第32話 ショッピング Side:霜月

 Side:霜月

 昼食を終え、隊舎の自分の机に戻ってきた所で携帯電話に着信があった。

 電話の相手は、若桜であった。

 内容は

「明日土曜日に優ちゃんのご家族と彼女の衣服を買いに行くので一緒に行きませんか?」

 という内容だった。


 若桜が私に声を掛けた魂胆こんたんは理解できる。

 私が、彼女のことを気にしていたことと、私に保護官の代わりをさせようとしているのだ。


 偶然にも、明日の予定が全く無かった。

 地域防衛隊所属の旦那は、当直勤務。

 中学2年生の娘は、試験勉強の為のお泊まり会

 朝、二人を送り出せば、一日自由になる。


 だから、私はその誘いにのった。


 当日の朝、旦那と娘を送り出した後、若桜と合流してショッピングモールに向かう。

 ショッピングモールで氷室と合流して神城家の到着を待つ。


 集合時間10分前に、神城一家が到着した。

 優ちゃんは、母親に手を繋ぎ、頬を赤らめ涙目でうつむき気味に歩いた。

 その恥ずかしがる内気な少女の姿は、人目を引く容姿と相余って、周囲の人達から注目を浴びていた。

 周りからも、特に女性からの「かわいい」とか「お人形みたい」の声が多く聞こえる。


 私達は、合流しお互いに挨拶をした後、今日の行動予定を決める。

 優ちゃんのお父さんが別行動する事になった。

 確かに女性陣の中に混じって娘の下着の購入に付き合うには、男性には辛いだろう。


 優ちゃんは、左右に母親と若桜に手を繋がれ、背を妹に舞ちゃんに押されて下着売り場に入った。

 この場所に、恥ずかしさのあまり真っ赤になっている姿は、あまりにも可愛らしい。

 しかも、氷室が馴染みの女性スタッフにブラジャーのフィッティングが初めてな事を伝えている。

 そのため周りの人からは、初めて自分のブラジャーを買いに来た内気な少女にしか見えないだろう。


 フィッティングを終えて戻ってきた優ちゃんのサイズ表を元に、それぞれが似合いそうな下着を次々と持ってきては、優ちゃんに合わせて吟味ぎんみしている。

 本人は、シンプルで地味な物を希望しているが、明らかに皆暴走している。

 確かに、こんな可愛い子の下着選び、さらに見せる度に可愛らしい反応をするのではな。

 ただ、若桜・氷室、そんなセクシー系は、早すぎるだろう。

 舞ちゃんも、あからさまに子供仕様の物は、悪ふざけすぎるだろう。

 優ちゃんの母親の京子さんは、実用性と可愛いを併せた物を選んでいた。

 私は、つぶしがきくショーツ、サニタリーショーツ、スポーツブラとシンプルながら可愛い物を選んだ。

 ある程度集まったところで、優ちゃんを前にして品評会を行い可否を決めていく。

 最終的に7点程と、スポーツブラ等の補助下着で落ち着いた。

 品評会の最初に、別枠に入れられたサニタリーショーツ等を見て疑問に思っていたようだが、店員に教えてもらって理解したら真っ赤になって可愛かった。


 寝巻きや室内着を選ぶ際は、着ぐるみパジャマを持って来てちょっと騒動になった。

 氷室が猫、舞ちゃんが犬でどちらが似合うか優ちゃんを前に力説しながら選ばせようとしていたが、優ちゃん自身は嫌がっていた。

 断りきれず受け入れかけたが、若桜がベビードールやネグリジェを持ってきて二人よりマシっと言うことでこちらを受け入れていた。

 私と京子さんは、使い勝手の良い普通の寝巻きを選んだよ。


 靴は、まあ、普通のスニーカー系とローヒールのパンプスを選択。

 周りが何か言う前に若桜が、「成長期だから、足に負担の少ない靴のみね」の一言でこの2足で決定した。まあ、デザインとかで揉めてはいたが。


 ボディケア用品は、若桜の独擅場どくせんじょうだった。

 むしろ、ここぞとばかり全員で色々教えてもらった。

 私は、仕事柄生傷が絶えないから、色々と諦めていた面もあるが娘のためにもなるので、しっかり勉強させてもらった。


 荷物も多くなり、お昼時という事もあり京子さんの旦那さんと合流して、昼食を取るお店を決めてから我々は席取り、旦那さんは一旦荷物を車に置きに行った。


 旦那さんが戻ってきた所で、料理を注文して雑談に花を咲かせた。

 午後は、八重花やえかのお店で外着アウターを数点買って本日のお買い物会は終了の予定だ。

 あと数点の買い物で終わりという事で旦那さんも一緒に行くことになったが、我々がここを一番最後にした理由は、ここがからだ。

 それに、八重花が、午前中は忙しいから可能なら午後に来て欲しいと言われていた。

 それを聞いて、何事も無く終わると思えなかった。


 食後、八重花のお店を訪れる。

 八重花は元同僚で、部隊の同じもしくは近い趣味人達集めて、デザイン・制作・販売まで手掛けるお店を出してしまったのだ。

 店の佇まいを見て、優ちゃんと旦那さんは固まっている。

 まあ、普段使いの外着アウターを買いに訪れたお店がロリータファッションのお店では、困惑するのも仕方ないか。

 舞ちゃんは、やっぱり女の子だからこういう服に興味があるみたいだ。

 さっそく、お店に入って行った。

 優ちゃんも、若桜に手を引かれお店に入っていく。

 その顔は、周りに助けを求めているが、京子さんもロリータファッションに身に着けた優ちゃんに興味津々きょうみしんしんの様だ。

 私もロリータファッションに身を包んだ優ちゃんには興味があるが、あまりにも絶望的な顔をしていたので、「大丈夫だ、ここの店長に用があるだけだ。それとも、興味があるなら一着用立ててもらうか」と声を掛けた。


 八重花を紹介して、早々にロリータファッションを勧められて困惑していたが、もう一つのお店を紹介されて、安堵したのも束の間、モデルを依頼されて目を白黒させてた。

 八重花には優ちゃんが、条件付き一般保護だと事前に連絡済みだったのにモデルを依頼してくるとは、想定していなかった。

 若桜が問いただすと、費用を引き合いに出された。

 たしかに、八重花のお店の商品は、リーズナブルではあるが決して安くはない。

 普段使い出来て、Dランク相当の身体能力強化を使っても非常破れにくい服を取り扱っているのだ。

 そのため、見栄えの良い丈夫な服が欲しい人が訪れる隠れた人気店なのだ。


 モデル代として、商品を上下セット6点+コート1着を提供すると言っている。

 普通に買うと、30万円相当だ。

 優ちゃんの外見は非常に目を引く。

 そのため、カタログや店頭ポスターに使いたいなど普段なら即NGだ。

 まず間違いなく、そこから個人情報が漏れるからだ。しかし、八重花のお店なら漏れる可能性は非常に低い。

 なにせこの店の殆どの従業員は、元対魔庁の関係者だ。

 店頭にいる店員は、必ず戦闘系部隊経験者が数人いるし、法務関係に詳しい者も多数いる。

 荒事になっても、対応可能なので認める事になった。

 あと、八重花が太和教導官の奥さんだと教えたら、かなり驚いていたな。


 お店の奥にある撮影所フォトスタジオに移動した。

 店舗の最奥に設置された撮影所フォトスタジオは、奥行き5m、幅15mの空間に、店舗口から入って右手に撮影場所と更衣室、左手に控室、正面に待機所となっている。

 撮影場所は、縦横3m幅になっており、全周囲に高解像度のカメラを25台設置している。

 カメラは、設置されている場所を知らないと分からない様に工夫され、照明等も設置されているのに狭くなっていない。


 八重花曰く、最近の機材は高性能小型化されたので可能になったと言っていた。

 配置されているカメラが見えない様にしているのは、被写体を緊張させない為と全周囲で撮影できる事で資料的にもカタログ的にも良い映像が撮れるとの事。


 真横の更衣室は、撮影場所側と待機所側の2箇所に出入り口があり、導線上にカメラが無いように設置されているので、スムーズに移動できるようになっている。


 八重花が優ちゃんを控室に連れて行く。

 私達は撮影場所と控室の間の待機所に設置されている椅子に腰掛けた。

 周りの様子を見ると普段より多くのスタッフと明らかに多すぎる衣装が用意され、更衣室の前に準備されていた。


 戻ってきた八重花が撮影の予定を伝える。

「撮影予定時間は、3時間。

 新作の秋物・冬物各10点と資料用の10点の計30点の撮影を予定してるわ。

 1着あたり5・6分で撮影するから見逃したくなければ、今の内にトイレ等を済ませた方が良いわよ。

 撮影開始は、優ちゃんの準備が済次第だから、10分後ぐらいかしら。

 あと、撮影データは、厳選したものを一部ご家族にお渡しします。

 なにか疑問や質問があったら、適当なスタッフに聞いてね」


 八重花は、説明を終えると更衣室の前に行き、スタッフと撮影で着る衣装の打ち合わせを始めた。


 スタッフの一人が、私達にペットボトルのお茶とお茶請けのお菓子を持ってきた。

 その時、舞ちゃんがスタッフに質問していた。

「あの、今回の撮影で1着当り5・6分って言っていたんですけど、どの様に撮影するのですか?」


「撮影の着替えは、身体強化能力を持つスタッフが行いますので、着替え自体は1分程度、撮影も撮影ブース中央で2・3ポーズだけですので手早く済みます。

 撮影ブースも全周囲カメラで撮っていますので撮り逃しは無いですよ」


「ファッションショーの様に出たり入ったり?」


「その通りですよ。

 だから、油断すると見逃しますよ」


「おお、楽しみ」


「それでは、もう少しお待ち下さい」

 そう言い残して、作業に戻っていった。


 バスローブを着た優ちゃんが更衣室に入って行った。

 更衣室から出てきた優ちゃんは、黒い長袖のシャツのミニワンピの組み合わせで大変可愛らしかった。


 撮影は、ブース中央まで行き、メインのカメラマンの指示に従ってポーズを決めたら撮るを繰り返し、衣装替えの繰り返し。

 まずは、秋物のファッションを6点、ロリータファッションを4点(各種1点ずつ)の10点を撮影終わった所で小休止。


 休憩中に化粧等を直し、同様に冬物を撮影する。

 その後の資料用と称したものは、バラエティに飛んでいた。

 ファンシー系、お姫様系、制服系、戦闘系少女アニメキャラ、ウエディングドレス等・・・絶対、数日前から仕込んでいただろ。

 若桜が連絡を取ったのが昨日で、ここまでスタッフや衣装を準備出来るはずがない。


 忙しく動き回る八重花を捕まえ確認すると、太和教導官が優ちゃんの能力試験を担当した事を話しており、大まかな容姿と体格を聞いていた。

(名前や能力等の情報は、漏らしていなかった)


 そして、若桜が面倒を見ていると聞いたから最初の週末にここに連れてくる可能性が高いと踏んで、衣装やスタッフを準備していたという。

 また、午前中忙しかったのは、撮影用の衣装の一部がが今日の午前中納品になってしまったからだそうだ。

 八重花の相変わらずの判断力・行動力に脱帽する。


 撮影が終わり、優ちゃんが着替えの為に控室に戻ってから少しして、館内に緊急放送が入った。

 八重花は直ぐに、スタッフにお客様の避難誘導を指示して私達の方へ来る。

 スタッフは、機敏に行動を開始して店舗側に移動した。


 八重花と相談して、私と若桜が残って優ちゃんとスタッフの山崎(元部下)を待つ。氷室と八重花が、神城一家の避難を担当して分かれる事になった。


 大物が出ないと良いのだが。

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