第40話 世情は動く(2)

 今日も、朝6時30分に起きて朝のルーチンを済ませからダイニングに向かう。

 父さんが朝食を食べながら、テレビのニュースを見ている。

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 ニュースキャスター「クーデターの続報です。

 クーデター首脳陣は、残存している国会議員と共に暫定政府ざんていせいふ樹立じゅりつ後、早期に事態の収束を図ると声明を出しました。

 また、事態収束後は国会を解散、総選挙を行い新たな政府に行政権を移譲いじょうする事も表明しています。


 しかし、逮捕者は600名を超え、公表された1262団体の内、約700の企業・団体の強制捜査が行われています。また、闇組織から救出された人の数も173名に登っています。

 まだ未発見の場所もあるともくされているため逮捕者、要救助者の数は増加すると思われます。

 事態の収束する目処は、現状立っていません。」

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 ダイニングに着いて、朝食を食べながらニュースを聞いていた。

 舞も起きてきて、朝のルーチンに行った。

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 コメンテーター「今回の事件は、日本の政治の闇を浮き彫りになった事案であり、事件の異常性が伺われます。案部あんべ元総理は、クーデター首謀者の一人である対魔庁長官の岩倉いわくら氏との不仲は、政界では有名な話で、案部あんべ元総理が対魔物対策大臣時代から対立していました。


 私は岩倉いわくら氏と個人的に面識がありまして、彼は実直かつ真面目で正義感の強い人でしたので、案部あんべ元総理の理不尽な要求や政界への忖度そんたくを真正面から反対していました。


 そのため、案部あんべ元総理は腹心の神埼かんざき 雄一ゆういち氏を無理やり対魔物対策庁の事務次官に据えて対魔庁をコントロールしようとしてきました。


 結果的に案部あんべ元総理は、対魔庁の監査部門と対魔物防衛課の一部を支配下に置くことが出来ましたが、対魔庁の主力である対魔物戦術課たいまものせんじゅつか研究機関思金けんきゅうきかんおもいかねは結束して、対魔庁の所属でありながら独立部隊として政府機関から影響を受けない組織へと変貌へんぼうする結果となりました。


 案部あんべ元総理は、総理大臣に就任すると対魔庁への締付けを強化していましたが、この独立部隊を支配下に置くことが目的で行っていたと見られてます。」


 ニュースキャスター「何故、案部あんべ元総理は、対魔庁を支配下に置くことを重要視していたのでしょうか?」


 コメンテーター「それは、対魔物戦術課たいまものせんじゅつか研究機関思金けんきゅうきかんおもいかねが、国内最強戦力と国内最高峰の叡智えいちの集団だからです。


 先日も、Bランクのサラマンダーがショッピングモールに出現する事件がありましたが、それを討伐したのは偶々たまたま非番で訪れていた対魔物戦術課たいまものせんじゅつかの隊員です。

 完全装備の地域防衛隊3個小隊が対応に当たっても、死傷者が出る程の強敵です。それを、たった一人で装備も着けずに討伐出来る程強いのです。


 研究機関思金けんきゅうきかんおもいかねは、北海道での家畜の魔物化を防ぐ予防薬の開発で有ったり、能力者の能力を調べる装置や対魔物戦術課たいまものせんじゅつかの隊員の装備開発を行っています。


 この様に個人で大戦力が成り立つ部隊と莫大な金を生む研究結果を持つ両者を私物化したかったのだと思われます。


 この両者を私物化されていたら、今回の事件は明るみ為ること無く、闇から闇へと葬り去られたでしょう。」


 ニュースキャスター「それを聞くと、クーデターが正しい行動に思えます。」


 コメンテーター「クーデターそのものは、正しい行動では無いと思いますが、今回のように政治の中枢が腐敗ふはいしたうえ、自浄作用じじょうさようが働かない状況におちいった為に止む得えず行われた事は理解できます。」


 ニュースキャスター「早期に事態が収束する事を切に願います。次の話題です。」

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 相当に大事になっている。

 でも、テレビ越しに見ると実感が沸かない。

 まるで遠い国の出来事のように感じる。


 朝食を食べ終わり、ごちそうさまを言った直後に後ろから舞に抱きつかれ、頬と頬をスリスリと擦りつける。

「舞、何をするの?」


 舞「だって、暫く会えなくなるんだよ。今の内のお姉ちゃん成分を補充しておかないと。」


「ちょっと、くすぐったい。やめて」

 お姉ちゃん成分って何なの?


