第46話 世情に巻き込まれて(1)

 朝、5時20分に起こされた。

 一応目覚ましも設定していたが、起きれなかった。

 寝ぼけ眼で部屋の前行わる点呼に参加した。


 朝のルーティンを熟して、何人かの女性隊員と一緒にシャワーを浴びに行く。

 熱いシャワーを浴びたことで、ようやく目が覚めた。

 手早く体を拭き、着替える。

 洗い物とお風呂道具を部屋に置くと食堂に向かう。

 大急ぎで、朝食を食べる。

 男の頃の様にご飯を掻き込みたいのだが、上手くいかずたり、喉に詰まったりして、余計な時間が掛かるのでやらない。

 朝ごはんを食べ終わった時点で、6時27分だったのでそのまま玄関に向かう。

 明日からは、もっと早くモーニング・ルーティンを終わらせようと心に誓った。


 玄関に着くと既に霜月さんが待っていた。


「おはようございます」


「おはよう、優ちゃん。

 よく寝坊しなかったね」

 と霜月さんに言われたので

「板倉さんに起こしてもらいました」

 と答えた。


「そうか、自分で起きられるように頑張らないとな。

 朝は、昨日の続きを行うから第三体育館に移動するぞ」

 と言うと、私を誘導する様に玄関から表に出た。


 途中、何人かの男性隊員の人とすれ違ったが、何事もなく第三体育館に到着、昨日と同じ部屋を確保した。


 小ホールに入ると、まず最初にストレッチを行い、それから昨日の復習で4段階出力を昇順・降順・ランダムを繰り返した。

 8時頃に、休憩になり今朝の評価を貰った。

 画面に表示される成績スコアは、昨日と大差なかった。

 霜月さんには、出力の切り替えは大分スムーズになってきているが、切り替え直後のオーバーシュートが大きいのと、出力の振れ幅がまだまだ大きく収束までに時間が掛かり過ぎと評価された。


 休憩後は、A1出力訓練を行う事になった。

 A1の意味が分からなかったので尋ねると


「A1は、能力ランクの表記方法の一つだな。

 同じランクの能力でも上位者と下位者では、能力に大きな差がでる。

 それを表すためのものだ。

 先頭のアルファベットが等級ランクを表し、それに続く数字が補助等級を表している。

 例えば、Fランクの魔力の場合、魔力量が1,000でF1になる。

 2,000ならF2

 3,000ならF3

 という具合に増えていく。

 能力アビリティの場合も表記内容は同じだが、評価方法が違う。

 能力アビリティで扱える魔力量を表している。

 例えば、能力アビリティがF1の放出系だとすると、その能力アビリティで扱える魔力はF1相当量までしか扱えない。

 しかし、それ以上の魔力をめる事も可能で、一時的に威力を上げることも可能だが、扱いきれない分の魔力は直ぐに霧散むさんしてしまうか、発現した能力アビリティ自体が不安定になっているので暴発する事がある。

 これは、具現化系でも同じだが身体強化系は注意が必要だ。

 身体強化系の場合、魔力が霧散するのではなく肉体にダメージを負ってしまう。

 反動損傷フィードバック・ダメージが起こるので注意が必要だ。

 

 ちなみに、能力を計測する機械は、被験者の魔力を元に魔力量と能力アビリティ診断を行っている。

 たしか、基礎魔力代謝から魔力量を算出して、魔力波長を分析することで能力アビリティを選出してだったかな。

 能力アビリティ等級ランクは、その能力アビリティの魔力強度から算出しているらしい。

 この辺は、専門でないので説明出来ないが、そうやって判断していたはずだ。

 人が判定する場合は、鑑定の能力アビリティで見て判断している。

 この能力アビリティで見ると、潜在能力値を見てしまうらしいので、機械と多少ズレが生じるらしい」


「へぇー、そうなんだ」

 なんか、ちょっと引っかかる。


「どうした、変な顔をして?

 なにか気にあることでもあったか?」


「うーん、なんか引っかかるんです。

 なんだったかな?

