第277話 1年次夏期集中訓練 3日目(11)
私は、眉をひそめ
「十分頼っているつもりです」
と答えると
「全然足らない」
と強く言われた。
そして、戸神さんは美智子さん達を一瞥した後
「貴女は、彼女達との間にまだ一線を引いているでしょう」
と言う。
私は、自分の顔が険しくなるのを自覚する。
「以前の貴女からは想像出来ない程心を開いている様ですが、私から見れば、まだ一線を引いているのが見て取れます」
と強く言われた。
「そのつもりは有りません。
それが今の状況と関係ない事ではないですか」
と強く反発すると
「いいえ。関係あります」
と強く返された。
私が目を見開くと
「魔力の状態は、本人の心理状態にも影響を受けます。
今の貴女の心理状態が、魔力の形成不安定に繋がっています」
と強く言い切られた。
「私のどこが不安定な心理状態なんですか」
と強く言い返すと
「今日、彼女達と些細な喧嘩をしたでしょう」
と静かに言う。
「喧嘩と言うより些細な口論です」
と返すと
「大した差はありません」
と返された。
「私の心理状態が不安定な事と何の関係性があるというのですか?」
と問うと
「そうやって、意固地になっている時点で気づいているのではないですか?」
と逆に問われた。
私が答えず、戸神さんを睨むにながら沈黙を保つ。
「都合が悪くなると黙るのは、変わっていませんね。
自分を保つ為、また人を避けるつもりですか?」
と言われ、思わず魔力が溢れ、周囲に魔力風を巻き起こす。
不意に後ろから包む様に腕を回され、耳元で
「もう。相変わらず泣き虫なんだから」
と囁かれた。
思わず
「泣いてなんかいない」
と反論するが、頭に手を置かれ
「虚勢を張らなくていい。
優ちゃんが豆腐メンタルなのはよく理解している」
と優しい声で言言われた。
「その通りね。
私達に隠しても無駄よ。
お友達に嫌われたのではと、動揺していたのでしょう」
と耳元で若桜さんに言われ、思わず動きを止めてしまう。
「図星だな」
と言って、頭を撫でながら霜月さんが笑う。
私は、思わず俯いてしまった。
顔が熱いので、真っ赤になっていると思う。
「えーと。どういう事でしょうか?」
と美智子さんが聞くと、霜月さんは
「以前も話した事があったと思うが、この娘は人見知りなんだ」
と言うと、千明さんが思い出しながら
「そう言えば、前にそんな事言ってましたね」
と返す。
「ここに来てしばらくしたら、情緒不安定になってね。
その頃は、幼馴染達との関係が上手くいかなくって悩んでいたのよ。
そして、急に吹っ切れたと思ったら、感情を切り捨てていたのよ」
とため息混じりに若桜さんが言った。
「感情を切り捨てた?」
と都さんが聞くと
「理性で感情を殺したのよ」
若桜さんが答えた。
「ど、どういう事?」
と都さんが聞く。
若桜さんは、大きなため息をついてから
「悩んでいた
そして、表面上は何も変わっていない様に見えるフリをしていた。
だから、私達も直ぐに気付けなかった程よ」
と言った。
「え!そんな事可能なんですか?」
と郁代さんが大きな声を上げた。
「可能よ。
と若桜さんは、短く返す。
「能力発露時のゴタゴタで不安定になっていた所に、交友関係に不和が生じた事で、すっかり豆腐メンタルと化してな。
自己防衛の為に、殻に閉じ籠もってしまった様だ」
と霜月さんが続けた。
「その殻に亀裂が入ったみたいだから、この際、一気に割っておきたいのよ」
と若桜さんが言った。
「どうしてですか?」
と美智子さんが聞く。
「このまま放っておいたら、感情そのものを放棄しそうだからね」
と若桜さんが答えると
『え?』
と美智子さん達が声を上げる。
「戦闘を行う人間としては、常に理知的に状況を判断するのは重要だ。
特に戦闘中が特にな。
でも優ちゃんは、日頃から感情を抑えすぎだ。
それに優ちゃんは、完璧主義志向が強い。
だから余計に感情を殺して、何事も完璧に熟そうとしすぎている。
そのせいで、かなり感情が抜け落ちている。
このままだと感情が無くなりそうだと思う程にな」
と霜月さんが言う。
霜月さんや若桜さんが言う程、感情を捨てているつもりは無いんだけどな。
「この様子だと無自覚ね。
自分の感情を抑えている事すら自覚出来てないわ」
と若桜さんが言う。
「若桜の言う通りだな。
反応がどんどん事務的になっている事にも気づいていないな」
霜月さんは、私の頭をグリグリと撫でながら言った。
「ココに来た頃なんて、喜怒哀楽がハッキリ出てて、可愛かったのに」
と若桜さんが口を尖らせながら言う。
霜月さんは、美智子さん達の方を向き
「君達は、優ちゃんが笑っている所を見た事はあるのか?」
と言うと、美智子さんが
「微笑んでいるのは何度か見た事ありますが、笑っている所は見た事はありません」
と答えると、他の3人は頷いている。
「じゃあ、怒っている所や悲しんでいる所は?」
と霜月さんが更に聞くと、4人は首を横に振っている。
「そうだろう。
それは、優ちゃんが感情を極端に制御しているせいだ。
だがそれでも、訓練校に入校前より表情が豊かになった。
これは、君達のおかげだ。
これからも優ちゃんを振り回して、殻からから引っ張り出してくれ」
と言って笑っている。
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