 舞「だって、小さくて、スベスベで、プニプニで、触り心地が最高なんだよ。辞められない。」


 男の頃は仲は悪くないが、家族とは言え異性なのでそれなりの距離感が有ったのだが、同性になってからは距離感がおかしくなってる。

 逃げ出したいのだが素の力では敵わない、腕を体に巻きつける様に拘束されているので上手く逃げれない。


 父さんは、目のやり場に困ってテレビの方を向いてしまった。

 母さんは、微笑ましいものを見る様に見ている。

 誰も助けれくれない。


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 ニュースキャスター「現場より中継が繋がってます。」


 リポーター「こちら、クーデター部隊が用意した東京国際フォーラムの犯罪証拠公開エリアの中の特別ブース前より中継を行っています。

 この特別ブースは、午前5時より事前に登録したマスメディアの記者・レポーター限定で公開されました。

 公開に当たり、特別ブース内の写真・映像・音声の記録は禁止され、各記者・レポーターの言葉で情報を公開して欲しいと説明がありました。

 そのため、写真・映像が無い点をご了承下さい。


 私達は、公開された情報をより正しく伝える為、風刺画家さんと一緒に特別ブースを訪れましたが、正直に申し上げます。

 私、特別ブースに来たことを後悔こうかいしています。

 それほどまでにひどい内容でした。

 人間の闇の部分をまざまざと見せつけられる結果となり、まともにレポートできない事をおびします。

 実際、特別ブースで情報公開を見た他社や海外メディアの取材陣も言葉を無くし祈りを捧げる人もいるほど内容でした。」


 ニュースキャスター「いったい、どの様な内容が公開されていたのですか?」

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 玄関のチャイムが鳴った。

 母さんが一言ひとこと言ってくれたので、舞もようやく私の拘束を解いてくれたので、家族共に玄関に向かう。

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 リポーター「あれは、人の所業しょぎょうではない。

 人の形をした魔物です。

 人を犯し、殺し、らう。

 それを15歳の少年が、泣きじゃくり助けを乞う人々を笑いながら、権力ちからを持つ者の特権だと、権力ちからの無い奴は権力者ちからのあるものの玩具だと声高こえだかに宣言しながら行う姿は、狂気です。

 狂気でも生ぬるい、地獄以上の地獄が収められた映像が公開されていました。


 その映像も押収物の一つです。

 押収された映像は、100万点を超えており、その中でも一般公開出来ない内容が集められていました。

 しかも、まだ未検証の映像がほとんどだという状況です。


 今回、私達が見た映像は押収した機材に残っていた再生ランキングで上位に入っていた内容が公開されており、その一点です。

 当然、その他の映像もこの映像に負けず劣らずおぞましい内容でした。」


 ニュースキャスター「その少年とは、一体何者なにもの何でしょう?」


 レポーター「神埼かんざき 綜一郎そういちろう


 ニュースキャスター「え?」


 レポーター「元対魔庁事務次官 神埼かんざき 雄一ゆういちの孫、神埼かんざき 綜一郎そういちろう

 それが、あの悪魔の名前です。」


 ニュースキャスター「ちょっと、テレビで未成年の名前を公開するのはまずいです。」


 レポーター「関係ない。あの悪魔は、二度と社会に出して行けない。

 それに、この特別ブースでの情報は、直接公開がはばかれる内容というだけで、内容の一般公開に制限は設けないと公言されています。

 私は、此処に来るまでクーデターに賛同出来なかたのですが、この特別ブースの映像を見た後は、クーデターに強く賛同します。

『ニュースキャスター「画面をスタジオに戻して。」』

 あの悪魔を含めた、関係者全員死刑にするべきです。

 私は、そう強く感じています。」


 ニュースキャスター「急いで。


 ゴホン!

 視聴者の皆様、大変お見苦しい状況が発生して申し訳ありません。」

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 テレビがなにやら騒々しいが、玄関に居るから分からない。

 迎えに来た氷室さんに、保護施設での一時保護に応じる旨を伝え、荷物の一部を持って貰って、家族に見送られながら家を出た。

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