 ・・・

 ・・

 ・

 そうだ、神埼だ。

 彼奴あいつが、若桜さんに向かって放った火球ファイヤーボール火矢ファイヤーアローが、放つ前から魔力が霧散していたんだ。

 でも、なんで?」


 霜月さんは、ため息をついてから

「神埼の魔力量は、B1だった。

 今年の検査データでは、魔力量D2、能力アビリティD2で、収監後の測定では魔力量B1、能力アビリティD2に変動していた。

 若桜に追い詰められたから、過剰に魔力を注ぎ込んだだろうが制御出来ずに霧散させていたんだろう。

 彼奴の魔力量が増大したのは、これまでの検査データを偽装していたか、我々の知らない魔力増強法でも使ったのかもしれない。

 それは、これからの調査に期待するしかないな。


 まあ、この件は終わりだ。

 続きの訓練を始めるぞ。

 ディスプレイに表示されている値が、100Mに成るように出力調整をはじめ」

 と言われ、魔力制御を始める。


 1時間程、訓練をしたが結果は散々だった。

 0~300MMPの間を忙しく上下して全然収束出来なかった。

 ディスプレイに表示される魔力出力のグラフも激しく暴れている。


 霜月さんは

「初めの内はこんなもんだ」

 と笑っていた。


 この後、私を護衛してくれる人達を紹介してくれる事になっているので、それに合わせて休憩している。

 流石に、霜月さん達3人だけで半年もの間護衛に付く事は出来ないから、3人1組の3班体勢になるそうだ。

 予定時間は、9時30分からなのだが45分の今になってもまだ来ていない。

 霜月さんも流石に遅いと、ボヤいていた。

 そのまま待っていると扉が開き、対魔庁の礼装を纏った壮年の男性と大勢の人が入ってきた。


 霜月さんが、一瞬戦闘態勢を取ったけど、直ぐに解除した。


 私の前に、壮年の男性が立ち、その直ぐ後ろに背広を着た男女が左右に並び、その後ろに2列横並びで残りの人が並んだ。

 後ろの方に並んだ人の中に、知った顔が何人も並んでいる。


「君が、神城 優君だね。はじめまして。

 私は、対魔物対策庁長官の岩倉いわくら 勘助かんすけだ。」

 厳つい顔だが、できるだけ優しい声と表情で話しかけてきた。


 私がびっくりして固まっていると、霜月さんが軽く背中を叩いてくれた。

「は、はじめまして。

 神城 優です」

 と言うと、お辞儀をした。


「そう、緊張しなくてもよい。

 今回は、私が無理を言って君に会いに来たのだから、もっと楽にしていい」

 と言われたが、正直、偉い人にそんな事を言われてもどうしたら良いか分からない。


 岩倉長官は苦笑いをした後、真面目な顔になって

「正直、ここで話す内容では無いのだが、神城 優君にお願いが有ってここに来た。

 君に対魔物対策庁に入庁して欲しい」

 そう言うと、腰を90度に折る様に頭を下げた。


 どうして良いか分からずオロオロしてしまい、周りを見渡した。

 周りの人達も全員驚いていた。


 我に返った霜月さんが長官に声を掛けた。

「長官、頭を上げてください。

 優ちゃんを始めとして全員が驚愕きょうがくして状況が飲み込めません」


 長官は、頭を上げて

「そうだな、いでいたな。すまない」

 と言うと霜月さんが

「このに変わり発言する事をお許しください。

 事前の整合では、保護管理下に置きつつ協力体制を整える手筈になっていたのに、急に長官自ら入庁して欲しいと言う事態ですか?」

 と語気を強めて言うと、背広を着た男性が険しい顔でなにか言おうとするのを長官が手で静止した。


「君の言う通りだ。

 資料でその事は知っていたが状況が変わった。

 我々が起こしたクーデターに対して関係各国に理解と協力を得るために、前政権の闇を公開した訳だが、これを機会チャンスとして侵略を行おうとする国がいる。


 その国は、早ければ来週にも戦端を開く可能性が高くなった。

 それを抑えるに、理解のある国々との協力体制を築くのに必要な時間が足りないのが現状だ。

 そこで、我々クーデーター政権に協力するSランク能力者が居る事を公開することで、時間稼ぎと牽制を行う必要に迫られた。

 他国のSランク能力者に協力依頼は、以前からおこなっているがかんばしくない。

 そんな中、新たなSランク能力者になった者が表れた。

 それが、神城 優君。きみだ。

 君を国の守護者に据える事で、強力な牽制けんせいを行おうとしている。


 本来なら、我々大人が守らなければならない年齢の子供に国の守護者に据える事自体却下するべき案件なのだが、我々には他の手段が残されていない。


 改めて、お願いする。

 国のために、入庁して欲しい」

 そう言うと、再び頭を下げた。


 霜月さんは

「長官、頭を上げてください。

 少し、この娘と話しをさせてください」

 と言うと、屈んで私の目線に合わせた。

 背広を着た二人がなにか言いたそうな顔をしているが、長官が手で制している。


「優ちゃん。話の内容は理解できた?」


「えーと、今の日本に対して侵略を行おうとする国がいて、牽制するための手段が現状無いって事と、私が政府に協力する事でその国に対して牽制になるって事ですか?」


「概ね合ってる。

 ただ、それだけなら入庁する必要は無い。

 入庁して欲しいと依頼しているのは、戦争になった時に戦場に出ろと言っているのだ」

 と落ち着いた声だが、強い声だった。


 背広を着た女性が

「我々にそんなつもりは無い」

 と語気を荒々しく叫んだ。


「黙れ、背広組。

 そうやって言いつくろっても、現実は違う。

 戦闘系能力者で、国家所属と言う事は非常時に最前線に立てと言っているのと同意義だ。

 それを口先三寸で誤魔化すというのは、我々戦闘系能力者を侮辱する行為だと理解できないのか。

 ましてや、本来保護すべき対象に戦場に立つ覚悟をしろと言っているのに綺麗事並べて誤魔化すつもりか」

 と殺気を飛ばしながら、怒鳴り返す。


「そんなつもりは無い。

 時間さえ稼げれば、協力体制を築ければ戦争なんて起こるはずがない」

 と女性は、言葉尻を小さくしながらも反論する。


「それが、綺麗事なんだよ。

 それに、随分ずいぶんと甘い考えだ。

 現時点で、来週にも戦端が開く可能性がある状況でそんな悠長な事を言える事自体が大甘だ。

 長官が言っただろ、彼女に国の守護者になって貰うと。

 国の守護者。

 すなわち戦場に立てと言ったのだ。


 そんな事も理解出来ない無能の言葉なんて信じられるか」

 霜月さんもかなりキレてる。


 更に言い繕うとする背広女性を長官が抑えた。

「黙りなさい。彼女の言葉が正しい。

 我々は、子供に戦場に立って欲しいと依頼しているのだ。 

 戦争が起こらないように最善を尽くす事を約束する。

 国の為に入庁して欲しい。

 お願いします」

 そう言って、三度頭を下げた。


「私が、入庁する事で戦争を回避できる可能性があるんですよね?」


「ああ、その通りだ。

 それだけSランク能力者の影響力は強い」


「分かりました。

 入庁します」


 私の答えを聞いて済まなそうにしている長官と、人を見下した顔の背広男性と、ホッとした顔の背広女性、そしてその後ろに控える人達は、苦虫を噛み潰した顔をしていた。

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