第253話 1年次夏期集中訓練 2日目(2)

 第二プールに着くと、更衣室で水着に着替え、プールサイドに行く。

 プールサイドには、見崎けんざき みつる教導官と梅原うめはら聖見きよみ教導官が待っていた。

 二人共、東海支局所属の教導官で、水中戦を教えている教導官だ。


 朝一で第二プールの使用許可を申請した時に、是非一緒にと言う事で参加する事になった。

 二人の弁だと、どうやら照山さんは、水中戦のエキスパートらしい。

 その二人の格好だが、水着の上にウェットスーツを着ている。

 今は、上半身のウェットスーツを脱いだ状態だ。



 まず最初に習ったのは、水中呼吸法だ。

 水中呼吸法に必要な技能スキルは、水中から酸素を取得する水分解技能スキルと、呼気中の二酸化炭素から炭素を分離する脱炭素技能スキルと、目や口や鼻を水から守りつつ、空気を逃さない面帯マスク技能スキルの3種類あるそうだ。


 これらの技能スキルは、水中戦の必須技能スキルのだが、主な使用用途は非常時対応の為だ。

 通常は、ダイビング装備を用いる。

 水中呼吸法だけで活動するのは、訓練の時か一部例外の人達だけだそうだ。


 陸上で、水に顔を着けずに各個の技能スキルの習得訓練を始めて1時間。

 それぞれの技能スキルは習得出来た。

 それらを連携させる事も出来た。

 問題は、水に顔を着けた状態で水中呼吸法を実行するだった。

 プールサイドに洗面器を置き、顔を洗面器の水に着けると、無意識に息を止めてしまい、水中呼吸法に移行できなかった。


 経験者達は

「水中呼吸法の切っ掛けを掴むのが一番難しい」

 と言っていた。

 更に時間を掛けて、水に慣れ、水中呼吸法を使える様に行う。

 1時間程時間を掛けて、なんとか5分程維持出来る様になった。


 照山さんに

「次は、身体を水に着けた状態でやってみよう」

 と言われ、プールに入る。

 プールには上がる為の梯子があるので、その梯子に掴まりながら肩まで浸かる。

 その状態で顔を水に着け、水中呼吸法を行う。


 水中呼吸法を行使する事は出来たが地上の半分程度の時間だった。

 身体が水に浸かっているだけで、地上と同じ感覚では行えず、戸惑いを隠せない。


「違和感を感じていると思う。

 それは、身体に水圧が掛かる事による違和感だ。

 まずは、それに慣れよう」

 と言う事で、プールの浅い所で、水中呼吸法を繰り返す。


 照山さんと教導官達は、私の側で待機している。

 この訓練で一番怖いのは、いきなり意識を失う事だ。

 制御ミスで、水を飲んで溺れたり、酸素濃度を間違える事が多々ある。

 だから、この訓練時は、1人に付き2人以上が補助に着く必要がある。

 それなりに危険度が高い訓練なのだ。


 訓練の成果は、直ぐにとはいかなかったが、徐々に時間が伸びた。

 午前中は、全身を水に着けた状態で20分維持出来るまでに成長した。


 ちなみに普通は、訓練開始から3ヶ月は掛かると言われた。

 出来ちゃったものは、仕方がない。


 訓練着に着替えてから、第二射撃場に行く。

 第二射撃場では、武井さんが美智子さんと都さんを指導していて、水玉と火玉を的に向かって撃っている。

 水玉と火玉は、ビー玉位の大きさだ。

 的までは10mと短いが、やっと的に届く位の威力しか無い。


 一方、郁代さんと千明さんは、まだ属性の発露が起こっていない。

 その為、発露し易い属性を、技能スキルで再現する練習をしている。

 戸神さんが千明さんを指導し、伊島さんが郁代さんを指導している。


 戸田さんと伊島さんが魔力誘導を行い、それに沿って千明さんと郁代さんが魔力を動かして、技能スキルを発動させている。


 私達が入ってきた事に気づいた様で、全員手を止めた。


「おや、もうお昼ですね。午前中は、ここまでにしましょう」

 と戸神さんが言ったので、一気に休憩モードになった。


 私が

「休憩に入る前に、1つ試したい事があるのですが、良いでしょうか?」

 と言うと、戸神さんは少し考えた後

「どうぞ」

 と言ってくれた。


 射撃位置に近寄り、側に居た美智子さんを見て

「まず、美智子さんからしましょうか」

 と言うと

「え?私?」

 と驚いた様子だった。


「射撃位置に立って、的を狙って構えてください」

 と指示を出す。


 美智子さんは、右腕を真っ直ぐ伸ばし、手の平的に向ける。


 美智子さんの横に立ち、構えた美智子さんの右手首を下から手の平を当てる様にして軽く握り、反対の手を丹田の位置(魔力塊マナ・コア)の位置に当てる。

「頭を空っぽにして、的をしっかり狙ってください」

 と指示を出す。

「あ、はい」

 と答えた後、右腕を動かして修正する。


「いきますよ」

 と声を掛けると、緊張が走った。


 美智子さんと波長に同調させ、威力を調整した魔力を、左手から右手に向かって、美智子さんの体内の魔力経路を通して送る。

 美智子さんの手から、ソフトボール大の火球ファイヤーボールが撃ち出された。

 火球ファイヤーボールは、的に当たり、盛大に炎を撒き散らした。


 全員が呆然としている。

 美智子さんに添えていた手を離し

「美智子さん」

 と声を掛けると、上ずった声で

「はっいー」

 と返ってきた。


「今の感じで、自分で撃ってみてください」

 と指示を出す。


「は、はい」

 と返事をして

「確か、こんな感じだったはず」

 と言いながら撃つと、ピンポン玉位の火玉が的に向かって飛び、的に当たって砕けた。

「え?」

 と驚き自分の手を見る美智子さんに

「何度も撃ってみてください」

 と指示をすると

「はい」

 と返事の後、3発の火玉を撃った。

「次、水」

 と指示をする。

 火玉が水玉に変わり、的に当たって砕け、周囲に水を撒き散らす。

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