずにいる。

 それに、今の優の前に出ると頭が真っ白になってまともに会話が出来ない。」


 章「それに今の優、俺達の好みのど真ん中なんだから。

 気が付いたら、どうやってアプローチしようか考えている自分がいるんだぞ。

 その事に気づいて、あれは優だと自分に言い聞かせるのを繰り返している。

 頭が、おかしくなりそうだ。」


 三島「重症ね」


 零士「全くだ。自分のことながら情けない限りだ。

 少しずつでも話しかけられるように努力する。


 あと、優の事、認めてくれてありがとう。

 おかけで、アイツが孤立しないで済んだ。」


 三島「どういたしまして。

 今まで、色々と助けてもらったからね。

 今度は、私が助ける番だよ。」

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