第180話 ゴールデンウィーク(8)

 パフェと格闘する事40分、ようやく食べきる事が出来たが、お腹いっぱいだ。

 背もたれに背を預け休息を取る。

 これなら、プチデザートで良かったかも知れない。


 周りを見ればケーキ食べ放題を選んだ人達は、食べるペースは落ちているが、まだ食欲は落ちていない様だ。


 平田さんと恵ちゃんは、私より早く食べ終わっており、お腹が一杯になった恵ちゃんは平田さんに寄りかかって寝ている。


 久喜さんは、ケーキを食べ終わってコーヒーをゆっくりと飲んでいる。

 ふと目が合うと、目尻を緩めて

「神城さんに取って、そのパフェは強敵でしたね」

 と言われた。


「ええ、かなりの強敵でした。

 かなり、お腹が重いです」

 と言って、お腹を擦った。


 久喜さんは、静かに笑っている。

「それにしても、皆さん食べますね」

 と私が疑問を呈すると

「あれ程の規模の戦闘をした後だ。

 魔力も体力もかなり使ったから、相当腹が減ったと思うんだが、神城さんは何ともなさそうだな」

 と久喜さんから逆に質問された。


「ええ、私は何ともありません。普段通りですね」

 と答えると

「俺でもこれだけ動いた後は、相当腹が減るのに凄いな」

 とため息混じりに言われた後

「ところで神城さんは、こういう激しく魔力と体力を消費した後、普段以上に食べるって事は無いのか?」

 と聞かれたので

能力アビリティが発露してからはありませんし、以前と比べられない程少食になりました」

 と答えた。

 実際、男の頃の1/3も食べられなくなっている。


 何やら少し考えた後、小さく首を横に振って小声で

「そんな馬鹿な事ないな」

 と呟いた。


 私は、何に気になったのか気になったので

「何を思いついたのですか?」

 と尋ねると

「いや、大した事では無い。

 ちょっと変な事を思いついただけだ」

 と言って私を見たので

「恐らく、私に関する事ですよね。是非とも教えてください」

 と言うと、何処か観念した様に

「本当に大した事で無いから、怒らないでくれよ」

 と念を押されたので

「大丈夫ですよ。よっぽど変な事で無ければ怒りませんよ」

 と答えた後、暫く迷った様子が見れたが

「いや、神城さんが少食なのって、魔力調律状態を常に維持しているからではないかと思っただけだ」

 と言った。


「どうしてそう思ったのか聞いても良いですか?」

 と尋ねると

「ほら、戦闘中とかで魔力を大量に活性化させていると、魔力を維持出来てる間なら何時間でも戦えるけど、戦闘が終わって魔力の活性度が落ちると強烈に腹が空くから、魔力を消費した反動だと思っていたんだ。

 それで、常に魔力調律状態を維持している事は、常に魔力を活性化している状態と同じでは無いのかなと思ったんだ」


「なるほど、そんな事考えた事ありませんでした」


「それに常に魔力調律状態って事は、体の状態も活性化されている事なんだろう?」


「ええ、その通りです」


「それって、身体も低燃費って事だよな」


「確かに、そうかも知れません」


「そうすると、神城さんの身体もあまりエネルギーを消費していないって事になるよな」


「ええ」


「だから、必要な食事量も減っているのではないかな」


「確かに、その通りかも知れません」


「それと、身体に負荷があまり掛からないから、筋肉が着かないのでは無いかな?」


「え?」


「これは完全な思いつきなんだが、相当な訓練している神城さんに筋肉が着かないのは体質ではなく、魔力調律状態によって最適化された身体は、他の人より負荷が小さくなっているのでは無いのかな?」


 筋肉が着かないのは、もう体質だと思っていたが

「それは…。可能性がありますね。

 負荷が掛からないからでは無く、超回復が起こっていない可能性もあるのか。

 これは、ちょっと相談してみます」


「相談?」


「ええ。思金おもいかねなら何か知っているかも知れません。

 今度問い合わせて見ます」


 久喜さんは驚いた様で

「こんな下らない思いつきの事なのにか?」


「そんな事は有りません。

『意外と素人の直感と言うのは馬鹿にならない』

 と言うのが、三上さんからの教えです」

 と答えると

思金おもいかねの三上主任が、そんな事言っているのか」

 と驚いていた。


「ええ、

『素人は、理論や理屈を知らないが、違和感には気づくものだ。

 だから、素人の直感を無闇に見下さない事だ。

 我々が見落としている何かを感じている可能性をいつも頭の片隅に置いて置くこと』と言っています。


 それにもしかすると、私の身体の成長が遅いのは、その影響の可能性もあります。

 だから、私も身体が大きく成れる可能性もあるかもと思いました。

 もう、成長期も終わりが近いから、少しでも大きくなりたいですし」

 と答えると

「確かにその身体のサイズだと、これから苦労しそうだもんな」

 としみじみと言われた。


 聞き方によってはセクハラに当たるだろうが、久喜さん本人が本心から心配しているのが分かるので、特に思う事は無い。


 まあ、そんな話しをしている内に、食べ放題の時間が終わった。

 なので、周りは最後のケーキを名残惜しそうに食べている。


 と言うか、一体幾つのケーキを食べたの?

 飲み放題のジュースも、結構飲んだよね?


 全員が食事終え、一息着いた処でお店を後にした。


 当面、食べたケーキの個数摂取カロリーは、話題にしない方が良さそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る