第178話 ゴールデンウィーク(6)

「それなら、次の合同訓練に神代さんも参加して出来るかどうか、大隊長に確認してみましょう。

 防衛課の合同訓練参加者全員と神城さん1人の模擬戦なら30秒位保つと思うわ」

 由寿さんは、しれっと私も参加する方向で話を進めようとしている。


「30秒?10秒も保つかどうか怪しわよ。

 うちの班長や副班長の様に機動戦略隊の上位者がいくらしごいても、アイツラは、『格が違うから仕方ない』で流してしまうからね

 神城さん相手に手も足も出ない状況になれば、少しは堪えるかしら」

 高月さんも辛口の評価を下している。


「だったら、堪えるまで徹底的に叩けば良いんじゃあ無いですか。

 例えば、1本取るまで模擬戦を終了しないとか」

 と石破さんが言えば


 石川さんが

「それだと、いつまで経っても終わらないわよ。

 だから、制限時間を決めて行わないと無理だよ」

 と別案と提案する


「そうなると、制限時間と1本取るかの設定にして置くのが無難かな?」

 石原さんが折衷案を纏める。


「でも、制限時間があると、途中から防御に徹して時間切れを狙ってくるわよ」

 石巻さんが欠点を指摘する。


「こういうのはどうかな。

 短めの制限時間を設定して、時間切れ間際になったら戦闘態度を叱責して時間延長をするっていうの。

 それで、きちんと最後まで戦う姿勢になるまで延々と時間延長を繰り返すの。

 もしくは、心が完全に折れるまで続けるって言うのはどうかしら」


 由寿さんの提案を受けて高月さんが

「それ良いですね。

 でも、心が折れたら終了って言うのは甘いと思います。

 ここは徹底的に叩くべき。

 アイツラ無駄にプライドが高いから、トラウマを植え付けるレベルで叩くべき」


「その通りです。

 この際、一切の手加減無く叩き潰すべきです。

 幸い次の合同訓練には、あのゴミ部隊が居るのよ。

 あのスケベオヤジの鼻っ面をへし折るべきです」

 石破さんが気勢を上げると、他の3人も同調した。


 何事なのか訳が分からない?

 私が首をかしげていると


「今度の合同訓練に参加する2部隊なんだが、今日来ていた防衛課の部隊なんだ。

 まあその1つが、ハッキリ言って問題児の集まりだ。

 4月に特務防衛課に移籍された馬鹿共の出身部隊と言ったら分かり易いかな。


 部隊長の荻原おぎわらが、権威主義者で野心家の小物だ。

 しかも、神崎派に所属していながら、軽度の処分だけで済まされた悪運の強いだけの奴だ。

 その影響を強く受けた奴の部下は、何事も上から目線、暴言やパワハラが横行している問題部隊だ。


 実力は、中の上ってところだ」

 どこか苦虫を声色だった。


 高月さんが、鼻息を荒くして

「その様子だと、接触したのね。

 何か言われた?

 というか、下らない嫌味を言ってきたんでしょう」


「ああ、その通りだ。

 全く、相手の実力も把握出来ない無能のくせに

 『子供の下に着くなんて落ちぶれたな。

  子供を指揮官にしなければ成らない程人材不足か?

  必要ならうちの部隊から人を出そうか。

  何なら、俺が指揮官になってやっても良いぞ』

 とほざきやがった。

 だから

 『お前など論外だ。

  それに、有能な指揮官なら年齢も階級も関係ない。

  彼女は、論理的かつ合理的な指示を出す優秀な指揮官だ。

  比べるだけ無駄だ』

 と言っておいたぞ」


 高月さんは、どこか楽しそうに

「それなら、相当荒れたでしょう」


「ああ、いつも通り階級と年齢を出して自分が上だとほざいていたから

 『階級?年齢?関係ないだろ。

  戦術課は、防衛課の上位組織で、総ての点で決定権の優先順位を持っている。

  即ち、戦術課に所属している俺の方が上官だ。

  お前の行為は、上官に対する反逆行為だ。

  反逆者として処分するぞ』

 と言うと悪態をつきながら引き下がっていったぞ」

 と言って、含み笑いを漏らしている。


「あら、面白い状況になっていたのね」

 と由寿さんが答える。


「あー、誤解が無い様に言っておくが、防衛課愛知方面隊の荻原部隊以外は、至ってまともだからな。

 防衛課愛知方面隊の大隊長や補佐も、荻原部隊を持て余しているのが実態だった。

 でも今は、奴の部隊は解散が決定していて絶賛人員整理中。

 あいつ自身も降格のうえ、部隊解散後は後方整備部隊の事務職への移動が決定している。


 そんなアイツにとって、現場戦場で大きな武功を上げる事が状況を変える最良の手段とでも考えていたのだろう。

 そんな中、今回の魔物の襲来だ。

 あいつに取って絶好の機会チャンスと出張ってきたのだろうが、防衛課の突入が禁止され、武功を上げる機会を目の前で指を加えて眺めるだけに終わったのが現実だ。


 事実、アイツは防衛課の総指揮官の大隊長補佐の清水1尉に突入を何度も進言していたらしい」

 久喜さんの言葉を聞いて

「ああ、だから本部に突入許可依頼が来ていたのですか。

 突入されるより、万が一に備えた防衛線の構築の方が重要だったので、却下しましたが、現場の1担当官からしつこく突入許可申請が来ていると報告を受けたので

 『防衛戦線を維持せよ。

  戦線を放棄した場合、反乱と見做みなし、貴君らも掃討する。

  以上』

 と返す様に指示しました」

 と言うと、大爆笑がマイクロバスの中を襲った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る