第177話 ゴールデンウィーク(5)
マイクロバスは、引き続き久喜さんが運転している。
マイクロバスの中は、静かだった。
恵ちゃんと田中さん達4人が寝ているからだ。
私達が戻った時には、既に寝ていた。
おそらく恐怖と緊張の連続だったので、それらから開放された安堵感のためだろう。
そんな彼女達をぼんやりと眺めていると
「どうしたの。疲れたのかしら?」
と高月さんから聞かれたので
「いいえ、大丈夫です」
「なら、どうしたの?」
「いえ、思った以上に彼女達にストレスを掛けていた様だと思っていただけです」
「そうね。
入庁したばかりの新入隊員が、初実戦を体験した後もこんな感じになるわね。
それにしても、神城さんは凄いわね」
「ん?何がですか?」
「何がって、空間の亀裂を破壊していたでしょうが」
「ええ、していましたが、それがどうかしましたか?」
空間の亀裂の破壊方法は、知っていたので実践しただけなのだけど?
高月さんは、盛大に溜息をついて
「あのね、空間の亀裂の破壊なんて高難度の事なのよ。
私達なんて、あんな小さい空間の亀裂を1つ破壊するだけでも、全力を出さないと壊せないのよ」
「え?そうなのですか?」
周囲を見渡すと、後ろに座っている護衛役4人も頷いている。
「それに空間の亀裂を破壊している所を見たのは、うちの班長と
しかも、大量破壊なんて聞いたことも無かったわよ」
後ろに顔を向けた由寿さんの顔には苦笑いが浮かんでおり、護衛役4人も頷いている。平田さんはちょっと不思議そうな顔をして聞いている。
「今回の空間の亀裂は、30秒から1分位しか開いていなかったので、空間の亀裂から出てきた魔物を狩った方が魔力の消費も少なく、継戦時間も長くなります。
それに数も多かったので、破壊しようとは考えませんでした」
と
私は、反応に困って乾いた笑いを漏らすしか無かった。
「それに、駐屯地での地位も絶対的な物になりましたね」
「それは間違いないね。あの意地っ張り共も、今回の件で心が折れたでしょう」
石巻さんと石原さんが不思議な事を言った。
「どういう事です?」
「ほら、神城教導官が駐屯地で行った模擬戦に参加出来なかった人や、模擬戦で負けたけど負けを認めない人達って、それなりの数居てね。
模擬戦に参加出来なかった人達は、神城教導官の強さを実際に見ていないから信じていない人が多くて、負けを認めない人達は、自分達が無意識に手加減した為に負けたとか、自分達の方が戦闘経験なのだから実戦なら上だと思っている人が多いのよ。
それに駐屯地での教導でも、嫌なら教導を受けなくて良いなんて言ったもんだから、
高月さんの説明に理解は出来た。
そういう人間が一定数居る事は想定済なので、何も問題も無い。
「その反骨心で、強くなるなら何も問題が無いのです。
それが、今回の大規模な魔物の襲来と討伐に何の関係があるのですか?」
「今日応援に来た人達のほとんどが、そういった人達だったのよ。
だから長時間の戦闘で、全体を
しかも、サイクロプスを瞬殺。
これ程の実力差を見せつけられたら、嫌でも素直に従うわよ」
「それにあの戦闘で、最も討伐数が多く、最も多く余力を残していたのも神城さんだ。
俺も含め、皆あまり余力が残っていなかった。
戦闘能力、継戦能力の差を身をもって知ったと思うぞ。
だからだろうな、事後処理班との引き継ぎの際のあいつらの気合の入り様と言ったらな」
と言って、久喜さんは大笑いしだした。
久喜さん達は、私の本当のランクを知らないから仕方がない。
確かに私は魔力配分を気にして戦闘を行っていたけど、本来なら気にする必要は無い。
それどころが本気の魔力解放を行えば、その魔力量と威圧だけで今回出現した低級な魔物は、
当然、魔力解放の影響範囲内居る全ての生命にも同じ事が起こるので、安易に使えない代物だ。
文字通り、一瞬にして死の大地を作り出せる事は確認済なのだ。
「ああ、それと、防衛課の一部の連中が寝ぼけた事を言っていたので、次の合同訓練の時にシメないといけないな」
久喜さんがかなり渋い声を上げた。
高月さんが、底冷えする低音
「久喜君、それってどういう状況?」
と尋ねる。
久喜さんは、ため息混じりに
「警察と消防の指揮官が、神城さんの実力を理解出来ないのはまだ良い。
だが、防衛課の総指揮官以外の現場指揮官が、神城さんの実力を理解出来ていなかった。
実際、俺が簡易洗浄を受けている最中に、神城さんの事を聞かれたしな。
まあ、確認する事は間違っていないが、外見で相手を侮る事とは無能すぎる。
指揮官レベルが、この体たらくは許されない」
「その通りね。
あの時、神城さんは魔力を抑えていなかったのに、外見に惑わされて実力を把握出来ないなんて、指揮官失格だね。
次の合同訓練が楽しみね」
高月さんが悪い笑みを浮かべ、護衛役4人も悪い笑みを浮かべ肯いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます