第176話 ゴールデンウィーク(4)
飛び降りてきた隊員達によって魔物の数は一気に減ったが、まだ空間振動は収まっていないので、魔物は大量に湧き続けている。
私は、指揮を取りながら取りこぼしを中心に討伐を進める。
封鎖エリア近辺に報道ヘリが多数飛来している。
機動戦略隊の輸送ヘリが、封鎖エリア上空で報道ヘリの牽制を行っている。
現場上空は、侵入禁止エリアに指定されるのだが、それでも沢山集まってくる。
上空も決して安全という訳ではないのだが、ある程度以上の高度があれば大丈夫と思っている節があると、聞いた事があったな。
機動戦略隊の応援部隊が到着してから20分が経過した頃、一際大きな空間振動が襲った。
私の位置から北方向100m先に巨大な空間の亀裂が生じた。
その影響で、無数の小さな空間の亀裂が生じた。
インカムから、この状況変化に対する戸惑いの声が聞こえる。
このままでは、処理しきれずに封鎖エリア以外に漏れ出すと判断した私は
「空間の亀裂の大量破壊を行う。各自自衛しろ」
そう怒鳴りつけると、多数の小さな空間の亀裂に向けて
なにせ小さな空間の亀裂は、総数が300を超えるのだ。
それら全てを正確に全てを破壊する事は出来なかった。
位置は全て把握出来ても、私の位置からだと建物や史跡の死角に入ってしまう場所はどうしても取り残してしまう。
そして、巨大な空間の亀裂も破壊出来なかった。
「こちらからの死角に空間の亀裂が残った。
各自処理をしろ。
デカブツは、私が処理する」
『了解』
指示を終え巨大な空間の亀裂を見ると、丁度亀裂から大型の魔物が姿を現した。
全高20m弱の1つ目の巨人、サイクロプスもしくは、キュクロープスと呼ばれるランクB7の魔物だ。
手にはその体格に見合った金棒を持ち、全身は革らしい物で作られた鎧を着ている。
サイクロプスは、上空を飛ぶヘリコプターの音と風が気に障ったのかそちらを向き、睨みつけている。
私達の後方を飛んでいるヘリコプターに気を取られている為、私達に気づいていない。
サイクロプスが、攻撃に移り掛けた瞬間を狙いすまして、直径20cm、長さ3mの水晶の槍を目、口、心臓に目掛けて高速で撃ち込む。
サイクロプスは、防御も出来ずに目、口、心臓を貫かれ、吹き飛ぶ様に仰向けに倒れた。
周りから歓声が上がるが、平田さんが
「まだだ、アレくらいでサイクロプスが死んだりしない。
直ぐに回復する」
と忠告を入れる。
当然、私もそれを理解しているので既に次弾の用意をしている。
次弾は、上空30m程の高さに幅10m、高さ3m、厚さ3cmの巨大な直刀両刃の水晶のギロチンを用意し、サイクロプスの首目掛けて高速で撃ち出す。
サイクロプスは自身の右手で心臓に刺さった水晶の槍を抜いた直後に、水晶の刃によって首を切り落とされた。
サイクロプスは、寝転んだまま手で水晶のギロチンをどかして、頭を手探りで探している。
サイクロプスがギロチンをどかしている間に、直径50cm、長さ6mの水晶の槍を、上空から頭に2本、身体に10本打ち込み地面に縫い付けた。
そして、周囲を確認する。
空間振動も消え、封鎖エリア内の空間の亀裂も全て消えている。
サイクロプスで打ち止めだった様だ。
発生した魔物もほぼ討伐が終わっている。
その後、サイクロプスの身体が頭を手探りで見つけ、身体に戻そうとするが、頭も身体もまともに動かす事が出来ず、ジタバタと暴れていたが次第に弱くなり、ついに生命反応が消えた。
「各自、状況を報告せよ」
そう告げると各自から『討伐完了』の報告が次々上がる。
全員からの討伐完了報告を受けたので、本部に討伐完了の報告と事後処理班の投入要請を行う。
サイクロプスが現れた名城公園北部を集合場所として、集合の号令を掛ける。
まあ、機動戦略隊の隊員達は、30秒と掛からず私の元に集合したんだけどね。
これだけ広域かつ長時間の閉鎖を街中で行うと、事後処理には対魔庁だけでなく、警察と消防の協力が必要である。
その為、事後処理の話しには、警察と消防の現場指揮官も同席する。
なので、非戦闘員と同席させると色々とややこしくなるから、田中さん達は平田さんと共にマイクロバスに戻って貰った。
集合場所に集まった事後処理班の代表達は、私の姿を見て驚愕していた。
色々と言いたい事や思いもあると思うが、取り敢えず異論を言わせない為に先制して名乗りを上げた事で、
その後、指示を出すとテキパキと動き始めた。
決して、私の背後で無言で威圧する機動戦略隊隊員のせいでは無いと思いたい。
久喜さん達は、防衛課が持ってきた簡易除染で除染を行ってから、マイクロバスに載せていた予備の服に着替えている。
その間に輸送用ヘリが名城公園野球場に着陸し、応援に駆けつけた機動戦略隊隊員を回収して撤収する。
名古屋城や名城公園の駐車場に駐車している自動車を移動させる為、封鎖の一部が解除された。
これらの駐車場には、事後処理の為の本部や機材置き場になるからだ。
自動車の所有者が、自車に乗り込み駐車場を出ていく。
それに合せて私達が乗ったマイクロバスも出て行く。
私達の乗ったマイクロバスは、一旦西に進路を取り、その後南回りにぐるっと周ってから訓練校に戻る。
こうする事で、マスコミの目を誤魔化す事も出来る。
そして、公式発表では、私達はここに居なかった事になる。
ああ、それと、ヘリコプターや高所から撮影していたマスコミや野次馬の映像に、私達は写っていない。
何故なら、空間振動を起こした空間は、時空間が歪んでおり、肉眼以外は真っ黒な
この影響は、時空振動が収まってもしばらく効果が残る為、私達の映像は残らない。
それに、サイクロプスを討伐した後に、私達の周囲には半径10mの半円形の防御結界を2m程宙に浮かした状態で張っていた。
この結界の効果の一つに、結界の境界面の光の位相をずらす効果を持つ。
その為、外部からだとその場所には何も無い様に見えてしまう。
当然、その後の事後処理班との面談や平田さん達の移動、マイクロバスに戻る時も、上空にこの結界を張っていたので写ってはいないはずだ。
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