第179話 ゴールデンウィーク(7)

 マイクロバスの中で笑っていないのは、寝ている5人と平田さんと私だけだった。


「もう、神城さんったらサイコー」

 と椅子を叩きながら爆笑を続ける高月さん。


「流石にそれを言われたら強行突入出来ないわね」

 由寿さんも愉快そうに笑いなが言った。


 本当に嫌われているんだな。


 そんな中、久喜さんから

「おーい、そろそろ休憩するぞ」

 と宣言した後、レストランの駐車場にマイクロバスを止めた。

 時間は、15時30分のおやつ時だ。


 由寿さんが寝ている5人を起こしてマイクロバスから降りた。

 少し寝ぼけた感じの田中さん達が降りたので、続いて私も降りる。


 レストランの名称は、不◯家?

 あのお菓子メーカーのレストラン?


 お店に入ると、ほっぺに舌を出している女の子の人形がお出迎えされた。

 カウンターでは、ケーキ類を売っている。

 私達が入店したタイミングが良かった様で、大して待つ事無くお店の奥のテーブル席に案内された。


 席には、3グループに別れて席に着いた。

 護衛役の4人で1席、久喜さん夫婦と高月さんと私で1席、平田さんと田中さん達4人と恵ちゃんの6人で1席だ。


 恵みちゃんは、鳥栖さんと土田さんと手を繋いでいて、席分けの際に平田さんの隣が良いと言い始めたので、私と平田さんが入れ替わる事にしたのだ。

 なので、恵ちゃんの左右に平田さんと鳥栖さんが座り、土田さんは恵ちゃんの向かい側に座った。


 実際のところは分からないが、恵ちゃんが周囲を振り回す様子を見る限り、先程の戦闘の影響は無い様に見えるし、田中さん達4人も落ち着いている様に見える。


 席に着きメニューを見ると、普通のレストランと変わらない。

 デザートメニューも充実している。


「神城さんは、何を頼むか決めた?」

 私の横に座った高月さんが尋ねてきた。


「いえ、まだです。

 何がオススメとかありますか?」


「そうね、神城さんは少食だから、こっちのパフェかホットケーキなんかどうかな?

 多いなら、プチデザートでも良いと思うわ」


「そうですね。

 夕食時間を少し遅くすれば、普通に食べれそうです」

 そう返した後、もう一度メニューを眺めて、今まで一度も食べた事が無いパフェを頼んで見る事にする。

 というか男の頃から甘い物をあまり食べないので、お店で食べる事は滅多に無かった。

 たまに食べる時も、章や零士に連れられて、コ◯ダ珈琲店でミニシロ◯ワールを食べた位だった。

 章と零士は甘い物が好きで、ケーキなんかも良く買っていたな。


 私は頼むメニューを決めた事を告げると、久喜さんが店員を呼んだ。

 他のテーブルは、既にオーダーを済ませている。


 久喜さんは、ケーキ2個セット

 恵ちゃんが、プリン・ア・ラ・モード

 平田さんが、チョコレート&バナナ、ナッツのホットケーキ

 そして他の女性陣は、ケーキ食べ放題を選択した。


 ケーキや飲み放題のドリンクを注文した人達が、慌ただしくテーブルを行き交う。

 私と恵ちゃんの品物が届く頃には、ケーキを頼んだ女性陣は3個目を食べている。

 平田さんのホットケーキが届く頃には、早い人は5個目に突入している。


 そして、意外な程、平田さんが恵ちゃんの面倒を見ている。

 しかも、薄っすらと笑みを浮かべている。


 あの笑みは、完全に無意識だろうな。


 私が平田さん達のテーブルを見ている事に気づいた久喜さんが

「ん、向こうのテーブルに何かかったか?」

 と尋ねられたので

「平田さんが、随分と甲斐甲斐しく恵ちゃんの世話を焼いているなーと思って」

 と答えると

「ああ、なんやかんやで平田には、恵が生まれた頃から面倒を見て貰っていたからな」

 と、久喜さんが感慨深そうに言うと

「ホント、良い変化をしてくれたわ」

 といつの間にかに戻って来た由寿さんが、しみじみと言った。


「大隊長に南ちゃんの面倒を見て欲しいと言われて会った時は、本当にどうなる事になるかと思ったわよ。

 なにせ、自身が強くなる事と戦場で死ぬ事以外、全てに無頓着だなんて思ってもみなかったもの。

 初めて南ちゃんの部屋に入ったときなんて、隊支給のエネルギーバーのダンボール1箱と毛布1枚と洗濯機と乱雑に干された下着と制服・作業服位しか無かったのよ。


 食事は隊支給のエネルギーバーのみで、毛布に包まって床に寝ていたそうよ。


 私も恵を妊娠してから、あまり面倒を見れなくなった後は、彩芽ちゃんが根気良く面倒を見てくれたおかげね」

 そう言って、向かいの席に座っている高月さんを見ている。


 高月さんは、何処か照れくさそうに

「私はあんまり面倒を見てませんよ。

 ただ、南を振り回しただけです」

 と答えた。


 由寿さんは、穏やかに微笑みながら

「そういう事にしておきましょう」

 と答えていたが、手元のケーキはもう残り少ない。

 いつの間にかに消えるケーキ。

 一体、何個食べるつもりなんだろう?


 私なんて、まだ1/3も食べ終わっていないのに。

 そう思っている間に、またおかわりに行ってしまった。

 周りを確認すると、久喜さんが1個目を食べ終えてコーヒーを飲んでいる。

 平田さんと恵ちゃんは、半分位食べ進めている。


 高月さんが、追加情報を付け加える。

「南の好き嫌いが、分かってきたのは最近なんだよね。

 なにせ南は極端に自己欲求が低いから、好きな食べ物がホットケーキだって分かるまでに数年掛かった位よ。

 ちなみに嫌いな食べ物は、納豆ね。

 臭いがきつい物や、ねばっとした物全般を苦手にしているわ。

 ただ、出された物は、何も言わず表情も変えず全て食べているわね。

 だから、判断に出来る様になるまで時間が掛かったのよ。


 相変わらずあいが強くて、らくが物凄く弱いの。

 しかも、南のあいは、自分自身に向いているみたいなんだ。

 だから、南自身が自分を許す事が出来ない限り、暴走は治らないと思うの。

 ただ、以前より他者に向ける意識が増えたから、この傾向が続けば改善すると思っているよ」

 何処か祈る様な感じがした。

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